第102話 領主様の娘フィーユとの再会
王都の貴族学校へは、馬車に乗り込んで1分ほどで到着した。
普通に移動すれば数週間はかかる距離だ。
さすが、王族お抱えの従者が持つスキル【転移】の力だ。
王族は、6歳になると王都の貴族学校へ通うことになっている。
そのため学校内には王族専用のエリアが設けられているそうで、僕たちはそこへ向かうことになった。
「――学校の中にお屋敷があるんだね」
「そうみたいだね。私もここに来るのは初めてだからね。にしてもさすがは王族だ、学校内の仮の住まいとは思えない……」
「学校といえど、どこにどんな危険が潜んでいるか分かりません。このお屋敷は、王家の方々をお守りするためのものでもあるのです」
屋敷の前で馬車から降りると、王家のメイドさんがそう教えてくれた。
食事も学食のものではなく、信頼できる専属シェフが作ったものを1人で、もしくはごく親しい友人たちと少人数で召し上がるそうだ。
――王族もいろいろと大変なんだな。
そしてそんな中で王女様とお近づきになれたフィーユ様さすがすぎる!
あの子、絶対将来大物になるな。
まあ辺境伯の娘だし、そういう意味でも約束されてそうだけど。
「お待ちしておりました。遠方からお越しいただきありがとうございます。執事のフレッドと申します。カタリアナ王女は現在授業に出ております」
「エイダン・フローレスと申します。こっちはフェリク・クライス。彼がお米開発を手掛けている少年です。あの、アリスティア家の娘が来ているはずなのですが」
「はい。先ほど到着して、今はお部屋にいらっしゃいます」
僕とアリア父は、屋敷内にある客室へと案内された。
「フェリク――! ……と、エイダンさん。ひ、久しぶりね」
フィーユは僕の姿を見るなり目を輝かせたものの、横にアリア父と執事がいることに気づき、コホン、と咳をして落ち着きを取り戻した。
会うのが久々なこともあって、僕1人だったら抱きつかれていたかもしれない。あ、危なかった……。
「お久しぶりです、フィーユ様。アリスティア様の代理で参りました」
「お父様は来られないのね。せっかく王女様とお会いできる機会なのに……」
フィーユは不満げにため息をつく。
「フェリク様とフローレス様のお部屋は、この1つ下の階にございます。荷物はお運びしておきます」
執事はそう、一礼して去って行った。
部屋には今、フィーユと僕、それからアリア父だけだ。
「フェリク、アリアは元気?」
「――へっ? え、ええ。元気ですよ。メイドは辞めて、今はクライスカンパニーの見習い社員として働いています」
横でアリア父が凍り付く。
実際はそんなことはないと思うが、アリアとフィーユは僕を巡ってのライバル関係にある、ということになっているためだろう。
「そうなのね、ならよかったわ。あんなことがあったし、メイドとしては居づらいのではないかと心配してたのよ」
「その節は娘が本当にご迷惑を……」
「アリアは何も悪くないわ。悪いのは、意地悪なメイドとわたくしよ。あのメイド、うちであんな騒動を起こしたこと、今頃とても後悔しているんじゃないかしら」
フィーユは見下すような、蔑むような表情で吐き捨てるようにそう言った。
やっぱり貴族様を怒らせちゃいけないな、うん!