第八十三話 確執③
三郎はジェイド、ジェフリー兄弟と思わぬ再会を果たした。この兄弟がなぜアルベルクにいるのか、三郎が知る由もない。
それは兄弟とて同じ事。なぜ三郎とジャックがアルベルクにいるのだろうか。しかし二人にとって、特にジェイドにとってみれば、今日という日は好都合であった。
「神崎!俺と戦え!お前のせいでグラディウスは無くなり、無くなり……」
ジェイドがそう言って唇を噛む。そして魔力を昂らせ、その拳に炎を纏うと、三郎を睨んだまま身構える。
「お前のせいで、マテウス学長は死んだんだ!」
そう言うと同時に、ジェイドが三郎に向かって飛び掛かる。
「ほお、短期間で随分腕を上げたと見る」
飛び掛かってくるジェイドを見据えて、感心した様子の三郎が呟いた。その態度は余裕綽々としていた。
そして、落ち着いた様子のまま拳を翳すと、距離を詰めて来たジェイドの顎に打ちつけた。
「っ!!??」
三郎のカウンターパンチを喰らったジェイドは、即座に脳震盪を起こし、糸の切れた操り人形のように、地面に倒れ込んだ。
「強くはなっている。されど改善の余地はあるのう」
三郎はそう言って、地に伏したジェイドを見下ろした。
完全に気を失っているようで、三郎の声はジェイドには聴こえていなかった。
「ジェイド!」
一瞬の出来事に、しばし呆然としていたジェフリーだったが、すぐに目の前の状況を飲み込み、ジェイドの元へと駆け寄る。マルチダとアルダもそれに続いた。
「大丈夫、気を失っているだけよ……」
動揺を見せつつも、癒し手であり医療の知識が豊富なマルチダが、ジェイドの容体を確認する。
「どこかで休ませた方がいいわ。アルダ、館の者にすぐ知らせてジェイドを運んで」
「は、はい!」
マルチダは自身の腹心であるアルダに指示を出す。
アルダは三郎に警戒する視線を送りつつ、オスカー邸の門をくぐっていった。
そんな彼女を見送った後、マルチダが三郎に視線を移す。
「神崎、そう呼ばれていたわね」
「左様。俺は神崎三郎。些細あって、今はここのオスカー殿に世話になっておる」
三郎がオスカー邸に向けて顎をしゃくった。
鎧を纏っているかのような筋骨隆々とした巨大な肉体。
猛禽類ように鋭い眼光を放つ双眸。
そして、あまりにも異様な魔力の波動と得体の知れない何か――
マルチダの目に映る三郎がある男の姿と不意に重なった。
「あなたの噂は聞いているわ。グラディウスを壊滅させ、高名な魔術士、マテウス・デュエルハルトを死の淵に追いやった……」
三郎を見据えたまま、マルチダが言う。
隙を見せるべき相手ではない。三郎を前にして、マルチダは本能的な恐怖を抱いていた。
「なんと言うか……そのマテウスって者を殺した覚えはないんだが……」
首を傾げる三郎。
そんな三郎を尻目に、マテウスの死に対して反応を示したのはジャックだった。
「学長、死んだのか……」
その表情に、いつものようなニヒルな笑みは浮かんでいない。どこか寂しげな、そんな表情でジャックは言葉を漏らした。
「そういうあなたは何者?」
マルチダがジャックに目を向ける。
ジャックは懐から煙草を取り出しつつ、ぶっきらぼうに答える。
「ジャック・レイン」
既に自身の正体を知る三郎やジェフリーの前だからか、自身の出自を示す苗字を隠す様子がなかった。
「レイン……炎の亡霊ね――」
マルチダは驚いた様子だった。ジャック・レインと言えば先の戦争でその名を轟かせた"三戦帝"の一人であり、ジェイドとジェフリーの叔父でもあるのだ。
(これは……思わぬ遭遇だわ)
今日、自身がアルベルクに来た理由を忘れそうになるくらいの衝撃だった。
そんなマルチダに対して、ジャックが訊く。
「で、あんたは誰なんだ?」
訝しげでありつつ、白けたような雰囲気の口調だ。
しかし、自分の名を名乗るよりもジェイドをどこかで休ませる必要がある。
「それは館に入ってから教えてあげるわ」
マルチダがそう言ったのと同じくして、マルチダと共に館から数人の使用人が慌てた様子で姿を見せた。
未だ気を失ったままのジェイドは心配するジェフリーに付き添われ、使用人によって館の中に運ばれていった。
そんな彼らと入れ替わる形で、門前に姿を見せたのは館の主人、オスカー・アルベルクだった。
「なんの騒ぎかと来てみりゃあ、これは一体……」
マルチダと三郎達へ交互に視線を泳がせながら、オスカーが言った。
そんな彼に対して、高圧的かつ冷たい口調でマルチダが言う。
「オスカー、私は買い物に来たの、すぐに館に迎え入れなさい」




