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雷鳴の武神  作者: ジュリ
第一部 巡り帰りしもの
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第六十九話 奴隷市場の騒動

 

 「あ、アレクサンダー・スレイドだって……!?」


ベルバードの指先が恐怖で震えていた。

その男の姿を思い浮かべるだけで、トラウマになった日の事を思い出してしまう。

恐らく、かの男にトラウマを植え付けられた人間は、このアルベルクにまだまだいるだろう。


「そんなに恐ろしいのか?スレイドって男は」


三郎が訝しげに尋ねる。

ベルバードは怯えた目を辺りに巡らしていた。


「アレクサンダー様を始めとするスレイド家の人間には関わらない方が良い……!下手な事をしてアレクサンダー様を怒らせようものなら……!うぇっ!!」


吐き気を催したベルバードが口元を押さえた。

その様子を見て、三郎とジャックは顔を見合わせた。

両者の顔には、笑みが浮かんでいた。


「噂通り……かなり凶暴な男みたいだな」


「それでこそ戦い甲斐のあるというものよ……!」


神崎三郎がエルガイア王国にきた理由――それはアレクサンダー・スレイドとの戦いを求めての事だった。


「い、今アレクサンダー様と戦うって言ったかい!?」


ベルバードは三郎の言葉を聞き逃さなかった。


「ああ、そうだ。噂に聞く"地上最強の男"と一戦交えたくてな」


屈託のない笑顔のまま、三郎が答えた。

その笑顔を見て、ベルバードは思い出した。神崎三郎がグラディウスで起こした未曾有の天災を。

そして予感した。エルガイア王国が灰と化す惨憺たる光景を。


「や、やめた方がいいよ……」


そんな言葉しか出てこなかった。目の前に立つ男の狂気が、ベルバードの思考を妨げていた。


「まあとにかく、オスカー殿に会わせてくれんか?其方ならオスカー殿に取り次ぎできるだろうに」


恐れ慄くベルバードの心中を他所に、三郎が能天気な様子で頼み入れる。


(どどど、どうしよう……!)


ベルバードが返答に窮していた、その時だった――



「誰か!助けてくれ!奴隷が逃げ出した!!」


「武器を持ってるぞ!!」


突如として喧騒が巻き起こった。

アルベルクで商人として働くベルバードは、聞こえてきた声の内容から、どこで何が起きているのかすぐに見当がついた。


「ま、まずい!」


喧騒の方へとベルバードが一目散に駆け出した。


「お、おい待て!」


三郎とジャックも、急いでベルバードの後を追った。




―――――――――――――――――――




 商業都市アルベルクを仕切る豪商、オスカー・アルベルク。彼の扱う商品は武器だけではない。

 アルベルク商会は大きく二部門に分かれており、一つが武器を取り扱う武器商隊。もう一つは奴隷を扱う奴隷商隊であった。


 そして――今まさに騒動が起きているのは、街の一画に設けられた、奴隷商隊が取り仕切る奴隷市場である。


現場に駆け付けたベルバードが目にしたのは、牢と鎖を破り、暴れ回る()()達の姿だった。


「一体どうなっている!?」


商品――即ち奴隷達は武器を手に持って、商会の人々と激しい戦いを繰り広げている。

しかし、数で劣る商会側は劣勢に立たされていた。

そんな商会の人員の中に、護衛に囲まれた敬愛する上役の姿をベルバードは確認する。


「オスカー様!」


ベルバードは剣戟の隙間を縫って、オスカー・アルベルクの元に駆け寄った。

 爛々とした光を目に宿す中年の男。その髭面に残る幾つもの古傷は、オスカーが今の地位に辿り着くまでに多くの修羅場を潜り抜けてきた証拠でもあった。


「おう!ベルじゃねぇか!お前も祭りに参加しにきたようだな!」


オスカーはそう言うと豪快な笑い声を上げて、恰幅の良い体を揺らした。


「お怪我はありませんか!?」


「なにさ、心配いらねぇ。優秀な護衛が5人もいるからな!」


自身の周りで戦う護衛達を指さすオスカー。

しかし、そう言った側から、護衛の一人が奴隷に斬り殺された。


「今4人になった」


オスカーが苦笑いする。


「と、とにかく!ここから逃げましょう!何があったかは後で聞きます!」


このままではオスカーの命が危ない。ベルバードが必死の形相で逃走を促すが、オスカーは首を横に振った。


「いや、残念だがそうもいかねぇ。奴隷どもの()()()が市場の路地を完全に封鎖してやがる。俺とした事が、完全にしてやられた……!」


「協力者ですって!?」


「ああそうだ。少し前に取り引きを持ち掛けに来たアゼルニア人の女がいただろう?奴はアゼルニア人に化けた東域の諜報員だったのさ。そんで取り引きの期日の今日、奴は仲間を引き連れてこの市場に現れたって訳だ」


つまりこの反乱は、同胞を救う為に東域の諜報員が用意周到に仕組んだ物なのだ。

ベルバードが入って来た市場の入り口も、既に女の仲間が封鎖していた。


「今その女はどこに?」


聞いたところで事態が好転する訳でも無いが、混乱したベルバードは咄嗟にそう尋ねた。


「へっ、あそこで偉そうに指揮を取ってやがる」


オスカーが憎々しげに吐き捨てて指差す方向では、背の高い茶色い髪の女が剣を掲げ、大喝していた。


「同胞に屈辱を与えた賤しき商人に罰を下せ!」


女はオスカー達の方を睨みながら、剣を振り下ろした。


「うおおおおお!!!」


奴隷達の士気が一層高揚する。喚声をあげた奴隷達が、武器を振り回しながらオスカーの首を挙げようと殺到する。

オスカーの護衛はその勢いに飲まれて、次々に討ち取られた。


そして遂に、オスカーとベルバードは東域人の奴隷に達取り囲まれてしまった。


二人は今、絶体絶命の窮地に立たされていた。


「へへへっ……これまでか」


額に脂汗を滲ませて笑みを浮かべるオスカー。

一方のベルバードは恐怖に顔を引き攣らせ、呼吸を荒くしていた。


(殺される……!!)


ベルバードが目を強く瞑り、死を覚悟した。


しかし、彼らの命日は今日ではなかった――


「おうおうおう!祭りがやっとるではないか!」


雷のようによく響き渡る低音の声。ベルバードはその声に聞き覚えがあった。


「三郎……!?」


反乱の起きている市場に現れたのは、神崎三郎とジャック・レインだった。



 オスカーとベルバードを囲む奴隷達の後方、三郎とジャックは東域人達と対峙していた。


「何者だ!市場の入り口は封鎖していたはずだ!」


反乱の指導者と思われる東域人の女が三郎達に尋ねる。


「ああ、それなら……ベルバードの後を追ってここに入ろうとしたら、急に斬り掛かってきた故――俺が斬った」


三郎があっけらかんとした様子で答える。


「そんな……選りすぐりの精鋭達だぞ……!?」


驚愕した様子の女を尻目に、三郎は取り囲まれたベルバードを見つけて大声で問い掛ける。


「おーいベルバード!困ってるなら助けるぞー!」


ベルバードはすぐさま大声で返事を返す。


「た、助けてくれー!!!」


ベルバードの返答に、三郎は口端を上げて愛用の太刀を鞘から抜いた。


「うるさいなぁ」


それを見た女が、仲間に指示を出す。


「やれ」


太刀抜いた三郎に、東域人達の殺意が一斉に向けられる。

ここから始まるのは、一方的な虐殺だった。


女が指示を出し、東域人が武器を構えた瞬間、既に三郎の太刀は彼らの体を斬り裂いていた。


血の雨が降った。


十数人いた東域の刺客は一瞬で全滅した。


「……何が……起きた……!?」


同胞の血を浴びながら、女が呆然と虚空を見つめる。


その様子を見ていた東域人の奴隷達が、オスカーとベルバードの囲みを解き、女を守る為に三郎へ襲いかかる。


しかし、立ちはだかったのはジャック・レインだった。


「俺もちょっとだけ運動したいんだ」


ジャックは自らに振り下ろされる剣を物ともせずに、体術のみで奴隷達を薙ぎ倒して行く。


「何だこいつ!攻撃が効かない!当たらない!」


奴隷達が驚愕する。

ジャックは炎へと変化し、一切の攻撃を無効化する異能の持ち主。

奴隷達の剣がジャックに触れられるはずがなかった。

魔術を使わずとも、圧倒的な強さで奴隷を制圧したジャック。


「剣の振りが遅いんだよ」


地面にうずくまる奴隷達に向かってそんな言葉を吐いた。




 一方、三郎は女と対峙していた物の、彼女を殺そうとはしなかった。


「こやつ……戦意喪失しておる」


女は同胞の無惨な最後を目の当たりにして、茫然自失となってその場にへたり込んでいた。


「殺すまでもない」


戦意無き者と戦う趣味は無い。三郎は静かに太刀を鞘に収めた。


 

 三郎とジャックの活躍で事態は好転した。

一気に優勢になった商会の人々が、東域人達を次々に取り押さえて行く。


奴隷達が再び鎖に繋がれて行く中、三郎の元にオスカーとベルバードが駆け寄ってきた。


「怪我はないか?ベルバード。それと……この人は?」


三郎が血に濡れた顔を拭いながら尋ねる。

ベルバードが紹介する前に、オスカー自身が名を名乗った。


「ありがとう!アンタは命の恩人だ!俺の名はオスカー・アルベルク」


三郎にゴツゴツとした手を差し伸べるオスカー。

それに対して三郎は、血が拭いきれていない顔に不敵な笑みを浮かべて、オスカーと握手を交わす。


「俺は日ノ本から来た神崎三郎。以後お見知り置きを」


ベルバードは命の危機から脱したが、緊張が緩む事は無かった。

三郎はある危険な目的を持って、オスカーを探していたからである。


しかし、そんな事など知る由も無いオスカーは、商人然としたへつらうような笑顔を浮かべて、三郎への感謝のもてなしを考えていた。


「三郎殿、命を救ってくれた礼がしたい。我が館に是非来てくれないか?」



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