第六十八話 商業都市アルベルク
グラディウスでの死闘から2ヶ月近く経過していた。
三戦帝クレス・レイオス、ジャック・レインの両名と戦った戦闘狂、神崎三郎。
彼が新たな目的を持ちやって来たのは、アポロヌス四大国の一つ、エルガイア王国はアルベルクという都市だった。
アルベルクは城壁に囲まれた都市で、エルガイアでも有数の繁栄を誇っていた。
「ここもまた、自治都市とかいう商人の街なのか?」
開け放たれた荘厳な市門を潜り抜けると、家屋がひしめき合う広大な街並みが広がっていた。
グラディウスやヴェネットに比べると道は細くて、どことなく閉塞感の漂う雰囲気だった。
しかし、三郎にそれぞれの都市独特の空気感を楽しむ観光趣味は無い。
彼は今、腹が減っていた。
「よし!アルベルクに到着した事だし、とりあえず飯にしよう!なぁ、ジャックよ!」
三郎が肩を並べて歩く男にそう語り掛ける。
男はニヒルな笑みを浮かべて頷いた。
「賛成だ。腹が減っては何とやら、だ」
グラディウス郊外で勃発した、三郎とジャックの戦い。
三郎の人智を超えた剣技によって、ジャックは斬り伏せられ、敗北。
そんな致命傷を負ったジャックを助けたのも三郎なのであった。
三郎はマリー・ミシュレを助けた時のように、うろ覚えの出鱈目陰陽道の呪術を駆使して、生死の境を彷徨うジャックを見事蘇生したのだ。
ちなみにこの術をマテウスにも使おうとしたが、怪し過ぎるとして断られた。
そんなこんなで、三郎とジャックは再び旅を共にする事になった。
そもそもこいつ友達だし、一人より二人の方がなんか楽しそうじゃね?的なノリである。
ジャックは三郎に殺されかけたが、別に恨んでもないし、変わらず友達だと思っている。それは三郎とて同じだった。
類は友を呼ぶ。変人同士の奇妙な友情は、死闘を通して更に深まっていた。
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大通り沿いの酒場に腰を落ち着けた三郎とジャック。
固いライ麦パンと渋いワインを口に運びながら、三郎が少し前の事を思い返す。
「しかし、トルミア王がああも簡単に難民を受け入れるとは思わなかった」
グラディウスの戦いの後、ローラが引き受けたグラディウスの難民受け入れ大作戦の助太刀をする為、三郎はトルミアの王都に向かった。
トルミア王には歓迎されたが、事のあらましを説明すると、少々苦い顔をされた。
しかし、三郎がめげずに圧力を――否、懇切丁寧にお願いをすると、トルミア王は首を縦に振ったのだ。
(だいぶ魔力を解放して脅してたから、王も頷くしか無かったんだろうな)
ジャックも三郎と共にトルミア王に謁見したが、三郎の強引さには、正直ちょっとだけ引いた。
「まあでも、水晶を通して俺の動きが監視できるのは王にとっては僥倖だったのであろう」
三郎は自分の交渉術によって万事上手く行ったと思っている。
「うん、そうだね」
ジャックはテキトーに返事を返した。
そしていつものように、いい女は何処かにいないものかと辺りを見渡し始める。
三郎は三郎で、大きな口を開けてひたすらパンに齧り付く。
はっきり言って、この空間において二人は浮いていた。
そんな目立つ旅人二人に、ある人物が声を掛けに来る。
「あれ?三郎じゃないか」
三郎を知るその人物。黒い肌にスラリとした長身の男。
三郎もまた、彼の事を知っていた。
「おう!ベルバードではないか」
三郎とベルバード、実に2ヶ月ぶりの再会である。
ベルバードも偶然この店に昼食を取りに来ていた。
「魔術学校で会ったっきりだな!」
「まさかこんな所で会えるとはね」
再会に湧き立つ二人。一方のジャックは不思議そうな顔をしている。
「三郎、エルドア人の知り合いがいたのか」
「ああ、実はな……」
そうして三郎はベルバードとの出会った時の話を始めた。
同時に、ベルバードにもジャックの紹介をする。
ベルバードがジャックの話を聞いて酷く驚いたのは言うまでもない。
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三郎達は食事を終えると、アルベルクの街に繰り出した。
そこら中から聞こえる金属を叩く音が独特な雰囲気を醸し出していた。
「鍛冶屋がやたらと多いな」
三郎が通りを見渡して言った。
「アルベルクはエルガイアの武器庫と言われるくらい武具の製造が盛んなんだ。かく言う僕も武器商人の元で働いているしね」
ベルバードの言葉通り、アルベルクは街全体が武器工房と化したような場所だった。
街の大部分の区画が、武具を作る鍛冶屋の工房で埋め尽くされているのだ。
「で、そんな街を仕切ってるのが……かの有名なオスカー・アルベルクって訳か」
ジャックが口にした人物の名は、アトラニア指折りの豪商として知られていた。
「オスカー・アルベルク。僕の商いの師匠であり、アルベルク商会の上役さ」
ベルバードは豪商オスカーの元で働く商人である。
三郎は彼がただの歴史オタクだと思っていたが、それは失礼な間違いだ。
そんなベルバードの方を見据えて、ジャックが三郎に語り掛ける。
「それにしても三郎。お前は運がいいな、まさかここに来て直ぐにオスカーの腹心に出会えるとは」
「……?もしかしてオスカー様に用があってアルベルクに来たのかい?武器の買い付けとか」
ベルバードが訝しげに尋ねた。
しかし三郎とジャックは首を横に振った。
「オスカー殿に用があるのは確かだが、武器を買いに来た訳じゃないんだ」
「それじゃあどんな用事なんだい?」
そう尋ね直したベルバードに対して、三郎の目に鋭利な光が宿る。
「オスカー殿に聞きたい事があってな。ある男の居場所なのだが……オスカー殿はその男と懇意らしいから知っているのではないかと思ってな」
「ある男……?それって一体……」
嫌な予感がしていた。それでも、ベルバードは尋ねずにはいられなかった。
そして、次に三郎が口にした人物の名を聞いて、ベルバードは身震いする事になる。
「アレクサンダー・スレイド……俺が探している者の名だ」
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