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雷鳴の武神  作者: ジュリ
第一部 巡り帰りしもの
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第三十話 未遂

 アーリとエレナが去った後、戦いの起きた路地には民衆の混乱が残されていた。

破損した建物から逃げ出す人々や騒ぎを聞きつけた野次馬が続々と集まりだしている。


 そんな様子を静かに見ていたのは、トルミアの騎士二人。 

アーリとエレナの謀議を宿屋で知ったローラとマリーは、三郎監視の任務の元、アーリ達の後をつけてこの路地までやって来ていた。


「しかし奴らは何者だったんだ…」


戦いの一部始終を物陰から見ていたローラが、人々が群がる現場を見つめたまま言った。


「さあ。でも只者ではなさそうですけど」


戦いの痕跡を見回しつつ、マリーが表情を曇らせる。

 二人の目的はあくまでも三郎の監視。その為戦いには首を突っ込まず、さっきの二人組を追う事もしなかった。

しかし、その二人組のうち一人に見覚えがあった事に二人は引っ掛かりを感じていた。


「あの二人組の女の方、神崎と一緒にグラディウスに入った女傭兵だったな」


ローラが何か考え込むように腕を組む。


「やっぱりそうですよね。ちょっと気になりません?」


マリーもローラ同様に気付いていた。

神崎の近くにいた女傭兵が、謎の狼男と共に神崎の命を狙っている。その理由は定かでは無い。

そして謎はもう一つ。


「奴らが襲った男。あれは一体何者なんだ?」


今瓦礫の下敷きになっている男。なぜ二人組に襲われたのだろうか。


「そういえば…二人があの男を見つけた時、水晶がどうのこうのって」


マリーが戦いの前のやり取りを思い出す。


「ああ、確かに言っていたな。つまり、その男は二人組と同じように水晶を持っていたという事か…」


『おい、綺麗な水晶だな』


狼男が戦いの前に、敵へと投げ掛けた言葉。

ローラ達は物陰に隠れていた為、カイルが持っていた水晶は視認していなかった。

しかし、エレナとアーリを尾行する途中に、二人がしきりに覗いていた水晶は確認している。

 その水晶は、どうやら地図のような役割を持っているようだった。それもローラ達が持つ、魔法の方位針の力を持った三郎追跡地図と同じで、目的の物の位置を示すような。

エレナとアーリの道中のやり取りから、それは察する事ができた。


「二人組と、あの男の持っていた水晶が同一の力を持つ物だとするなら…」


「瓦礫の下敷きになったあの男も神崎を探していた事になりますよね…」


「じゃあ、あの男女の他に神崎の命を狙う者がいるという事か」


「そうなりますよね」


ローラとマリーは、神崎三郎が何かの陰謀に巻き込まれている事に気付いた。


「しかし、なぜ神崎を狙う者同士で争うんだ?」


「確かに…手柄を奪い合う感じですかね?」


「目的を同じとする同志とここまで激しい戦闘をするか?それに奴らは顔見知りでは無さそうだったぞ」


戦時のやり取りからして、彼らはお互いを知った仲では無さそうだった。むしろその間から感じられたのは同じ獲物を狙う獣同士の苛烈な敵対意識。


 だがそれは憶測に過ぎないし、考えても埒があかない。

今確かに分かる事、神崎三郎は不思議な力を持つ水晶の持ち主に命を狙われている。

ただそれだけだ。


(とりあえずこの状況をトルミアに知らせねば)


ローラは事態を伝書魔鳥を使いトルミア王の元へ知らせる為、準備しようと決める。


「まずはトルミアにこの事を報告する。行くぞミシュレ」


マリーにそう呼び掛け、この場から立ち去ろうとした時だった。


「待ってローラさん!あれを」


マリーが何かを指差し、はしゃぐような声でローラを引き留める。


「どうしたんだ」


そんなマリーに対してローラは面倒くさそうに振り返り、その指差す方向へと目を向ける。

そして、マリーが自分を引き止めるに値する事態が起きている事に気付く。


 つい先程まで瓦礫の下敷きになって生死不明だったの謎の男が、その瓦礫を押しのけ立ち上がり、気怠そうな様子でこの場から去ろうとしていたのだ。


 あの男は未だ見えないこの事件の真相に近づく手掛かりでもある。


「ミシュレ!お前はあの男を尾行しろ。私は本国への連絡をしておく。何か情報を掴んだらさっきの宿屋まで戻ってこい」


ローラは瞬時に判断を下し、マリーに男の正体を掴むよう命じる。


「えっ…分かりました」


一瞬眉を顰めたマリーであったが、この命令の重要性は理解している。すぐに男の後を追って、人混みに紛れて行った。


「一々面倒くさそうな顔しやがって…」


眉を顰めたマリーへそんな愚痴を溢しつつ見送り、ローラ自身もこの場を後にしようと踵を返した時だった。


「あれ、ローラではないか」


振り向きざまにローラの目に飛び込んで来たのは、忘れようにも忘れられない、巨大な蛮族の姿だった。


「おー、さっき振りだね。会いたかったよ」


そして漏れなく、蛮族の隣には薄ら笑いを浮かべた黒衣の傭兵が立っている。


「…また会ったな」


ローラの顔が引き攣る。

三郎の命を狙う者達は当然三郎に接近する。その暗殺者の後を追ってきたのだから、自分達が三郎と出くわしてしまうリスクがあるのは、これまた当然の事だ。


(何となく嫌な予感はしてたけど…)


ローラはリスクは承知の上で動いていた。しかし、いざこうなってみて、これからの対応を考えると既に疲労を感じていた。

そしてその疲労の種が、ずいっとローラに歩み寄り、彼女の想定通りではあったが、シンプルかつ厄介な問い掛けをする。


「こんな所で何をしておるのだ」


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