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雷鳴の武神  作者: ジュリ
第一部 巡り帰りしもの
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第六十三話 戦闘狂

 

 何故ジャックは神崎三郎の前で、魔術を使ってしまったのだろうか。命を危険に晒す行為だというのに。

 

 ジャックは"三戦帝"の一人である。つまり、三郎の狙う獲物でもあるのだ。

 ジャックは自分を狙う人間とあえて行動を共にする事で、命の危険――即ちスリルを味わっていた。

そのスリルこそが人生の醍醐味なのだ。

 そして今、スリルを追い求める欲求は極限に達していた。


 そうなった理由、それは神崎三郎とクレス・レイオスの戦いを間近で見たからである。

 

 二人の決戦を見てジャックは思った。

最強であり最狂の魔術士と戦えば、この上ないスリルを満喫できるのではないか、と。

居ても立っても居られなくなっていた。

自分の秘める力を晒し、三郎を挑発する機会を伺っていた。


 そして、時は今。ジャックは諍いの仲裁に乗じて、自身の異能を解放した。

背中に受ける獰猛で禍々しい闘気と剣のように鋭利な視線。

ジャックは呆然と立ち尽くすジェイドを尻目に、背後を振り向いた。


「どうしたんだ三郎?やけに機嫌が良さそうだ」


神崎三郎は笑っていた。唸り声を上げて威嚇する獰猛な獣のような顔つきで笑っていた。


「やはり只者ではなかったようだな、ジャックよ」


「まあそうだな……俺は世間じゃ"三戦帝"と呼ばれている」


三郎はジャックの底知れない実力に勘付いていた。そして、ジャックもそれを自覚していた。


「ローラよ爺さんとの話が終わったのなら、ジャックと俺はここを出るぞ」


三郎がローラに目を向ける。獰猛な光が宿る彼の目を見て、ローラは身震いした。


「これから……何をしでかすつもりだ……?」


僅かに上擦った声で、ローラが三郎に尋ねる。

口を歪めたまま、三郎がそれに答えた。


「決まっておる、ジャックと戦うのだ」


戦狂いの鬼にとって、時や場所は関係無い。その機会が訪れれば、ただその為だけに行動する。

 狂気的な男の姿を前にして、グラディウスの人々は再び強い恐怖を感じていた。

 そんな空気を読み取ったマテウス・デュエルハルトは重い足取りながらも、三郎とジャックの間に割って入る。


「これ以上市民に対して恐ろしい思いはさせたく無い……!もうこれ以上は……!」


必死の形相で訴えるマテウス。

三郎は戦意を滾らせたままマテウスを見ると、歪な笑顔を浮かべた。


「案ずるな、ここでは()らん。ジャック、場所を変えるぞ。邪魔の入らん広い所で勝負だ」


まだジャックは勝負を受けると言ってないのに、三郎はジャックが勝負を受けて立った程で話を進めていた。


「ったく……無神経な野郎だぜ」


悪態を付きつつも、笑みを浮かべるジャック。

こうなってしまえば、最早戦いは避けられない。

むしろ、ジャックはこの状況を望んでいた。


「いいだろう……その話乗った」


ジャックは場所を変える事を了承した。

その返事に三郎は機嫌良さそうに頷くと、ジャックの後方に立つジェイドの方を見遣った。

そして、ただ呆然としているジェイドに対して、三郎は思いもよらない言葉を告げる。


「黒髪の童よ、我らはこの丘の上からよく見える所で戦う。それ故、我らの戦いをしかと見届けよ。興味あるだろ?」


ジェイドは返答に窮した。

何故この異国人はこんな事を言ってきたのだろう。

――何故、自分が異国人の戦いを見たいという事が分かったのだろう。

二人が戦うと耳にして、ジェイドの胸は高鳴っていたのだ。


この時、三郎は既に気付いていた。ジェイド・レインも()()()()の人間であるという事に。


「……さ、参るぞジャック」


未だ要領を得ていない様子のジェイドを尻目に、三郎はジャックに声を掛ける。

ジャックはおもむろにタバコを取り出して口に咥える。

そして人差し指の先から火を出してタバコにそっと付けると、美味そうな顔で煙を吸い込んだ。


「いいだろう……やるからには、てめーを消し炭にしてやるよ三郎」


崩壊したグラディウスの郊外にて、再び神の力がぶつかり合おうとしていた。




―――――――――――――――――





グラディウス難民キャンプのある丘。

その周りは低く緩やかな丘陵地帯が広がっている。背の高い木はそれ程生えておらず、見晴らしが良い地形だった。

 故に、神崎三郎とジャック・レインの戦いの全貌はキャンプ地の丘の頂上からよく見渡せるだろう。


ジェイドの目に今映っているのは、遠くに見える三郎とジャックの両雄。夕焼けに照らされた二人は対峙し、戦いが始まるのも時間の問題だった。

そんな中でも、ジェイドの心の内で、三郎の言葉が反芻していた。


『興味あるだろ?』


超常的で圧倒的な強さを、異国人は持っていた。

彼に対する怒りの感情や憎しみがある一方で、自分が戦いその物に対する純然な好奇心を抱いている事にジェイドはまだ気付いていなかった。


 しかし、三郎は気付いていた。

恐れを知らず、猛火のように熱く滾る戦意。三郎は自分を睨むジェイドの目からそれを感じ取った。

ジェイド・レインはいずれ、真なる強者へと成長すると気付いていた。

 

尤も、自身の()()()に気付いていないジェイドからしてみれば、三郎の言葉は実に不可解であった。

しかし、そんなジェイドが無意識の内に胸を高鳴らせているのもまた事実なのだ。

複雑な胸中の中、遠くに見える異国人を見据えジェイドは呟いた。


「この戦いで……答えが分かるのか……?」


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