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雷鳴の武神  作者: ジュリ
第一部 巡り帰りしもの
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第二十七話 策動

 ――グラディウス 大商人クラセナーの館――


 魔術学校での一件の後、エドワードはグラディウスでの拠点であるクラセナーの館に戻っていた。

エドワードの為に用意された客間にて、彼は豪奢な革の椅子に座り、ある男を待っていた。

やがて、部屋の扉をノックする音が聞こえた。


「入れ」

エドワードの一言で扉を開けて入ってきたのはこの館の主人、クラセナーだった。


「失礼致します」


商人然といった笑みを浮かべながら、クラセナーがエドワードの前に身を進める。


「して、内密な話とは何だ?」


エドワードが足を組みながら尋ねる。  


先程この館に戻って早々、クラセナーが重大な報告があるという旨を伝えて来た。その場で聞こうとしたが、人が多い場で話すのは不味いとの事だった。

どこに敵の目が潜んでいてもおかしくないのが現状であった。


「殿下の知っての通り、古の水晶はアトラニア各地に封印された神代の遺物を監視する為に作られた物でございます。水晶を覗けば、遺物のあるおおよその場所が分かり、その場所に近づけば水晶は光を帯びます」


クラセナーが前置きから入る。この男の癖と言うべきか、何にしても勿体ぶって話をする事が多い。


「それがどうしたと言うのだ。本題を言え」


今日は特別不機嫌なエドワードが語気を強くして言う。

しかし、クラセナーは怯む事なく続ける。


「つまり、水晶が反応を示すのは守護者の剣のみではないと言う事です」


この言葉が意味する事、エドワードはすぐに察した。


「この近くにもう一つ反応があったという事か」


「はい、どうやら今グラディウスには、神代の遺物は二つあるようです」


クラセナーが口端を上げる。彼の言葉を聞いたエドワードは部屋の外で控える、側近のカイル・グレッグを呼んだ。

カイルはいつもと同じく飄々とした様子で、部屋に入ってくる。


「殿下、お呼びですか」


「水晶を持って、遺物の行方を追え」


神代の遺物がもう一つグラディウスで見つかった事をカイルに伝え、それを見つけ、どんな者が持ち主か探るように命じる。


「もし奪取できる機会があれば、持ち主は殺しても構わん」


「暗殺ですか」


カイルがエドワードの言葉を聞き、ニヤリと笑う。

しかし、あくまでも隠密行動である事が前提である。


神代の遺物の存在は公には知られていない。古代にその存在を知った数少ない者達によって、静かに争奪戦が繰り広げられて来た。そしてそれは今も続いている。

アゼルニア王家の他にも神の力を求め、暗躍する者達がいる。


 エドワードがクラセナーと内密な話をしていた事から、呼ばれた理由は神代の遺物に関する事だろうと思っていたカイル。特に気負った様子も無く、クラセナーから水晶を受け取ると、追跡の為館を出発した。



――グラディウス市街――


「しかし、不思議なもんだぜ」


大通りから外れた路地裏。休憩がてら地べたに腰をおろし、水晶を覗きながらカイルが呟いた。林檎の果実程の大きさの水晶の中には、グラディウスの古い街並みが映り、ほんのりと青色と赤色の光を交互に発している。

クラセナー曰く、青色の光は守護者の剣が近くにある事を示し、もう一つの赤い光がまだ見ぬ遺物を示す光らしい。

 かの大商人が神代の遺物に詳しいのは、エドワードにその行方を探るように命じられた後、魔術学校の図書館などで古い文献を読み漁り、自身の隊商に各地を巡らせながらその情報を集めたからだ。

 彼の集めた情報で神代の遺物が見つかった暁には、エドワードによって貴族の身分を与えられる事が約束されている。

「そんなに貴族が羨ましいのかねぇ」

自ら貴族の身分を捨て、遍歴の騎士になったカイルにとってクラセナーの行動の動機はイマイチ腑に落ちなかったが、欲深の無いものねだりと言ったところなのだろう。

あの肥え太った商人は金の他に、今以上の高貴な身分と名声を求めているのだ。


「ま、どうでもいいか」


しかし、カイルには関係のない事だ。今はただエドワードに命じられた任務をこなす事に集中する。

遺物を探す方法は一つ。水晶に映し出された景色を頼りに、光の強弱を見ながら歩き回るのだ。目的の物に近づく程、その光は強くなる。

中々骨の折れる作業だが、手掛かりが全く無いよりマシだ。

 クラセナーの館を出た後、景色と光を頼りにグラディウス中を歩き回っていたカイル。日が傾いてきた頃、水晶の赤い光が強まっているのを感じ、今いる路地裏に辿り着いたのだ。


「さて、そろそろ動くか」


その場で立ち上がり、辺りを見渡すカイル。

この人気の無い薄暗い路地には数軒の宿がある。水晶の光が強まっている事から推察するに、神代の遺物の持ち主はこの辺りの宿に泊まる旅人なのだろう。

そして各宿の前に立ち、水晶の光が一番強く出た所に持ち主はいる。

それを確認する為、宿の前を行き来していた時だった。


「おい、綺麗な水晶だなぁ」


背後から低い声で呼び掛けられる。カイルは咄嗟に水晶を腰のポーチにしまい込んだ。


「俺に用か?」


警戒しながら、後ろを向く。

そこに立っていたのは二人の男女。長い髪を編み込んだ、大柄で猛獣のような顔つきの男と、妖しい色気を漂わせる美しい女だった。


「組織の者なの?」


女がカイルに尋ねる。


「まあ、ある意味そうかな」


カイルは女の言う組織が何を示すのか分からなかったが、正体を明かす訳にもいかず、そう濁した。

それを聞いた女は横に並ぶ男に目配せする。

女を見て男が片眉を上げると、ベルトから短剣を抜き、逆手に持って構える。

カイルを見る彼の目はまるで餓狼のように爛々と光っていた。


「早速で悪いが…死んでもらうぜ」


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