第105話 ササッと作れるおいしいごはんといえば……
「フェリク様、いったい何をお作りに!?」
「まさか我々までお米の神様の料理を拝見できるとは……」
使用人用のキッチンへ案内され、調理器具などの説明を受けたあと。
僕は早速ごはんを炊くことにした。
お米や調味料の類は、クライス工房からたくさん持参している。
――いや、にしても。
お米の神様って何なんだよ!
先ほどから周囲で料理人たちがざわざわと僕に注目している。
炊飯はスキルだし、見てても何も分からないんだけど……。
「……え、えっと、よろしければ皆さまも召し上がりますか? お米はたくさんありますし、炊飯はスキルで一瞬なので」
「な、なんと……! しかし、王女様を差し置いてそんな……」
「王女様に作るものとは別です」
「ふ、ふむ。それなら今後の参考にもなりますし……料理長、いかがでしょう?」
「そ、そうだな。フェリク殿が作るお米料理、ぜひとも学ばせていただきたい。冷蔵庫にある食材は、好きにご使用いただいてかまいません」
正直に食べたいって言えばいいのに……。
まったくこれだから大人は。
僕はため息をつきたい気持ちをこらえ、持ってきた材料、そして見せてもらった冷蔵庫の食材からメニューを決定する。
今日は人数も多いし、材料もいろいろあるし。
「――では、チャーハンを作ろうと思います」
「ち、ちゃーはん。初めて聞く料理ですな」
「炊いたご飯を、刻んだ食材や卵と一緒に炒めて味つけしたものです」
「なんと! ごはんを炒めるとは……!」
「冷蔵庫の燻製肉と卵、それからねぎをいただけますか?」
「もちろんです。よろしければお手伝いいたしますが」
料理長と思われる男が、そう願い出た。
でも、料理長に食材を切ってもらうのも気が引けるしな……。
「大したことはしないので大丈夫ですよ」
「そ、そうですか……」
なぜかしょんぼりされてしまった。
「まずはねぎを小口切りに、燻製肉を角切りにして、卵を溶いて塩とコショウを混ぜておきます」
「とても小さく切るんですね?」
「小さく切った方が、ごはんとの混ざりがいいんですよ」
僕の説明から普通の炒め物を想像していたのか、料理人たちはみな驚いた顔をしている。
「下準備ができたら、フライパンにごま油を熱して燻製肉を炒めます。香ばしくいい感じに焦げ目がついたら卵を加えて、半熟の状態でごはんを投入して……ここからはごはんがベタっとしないように、パラパラになるように一気に混ぜます」
「おおお……! さすが神様、子どもとは思えない手さばきだ」
うしろで見ている料理人が感嘆の声を上げる。
というか神様やめれ。
――にしてもこれ、子どもの力では思った以上にきついな。
まあ成人男性だって重みを感じるサイズだもんな。
早く大人の肉体を手に入れたい……。
「……これをまんべんなく混ぜればいいんですか? 変わりましょう」
「え……」
「任せてください。これでもわれわれは、王家に勤める料理人ですよ」
料理長はそう、ウインクをして見せる。
そして――圧倒的なフライパンさばきで見事なチャーハンを作り上げていく。
まるでフライパンの重さが消えたかのごとく、ひょいひょいと動かしてはごはんや食材を循環させている。
す、すげえ。これがプロか……!
「――あ、そろそろねぎを加えて、最後に醤油という調味料を回し入れます」
「この黒い液体が醤油ですか?」
醤油を加えると、ジュウウウっという音とともに香ばしい香りが立ち昇る。
料理長はフライパンを振りながら、周囲の料理人たちはそれを見守りながら、初めて嗅ぐ醤油の香りに興味津々だ。