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雷鳴の武神  作者: ジュリ
第一部 巡り帰りしもの
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第二十四話 炎の亡霊

 遥か古代、アトラニアは北海と呼ばれる地域で信仰されていた神の中に、氷の魔術を操る、銀髪で翡翠色の眼をした女神がいた。


 女神は同じく北海の神の一人、黒髪の炎の神と契りを交わし、二人の間には子が生まれた。炎と氷を操る神である。

 やがて炎と氷の神は、人間の王の娘と恋に落ちる。二人は結婚し、北海の王国は神と人間の混血した王が治める事になる。


 この混血の王は、銀色の髪と翡翠色の眼をしていて、氷の魔術を操っていたが、神の操る魔術とは違って、あくまでも人間が使う力の魔術だった。

 

 そんな王に双子の息子が生まれる。一人は王と同じ銀髪と翡翠の眼の子。だがもう一人は黒髪と翡翠の眼をしていた。

黒髪の子は炎の神の血を強く受け継いでいた。王は二人を分け隔てなく育てた。

 しかし、二人が成長するにしたがって、見た目などよりも大きな違いがある事に王は気付く。

銀髪の王子は王と同じく、人間の魔術を使うが、黒髪の王子は神の魔術を操れたのだ。

 王はそんな黒髪の王子が、自分の玉座を脅かすのではないかと危惧した。そしていつしか黒髪の王子を疎んじるようになり、継承権も銀髪の王子に与えた。


 それに不満を抱いた黒髪の王子は、王に反旗を翻す。

王と銀髪の王子は国を守る為、軍を率いて黒髪の王子と戦い、死闘の末に勝利した。


 その戦いで王は戦死し、銀髪の王子が国王となった。

しかし、戦いに勝利したものの、甚大な被害を被った王国は弱体化し、周辺の国によって滅ぼされ、王たちは北海から逃げ出す事になる。

 アトラニアを放浪する中、銀髪の王は病になり、死の間際後世に伝わるある言葉を遺した。


――白銀の雪原を黒い灰が覆うことを許すな


 その後、王の子孫は北海より遥か南のアゼルニアに根を下ろし、彼の地を征服した。

それがアゼルニアのレイン王朝の始まりである。

 そしてその時代もかつての王の遺言は受け継がれていた。

王家の子は氷の魔力を持ち、銀髪で生まれる事が殆どだが、ごく稀に炎の魔力を持った黒髪の呪いを受けた子が生まれる事があった。

 各時代の王達は黒髪の子を冷遇し、時代によっては幽閉したり、殺したりする事さえあった。

 しかし、そんな差別ができたのは生まれてくる黒髪の子が、かつての王子のような神の力を有していなかったからだ。

 逆に銀髪の子が神の力を持って生まれる事例は存在しており、800年の王家の歴史の中で数人の王は神の魔術を操り、君臨した。

現アゼルニア王、ジョン・レインとその継嗣、エドワード・レインも神の魔術を操る魔術士である。


 ――しかし、現代において例外が生まれ落ちた。


 かつてジョン王は、王城で奉仕していた身分の低い女性との間に子を成した。落とし子として産まれた子は、黒髪だった。それだけでなく、翡翠の眼ですらなかった。

初めジョン王は、その赤子を自分の子ではないと認めなかったが、赤子が成長するにつれてその考えは変わって行く。

その顔立ちはジョン王の生き写しだった。間違い無く王の息子だった。

 落とし子は王子と認められて、王城で育てられる事になるが、同時に神の力を秘めた炎の魔術を操る事も判明し、忌み子として冷遇される。

 他の兄弟のように王都で魔術を学ぶ事も許されず、グラディウスの魔術学校に送られた。


 その後、魔術学校を卒業し、故郷に戻った落とし子は、ある事件をきっかけに王家に対して戦いを仕掛け、その魔術を持って圧倒した後、アゼルニアから姿を消した。


 そして今、落とし子は何の因果かグラディウスの魔術学校にて、アゼルニアの王太子と対峙していた。


「俺を殺したかったか?」


憎悪の籠った鋭い眼光を浴びながら、まるで他人事のように素っ気なくジャックが尋ねる。


「当然だ。そして私はその機会に恵まれた」


ジャックの軽薄な態度が、エドワードの怒りを煽る。

彼の殺意は、息子から実の弟に移っていた。

辺り一面に刺すような冷気がより一層漂い出す。


「まあまあ、落ち着けよ。久々に会ったんだ。もう9年になるか?」


エドワードの覇気に飲まれる事もなく、ジャックが指を折りながら再会までの月日を数える。


「貴様は一族の多くを傷つけ、殺した。その罪は万死に値する!」


エドワードの怒号が響く。同時に彼の魔力の昂りを、ジャック含め、ここにいる者達は感じていた。


「一族ねぇ……それなら兄上も殺しているだろ?」


ジャックの声が低くなる。

エドワードはその言葉の意味を分かりかね、一瞬訝しげな顔を見せたが、その真意をすぐに理解する。


「はっ!あの女郎など一族ではない!それは貴様も同じ事だ!」


嘲りと怒りの混じった声でエドワードが言う。

するとジャックの表情が俄かに険しくなる。


「一つ忠告するなら…お前らが俺を殺したいように、俺もお前らを殺したいって事を忘れるなよ」


普段は隠し切っている、身を焼き焦がすような苛烈な魔力をジャックが放つ。

そして火炎の如き怒りが籠った眼光をエドワードに向ける。

他者を見下し、常に圧倒してきた王太子の額に汗が滲む。

そしてその脳裏に、9年前の忌わしい戦いの記憶が蘇る。


(何を焦っている!私はかつてこの男を撃退したのだ!)


苦戦を強いられたのは事実、しかし王と共にジャックを退かせた。そして自分がより強くなった今、戦っても負けるはずがない。

己を鼓舞するように心の中で言い聞かせ、額の汗を拭う。

しかし、まるで炎天下にいるかの如く、額のみならず全身に汗が滲んでいた。

ジャックを前にした焦燥による物なのか。

否、それだけではなかった。


何かがおかしい。それにいち早く気付いたのは、ジェフリーだった。

自身や他の者の動きを封じる氷塊が、音を立てながら溶け始めていたのだ。

さらには、冬の夜のように冷気で鋭く澄んでいた空気が、まるで熱帯夜のような気怠い熱気で淀みだしていた。


「俺とお前じゃ相性が悪過ぎんだよ。それでも戦うってんなら相手してやるよ」


異様な熱気が辺りに立ち込める中、ジャックがエドワードに言う。

いつしかエドワードは自身の不利を悟っていた。

しかし、王家の誇りに賭けて退く訳には行かなかった。そして、再度自身の魔力を練り直そうとした時だった、


「何やら面白い事になっておるな」


異質、それでいて強大な魔力が近づいていた。

反射的に、それの方へと向き直る。

エドワードだけでない、ジャックや魔力を気取れる者は皆その魔力の源に目を奪われる。


甲冑を纏っているかような屈強な肉体を、風に靡く奇妙な衣装に包んだ巨漢が、そこには立っていた。


「貴様…何者だ」


男の放つ白刃のような鋭く攻撃的な闘気と魔力をその身に受けながら、エドワードが問い掛ける。

それに応じて、ジャックを指し示しながら、男が名乗る。


「その男の友人、神崎三郎だ」


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