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雷鳴の武神  作者: ジュリ
第一部 巡り帰りしもの
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第二十五話 因縁

 図書館でベルバードと別れた後、学校の中央広場まで駆け付けた三郎。そこで起こっていたのは、彼にとって思いもよらぬ僥倖だった。

強大な魔力の衝突が起こっていたのだ。


「ジャック、助太刀は必要か?」


エドワードに名乗った後、ジャックに問い掛ける三郎。

それに対して、少しの戸惑いを見せるジャック。

臨戦態勢にあって、普段隠している魔力を解放しているジャックは、自らの実力を三郎に気取られる事を恐れたのだ。


(ここで戦って兄貴に勝ったとしても、三郎が俺を放って置く訳がない)


そうすれば、自分の命が危うい。


「そうだな、助けてくれたらありがたい」


その焦りを取り繕うように、いつもの軽薄な様子で口を開くジャック。そして同時に魔力を弱めていく。


「では、俺が戦おう!」


ジャックの言葉に嬉々とした声で三郎が言うと、腰に提げた太刀を抜き放った。陽を浴びた白刃が妖しく煌めいた。

そして、その切先をエドワードに向ける。


三郎の太刀は、彼の祖国において異様な形をして知られていた。その形のぱっと見は日ノ本の武士が使う太刀によく似ているが、身幅が太く、僅かに反りのある刀身は諸刃になっているのだ。

この剣の製作者の意図は読めないが、酷く攻撃的で扱いづらい剣である事に違いは無い。


三郎に剣術の流儀は無い。ただ本能のままに振り回すだけだ。今までの敵を倒すには、それで充分だった。


「友人の頼みでそなたと戦う事にしたが、そなたに戦う気はあるか?」


先程感じたジャックの魔力に匹敵する程の力を、この銀髪の男が持っているのを三郎は見抜いていた。

しかし、無闇に斬りかかる程三郎は狂ってはいない。

あくまでも戦意のある者と正々堂々戦うのが三郎の持つ流儀だ。


「この私に戦いを挑んでいるのか、愚か者」


三郎の不遜な物言いに苛立つエドワード。言い表せない三郎の圧力を感じながらも、負ける気など一切しなかった。

エドワードが鋭く冷たい眼光で三郎を見据える。

それに応じて、三郎が猛禽類のような鋭い眼を向ける。

両者と、周りの人々に緊張が走る。

その時だった。


「それまでになさるのです」


今にも戦闘が起こりそうなこの場に似合わぬ穏やかな声。

一同の視線が声の方に集まる。


「マテウス・デュエルハルト…」


エドワードが苦々しげに声の主の名を呟いた。

そこに立っていたのは、魔術学校の学長である老魔術士の男だった。そしてその傍らには彼の孫娘、メリセントがいた。


「ここは自由都市グラディウスにして、魔術を学ぶ厳粛な場所。これ以上の狼藉はアゼルニアの殿下であろうと見過ごす訳には参りません」


帯刀する剣に手を掛けて、メリセントが祖父の言葉を代弁する。


「いかにも。どうにか収めて貰えませぬか」


孫の様子とは対照的に、優しげな声でマテウスが言う。


マテウス・デュエルハルトと言えば、伝説の魔術王アーサーの再来との呼び声が高い、優れた結界魔術の使い手である。

そして彼と共にいるのは神代の遺物、守護者の剣の所有者にしてマテウスの孫、メリセントだ。


メリセント自身の実力はともかくとして、神代の遺物に宿るとされる絶大な力をエドワードは警戒した。

さらには、あのマテウスまでもこちらに相対しているのだ。

他にもこの戦闘において、エドワードが劣勢となる要素は幾つか存在していた。


(やむを得まい…)


エドワードは自身の不利を冷静に判断すると、ジェイドや周りの者たちへ使っていた魔術を解いた。


「もう良い、クラセナーの館へ戻るぞ」


そして吐き捨てるように、部下のカイル達に命じる。

呆気に取られるカイルや護衛の兵士達。


「ジェイド!」


一方、魔術による氷塊が無くなり自由となったヴィオラとジェフリーは、意識を失い他に伏せるジェイドの元へと、一目散に駆け寄った。

ヴィオラは我が子をひしと抱き寄せると、呟くように呪文を唱える。


「母なる大地よ、哀れな旅人に慈悲と恵みを」


ヴィオラは大地の魔術の特殊系統、回復魔術を操る魔術士であった。彼女による魔術の詠唱と共に、ジェイドの体が穏やかで優しい光に包まれて行く。

やがて、死人のように冷たかったジェイドの体に体温が戻り、意識を取り戻した。


「は、母上…ジェフリー…」


ジェイドが二人に虚な目を向ける。


「良かった!目を覚ましたんだね!」


目を潤ませながら、喜びの声を上げるジェフリー。


「ああ…良かったわ…」


ヴィオラは安堵の息を漏らしながら、再びジェイドを抱き寄せた。


「やはりお父上譲りの素晴らしい魔術でありますな」


そんな親子の元に、メリセントを伴ってマテウスが声を掛けに来る。


「お久しぶりですねマテウス殿」


ジェイドに肩を貸して立ち上がりつつ、ヴィオラが懐かしみながらその名を呼ぶ。


 ヴィオラの父はかつてマテウスと共にこの魔術学校で魔術を学んだ学友だった。

その誼でヴィオラの生家ウォースフィールド家は今も魔術学校に寄進をしており、ヴィオラは昔、父に連れられてグラディウスに来て、マテウスと顔を合わせた事があったのだ。


「ジェイド、大丈夫なの?」


マテウスの横に立つメリセントが、ジェイドを心配そうに見て言った。ライバル関係とは言っても同じ学舎の学友である以上、彼を気遣うのは当然の事だった。


「へへっ、お前の結界魔術程じゃなかったよ」


母に肩を借りるのを辞めて、強がるように冗談を言うジェイド。


「そうか…良かったよ」


メリセントはいつものようなジェイドの口振りに安堵した。


そんな彼らの様子を冷たく見下すように見据えていたエドワードが、憎々しげに口を開く。


「ヴィオラ!早く来るのだ!」


ヴィオラは王太子エドワードの妻であり、彼に帯同する義務がある。もっと言えば、この場が収まった今、これ以上エドワードを刺激する訳にも行かず、彼に背く事はできなかった。


「ジェイド、ジェフリー。私はもう行かなくちゃ…」

「…分かっています母上。助けてくれてありがとう」


悔しそうな顔でエドワードの方を睨みながら、ジェイドが母に言った。


「母上、またすぐに会えますよね…」


急な別れに対して、哀愁のある声音で尋ねるジェフリー。


「ええ、必ず会えるわ」


ヴィオラはジェフリーを抱き締めて答えた後、名残惜しそうに息子達の方を振り返りながらエドワードの元に歩いて行く。

そしてその途次、ジャックの元へと近づいたヴィオラ。


「息子を助けてくれてありがとう」


王家の人間として複雑な胸中でそう言うと、ジャックが何か返す間も無く、彼から離れる。

そしてエドワードの隣へと戻ると、


「お待たせ致しました」


目も合わせず、冷たい声音で言った。

エドワードはそんなヴィオラを一瞥すると、ジャックやジェイド、そして三郎らを見渡しながら、去り際に憎悪の籠った言葉を告げる。


「貴様らはアゼルニアの王太子である私に刃向かった…この無礼は決して忘れぬ」


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