表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雷鳴の武神  作者: ジュリ
第一部 巡り帰りしもの
61/99

第五十九話 必要なもの

 段々と陽が傾き始めていた。

赤みがかった光に照らされる瓦礫の都市、グラディウス。


「崩壊して尚、この街は美しいのだな」


エルガイア王国の王太子バルカは、丘の上から崩壊した街を眺めてそう呟いた。

それを側で聞いていた商人のベルバードは苦笑いしていた。


「何とも……やはり殿下は常人には無い感性をお持ちだ」


瓦礫の山と化したグラディウス。ベルバードから見れば惨憺たる光景である。

しかし、バルカはこの光景に感動を覚えているようだった。

そんな王太子が、いつものように爽やかな笑顔でベルバードに語り掛ける。


「神代の遺物……か。君が図書館で見つけた古い書物に書かれている事が本当なら"守護者の剣"以外にも遺物が存在する事になるね」


バルカは神代の遺物について興味を持っているようだった。

先程マテウス・デュエルハルトが作り出した強力な魔術結界は、神代の遺物の力によるものであり、バルカはそれを間近で見ていた。


「あんな強い力を秘めた武器が他にもあるって考えると、何だかワクワクするよ」


バルカは好奇心が強い、そしてその好奇心から来る奇抜な発想もまた彼の魅力であり、強みだった。

ベルバードは、バルカが自らの野望の為、神代の遺物を利用しようと考えているのだと思った。


「確かに、神代の遺物は興味深いです。歴史学の観点から見てもそうですが……何より殿下の計画に役立つかもしれませんね」


バルカの意向を汲み取り、バルバードが言う。

しかし、バルカはその言葉に対して首を振った。


「そうだね、確かに面白いが……関わるべきではないだろうな」


意外な言葉だった。バルバードが目を丸くしてバルカに尋ねる。


「殿下も神代の遺物の力をご覧になられたと思うのですが……利用するに値しないとお考えですか?」


ベルバードの問いに、僅かに笑みを浮かべるバルカ。

そして次にこう言った。


「器に過ぎたる力を振えば、力に耐えられずに滅び去るだけさ」


エルガイアの王太子は、神の力は人の争いにおいては過ぎたる物だと考えていた。

 今日の闘技場での戦いで、神の力を持つクレス・レイオスと謎の異国人は絶大な力を示した。

神話のような熾烈な戦いが繰り広げられ、それによってグラディウスのほとんどが瞬く間に崩壊した。

 しかし、そんな中で多くの市民の命が助かったのは、"守護者の剣"の結界がグラディウスを覆っていたからである。

人智を超えた神々の力のぶつかり合いを見たバルカは、それを過ぎたるものとして捉えた。


「ベルバードよ、私が計画しているのは、人間である私が考える夢の為の計画なのだ。人の力が及ばない物は理解の範疇を超えて制御ができなくなる。

制御できないものを支配するなど幾ら時間を掛けても叶うまい」


バルカは好奇心旺盛で発想も奇抜だ。しかし、同時にリアリストでもあった。

時には無謀に見える彼だが、バルカ程身の程を弁えている者は中々いないだろう。


「私は神の絶大な力の存在は勿論信じるが、それを頼ろうとは思わないんだよ」


そんなバルカの言葉に、べルバードは感心していた。

自信。それがバルカのカリスマ性を形作るピースの一つなのだろう。


「素晴らしいお考えです……」


ベルバードがそう言うと、バルカは少し照れ臭そうに足元に視線を落とした。


「まあでも、持ち主を利用する事はあるかもしれないけどね」


そして、悪戯っぽい笑みを浮かべてそう付け加えた。


「持ち主……メリセント・デュエルハルトですね」


ベルバードが言った。

バルカがメリセントに近付いたのは神代の遺物を目的にしたからではない。彼女の血筋が必要であるからだ。


「彼女の父、アルガー・プロウス。今のプロウス家は本来なら追放されたアルガーが継いでいるはずだった」


「となれば、アルガー亡き今、正嫡はメリセントになる。そのメリセントがエルガイアに戻れば、ロドリック・プロウスは立場を失う」


「ロドリックが失脚すれば、私の兄ゲルトは後ろ盾を失う」


そうなれば、バルカの王位継承を反対する勢力は力を失い瓦解する。


「ゲルト王子やロドリック殿はさぞ驚くでしょうね」


「今からそれを想像すると、何だか笑えてくるよ」


計画の成功を信じて、バルカとベルバードが笑い合っていた時だった。


「殿下、アズラク達が戻って来ました」


バルカの側近ライラが報告にやって来た。

ライラを見たベルバードが身を低くして挨拶をする。


「これは、ライラお嬢様。ご機嫌麗しゅう」


そんなベルバードに対して、ライラは苦い顔をしていた。


「お嬢様はやめてくれ、それにそんなに堅苦しくするな」


「失礼しました、おじょ……ライラ様」


危うくお嬢様と言いかけたベルバード。彼女を見るとどうしても畏まってしまう。

ベルバードの上役が、()()()()()を恐れているからである。

ライラの一族への上役の態度が、ベルバードにも移ってしまっているのだ。


「律儀だねベルバードは」


そんなベルバードを見て、バルカが一言。ベルバードはただ苦笑いを返した。

そしてバルカはライラへと視線を向け直す。


「どうだった?アズラクはジークと()()を確保できた?」


「はい。今はその囚人から尋問を行っています」


「流石アズラク、私が命じる前に既に尋問を始めていたようだね。で、進捗は?」


「それが……どうにも要領を得ないようでして」


ライラが気不味そうに言う。

それに対して、特に気にする様子もなくバルカは「そっか」と頷くと、彼女に背を向けて崩壊したグラディウスの方を眺め始める。


「アゼルニアとクラセナーの関係性を知れるかもしれない貴重な情報源です。早く口を割らせるように伝えて参ります」


焦っているのかライラが厳しい口調で言った。

そんな彼女に穏やか声でバルカが返す。


「まあ、焦らなくてもいいさ。それについては大方想像はつくし。アズラクの尋問は裏取りみたいなもんだからね」


その言葉に、ライラは驚いた様子だった。

そんな彼女を尻目に、バルカは更に言葉を続ける。


「まあでも、わざわざ囚人を国に連れて帰る必要は無いさ。エルガイアに帰る明日の朝までに何も情報を得られなかったら……」


「……どう致しますか?」


ライラが静かに尋ねる。

尋ねたが、彼が何を言うのか想像するのは易い。バルカはリアリストで、時間の無駄を嫌う。

そんな王太子はただ一言だけライラに命じた。


「殺せ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ