表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雷鳴の武神  作者: ジュリ
第一部 巡り帰りしもの
24/99

第二十三話 黒髪の忌み子

 魔術の試合が終わった後、項垂れながら会場を出たジェイド。彼を一番に出迎えたのは双子の弟、ジェフリーだった。


「お疲れ、ジェイド」

「おう、ジェフか」


ジェイドがメリセントに勝負を挑んで、負ける。そして、意気消沈した彼のもとにジェフリーやって来て励ます。

お約束のような、いつもの展開だった。


「今回はいつもより惜しかったと思うな」


ジェフリーがジェイドの肩に手を置く。


「そう思うか?作戦は悪く無かったと思うんだよなー」

「体術を織り交ぜて魔力の消費を抑えるのは定石ではあるしね」


 双子のレイン兄弟は仲が良かった。どこに行くにも一緒だった。

ジェイドが父親に疎まれていても、ジェフリーはそれを庇い続けていた。その結果、二人とも故郷を離れる事となった。しかし、それで良かった。互いに信頼する兄弟がいれば、どんな困難も乗り越えて行けると信じているからだ。


「じゃあ、今度は二人でメリセントに挑むのはどうだ?」

「ええ!?でも僕がジェイドの足を引っ張っちゃうだろうし……」

「そんな事ないさ!」


秋晴れの空の下、そうして二人が談義している時だった。


「ジェイド、ジェフリー」


「母上!」


ヴィオラが客席を出て、二人の元にやって来た。


「さっきの試合見事だったわ」


結果はどうであれ、ヴィオラは息子の戦い振りを誇らしく思っていた。魔術もアゼルニアにいた時より洗練されている。 


「いや、不甲斐なかった」


しかし、ジェイドは悔しそうに俯く。成長した自分を見せるチャンスだったのに、これでは父を見返す事はできない。


「全くその通りであるな」


不意に、聞き覚えのある冷厳な声が聞こえた。


「父上…!」


会場の出口から現れたのは、共の者を連れたエドワードだった。


「殿下、私は先に失礼致します」


エドワードと共に会場を出てきた商人クラセナーが、王太子一家の歪な空気を察して、そそくさとその場を後にする。

それを止める事もなく、エドワードが話を続ける。


「グラディウスに来て、多少はマシになっているのかと思えば、詠唱をしてあの程度の魔術とはな」


嘲りの表情を浮かべて、エドワードが吐き捨てる。

それに対し反論する事ができず、ジェイドはただエドワードを睨んでいた。


「忌々しい黒髪の出来損ないが」

「あなた、そんな事を言わないで」


ヴィオラがエドワードとジェイドの間に割って入ると、エドワードは次いでジェフリーの方に目を向ける。


「ジェフリーよ、元気そうだな」

「は、はい父上…」


エドワードの鋭い眼差しに萎縮するジェフリー。


「グラディウスで王子としての責任も無く、兄と遊び回っているのだから当然と言えば当然か」


酷い軽蔑の言葉だった。エドワードはかつて自分に逆らったジェフリーを許してはいなかった。


「忌み子の味方などせず、王宮で学ぶ事を選んでいれば良かったものを。貴様は間抜けだ」


続けて、ジェフリーを責めるエドワード。


「もうやめて!それでも父親なの?」


息子達への暴言を聞きかねたヴィオラが、エドワードを止める。

「黙っていろ!」


エドワードがヴィオラを押しのける。そして、ジェイドに向けて、罵倒を続けた。


「忌み子として生まれただけでなく、今日貴様はレインの名を背負って戦い、そして負けた!家名に泥を塗った!」


エドワードの怒りの理由は、ジェイドがレインの名を名乗りながら、戦いに負けた事だ。元々忌み子として疎まれた事もあり、その怒りは一層強い物となっていた。

しかし、ジェイドはどれだけ父に貶されても、彼を睨むのをやめなかった。


「なんだその目は」


それがエドワードの激情を煽った。

その父の様子にジェイドは凍るような寒さを感じ始める。これは恐怖から来る物なのだろうか。

否。この凍てつくような冷たさは、ジェイドだけではない、この場にいた一同、更には魔術学校の中にいる者全てが感じていた。

この場に流れる恐怖のまあり、呼吸が荒くなるジェフリー、口から吐き出される息はまるで冬の日のように白かった。

やがて空に分厚い灰色の雲が広がり、段々と風が強くなりってきた。


「あの殿下、気をお沈めください」


異様な雰囲気を察したエドワードの側近カイル・グレッグが、主人を宥めようと近寄ろうとした。

しかし、足が動かない。

恐る恐る足元を見るカイル。

彼の周りの地面が氷結し、根を張るように彼の足を凍らせていた。

これは近寄るなという警告。


「忌み子はやはり殺すか」


先程の激情に駆られた怒号ではなく、冷たく静かにエドワードが言った。


(まずい!)


ジェイドはすぐさま逃れようとしたが、カイル同様、足元を凍結されていた。そして氷は徐々にジェイドの体中に広がって行く。

これを防ぐ為、炎の魔術を繰り出そうとするジェイドだったが、何故か魔術が使えない。


「ど、どうして!?」


ジェイドは魔力を練ろうとするがそれができない。


「貴様とは魔術の次元がそもそも違う。これは神髄に到達した私だから成せる技だ」


嘲笑うエドワード。そして氷はジェイドを覆い尽くそうとしていた。


「やめてー!」


ヴィオラはそれを止めようとするも、彼女も周りを凍結され、身動きが取れないでいた。彼女だけではない、ジェフリーも、エドワードの護衛達や侍女も同じだった。


(くそっ…俺はこんな風に死ぬのか)


全身が死体のように冷たくなって行くのをジェイドは感じていた。そして視界が霞んで意識が遠のいて行き、その顔からは血色が無くなり、青白くなって行く。


「せめて安らかに眠らせてやる」


エドワードは忌み子を見下ろしながら、冷ややかにそう呟いた。

黒髪の禁忌を断つ事は、レイン家の為いつかはやらねばならぬ事だった。

ヴィオラやジェフリーの叫び声が聞こえてくる。


しかしその時、彼が耳にしたのは家族の声だけではなかった。

聞こえてきたのは呪いのように付き纏う、"亡霊"の声だった。


「寒いのは苦手なんだ。勘弁してくれないか」


聞き覚えのあるその声が耳に響き、脳裏にある男の姿がよぎる。


声の方にゆっくりと振り向くエドワード。

そこに見えたのは紛れもない弟の姿だった。


「……ジャック」


驚きよりも憎しみをその顔に浮かべ、エドワードがその名を口にする。

名を呼ばれたジャックは、自身の黒髪を整えるように撫でると、軽薄な笑みを口端に浮かべる。


「久しいな、兄上」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ