第10話 お米はあんまり、なんて言わせない!
「――え? お米を使った新しい料理?」
「そう。ぜひアリアにも食べてほしいなって」
「えぇ、でも……。と、とりあえずあがって」
家族におにぎりを披露し、好評を得た翌日。
僕はアリアのためにおにぎりを作り、フローレス家を訪れていた。
アリアの家はこの村の長を務めている家系で、今はアリアのおじいちゃんが現役の村長をしている。
ちなみに父親は貴族を相手に商売もしているらしく、この村一番のお金持ちだと父が話していた。実際、家も大きい。
……とは言っても、あくまで「この小さな村の中で一番」って話なんだけど。
「フェリク君じゃない。いらっしゃい」
「おばさんこんにちは!」
「ちょうどおいしいケーキがあるのよ。食べていくでしょう?」
フローレス一家は、揃ってアリアに負けず劣らずの人の良さで、貧しい一村人である僕が遊びに行ってもいつも快く迎えてくれる。
「ケーキ――! 食べる! あ、でも今日は、僕も食べてほしいものがあるんだ」
「あら、何かしら? それならリビングでみんなで食べましょうか。少し散らかってるから片付けるわね」
「あっ、ママ、あの――」
アリアが何か言おうとしたが、アリア母は気づかず行ってしまった。
「大丈夫だよ、カユーみたくマズくないから」
「本当に~? フェリクには悪いけど、私お米はあんまり……。フェリクだって、いつもおいしくないって言ってたじゃない」
「はは、まあそうなんだけどさ。でも、これは違うから! びっくりするよ」
「うーん……」
リビングへ行くと、アリア母が紅茶を用意してくれていた。
僕はそのテーブルに、持ってきた包みを置く。
「……これ? 開けてもいい?」
「うんっ!」
アリア母が包みを開き、弁当箱の蓋を開ける。ドキドキ。
「…………こ、これは?」
「お米で作った、『おにぎり』っていう食べ物だよ」
「お米? お米ってこんなに白かったかしら……」
「カユーとは似ても似つかないけど、粒の形はたしかにお米ね……」
僕は【品種改良・米】からの【精米】について、そしてお米を炊くという調理法、「おにぎり」について説明した。
「そ、そうなのね? うちは米農家じゃないからよく分からないけど、見た目はちょっと可愛いわね。せっかくだしいただいてみましょうか」
「……じ、じゃあ1つだけ」
アリア母は、おにぎりを3人分1つずつお皿の上に乗せ、フォークを添える。
おにぎりにフォーク! その発想はなかった!!!
ちなみにおにぎりの中には、小さな角切りにしたチーズと枝豆、それから塩焼きにした鮭をほぐしたものを混ぜて入れてある。
アリアが大のチーズ好きなため、少しでも身近に感じてくれればと昨日の夜に考案したものだ。
「それじゃあいただくわね」
「いただきます……」
アリア母もアリアも、まずはフォークで先端をちょこっとだけ崩し、口へと運ぶ。
この世界で米にいい印象を持っている人間なんてそういないだろうし、お金に困っていないフローレス家は普段はカユーを食べることもない。
そのため、どんな味がするのかと緊張しているのだろう。
「あ、あれ? お米なのにおいしい。もちもちしてるっ!」
「本当、おいしいわ。お米ってこんな味だったかしら。甘みがあって、周囲にまぶしてある塩気との相性がとてもいいわ」
「――ねえ見てママ、これ、チーズが入ってる!」
「あら本当! お魚と枝豆も入ってるわ。なんだかワクワクするわね」
2人は中の具材に気づき、驚きの声をあげる。
そしてそのまま具材と一緒にごはんを食べ、目を輝かせて顔を見合わせた。
ふっ、これは落ちたな!
米のおいしさ、そして懐の深さを存分に味わうがいい!
「すごい、私これまでは絶対にパン派だと思ってたけど、これならお米がいいかも」
「臭みもないし、これなら何とでも合いそうよね。うちもお米にしようかしら。こんな食べ方、よく思いついたわね。すごいわフェリク君」
「えへへ、ありがとう。お米、安くしとくよ!」
「まあ! フェリク君ったら商売上手!」
アリア母はおかしそうにクスクスと笑う。
それにつられて、アリアも笑いだした。
――やばい、何だこれ。
嬉しすぎて、楽しすぎて顔がにやけそうだ。