第104話 仕事前の腹ごしらえに
「キッチンを使う際は、私が立ち会うのがルールとなっています。ですので、私もご一緒させていただきます」
「分かりました。お手数おかけします」
「それから申し訳ありませんが、キッチンに入れるのはフェリク様のみとなります。フローレス様には、今後も自室でお待ちいただいてください。ここは、王女様のお食事をお作りする神聖な場所ですので」
デリはそう頭を下げる。
その様子から、彼女がこの仕事に責任と誇りを持っているのが伝わってきた。
「王女様の命令とはいえ、僕みたいなただの平民がこのような神聖な場に立ち入るなんて……なんだか申し訳ありません」
「そ、そんなっ! 私も平民ですからっ! それに、お米の神様と言われているフェリク様の調理を生で見られるなんて、光栄です!」
デリは胸の前で祈りを捧げるかのごとく手を組み、キラキラとした眼差しをこちらに向ける。
お米の神様とかなんとか聞き捨てならない発言があった気がするが、どうやら歓迎されているのは本当らしかった。
「このお屋敷にも、平民の方がいらっしゃるんですね。少しほっとしました」
「ふふ、貴族様は料理はしませんからね。私は元々、王都のレストランで働いていたんですが、あるコンテストで優勝しまして……ぜひ王城で料理を作ってほしい、とお話をいただいたんです。その後、王女様の入学とともにこちらに……」
僕、そんなすごい人が見てる前で料理するのか。
スキルのおかげですごい人扱いされることも多いけど、実際はただの米好き男でしかないのに!
「それに、ほかにも平民はいますよ。下働きや裏方の仕事を支えているメイドの多くは、平民出身です。家柄は、平民の中ではそれなりに……という方が多いですけど。――っといけない、そろそろお昼の時間だわ。フェリク様、またのちほど!」
デリは一礼して、キッチンの奥へと戻っていった。
僕はメイドさんに屋敷内を簡単に案内してもらい、それから部屋へ戻って時間まで待つことになった。
――にしても腹減ったな。
今日は朝からバタバタしていて、朝食も食べていない。
できれば調理開始前に、軽くでも腹ごしらえをしておきたいところだ。
「あの、使用人用のキッチンをお借りすることはできますか?」
「――へっ?」
「実は朝から何も食べてなくて……。何か作らせていただければ、と」
「も、申し訳ありませんっ! てっきり食べてからいらっしゃったものと……。すぐに用意を……あ、でも今、料理人たちは休憩に……」
メイドさんは困った様子でおろおろしている。
僕みたいな平民の子ども相手でもこうして誠意を持って対応してくれるんだな。さすが王家に仕えるメイドさんだ。
「大丈夫ですよ。自分で作れます」
「し、しかし、アリスティア辺境伯のところからいらっしゃった大事なお客様にそのような……っ! で、でも今は……」
「気にしないでください。僕料理好きですから」
「か、かしこまりました。ではご案内いたします」
やった!
……あ、ついでにフィーユ様とおじさんも食べるか聞いてみよう。