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雷鳴の武神  作者: ジュリ
第一部 巡り帰りしもの
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第二十二話 血を継ぐ者

 特設の闘技場の中央、多くのギャラリーの視線を集めながら、二人の学生が対峙していた。

一人はこの魔術学校で二番目の成績を持つ、ジェイド・レイン。

そして、もう一人。魔術学校でトップの成績を誇る人物。口を一文字に結び、矢で射るような視線をジェイドに向けている少女。その表情は冷たいが、可憐である。


「今日は負けねーぞ、メリセント」


ジェイドはこの時を待ち侘びていた。日頃の訓練では彼女に一本取られてばかりだ。その悔しさと、父親がこの試合を見ているという事もあり、いつも以上に気合いが入っていた。


「まあ、頑張って」


見下すように素っ気なく一言返す少女。


「偉そうに…」


歯軋りするジェイド。可愛げのカケラも無い少女の事が彼は苦手だった。

 そうして二人が睨み合っていると、老年の男が一人こちらにやって来た。


「互いに切磋琢磨する事は成長を促進する。しかし、熱くなり過ぎてはならんぞ。さ、剣を預かろう」


蓄えた立派な顎髭を撫でながら男が優しい声で言う。


「お祖父様」


少女がベルトから剣を外して、男に渡す。この試合、武器の使用は禁じられている。

男は剣を大事そうに受け取ると、次にジェイドの方を見る。


「俺は宿舎に置いて来ました、学校長」


ジェイドが両手を上げて答える。

男は微笑みながら頷く。

そして、客席を見渡しながら二人の闘士の紹介を始めた。


 この試合を戦うのは、アゼルニア王太子の息子、炎の魔術士、ジェイド・レイン。

そして、伝説の魔術王アーサーの直系の末裔、魔術学校長の孫娘、メリセント・デュエルハルト。

名門家名を持つ二人の紹介を受け、観客席はどよめき、やがて歓声が上がった。

学校長は歓声の上がる中、中央から退くと試合開始の合図である銅鑼を叩いた。

その重厚な音と歓声を耳にしながら、先に仕掛けたのはジェイドだった。


「悠久の雪原すら熔かす熱き血潮よ、烈火となり我が敵を滅せよ」


魔術の詠唱、そしてジェイドが両手を前に構える。火種が生じるとそれが巨大な火球となり、焼け付くよう光を放ちながら、メリセント目掛けて撃たれた。


詠唱とは魔術の威力を大幅に増大させる技術の一つ。文言は術者それぞれだが、その長さや使用する言葉によって効果は変わってくる。

強力な魔術を使うには長い詠唱が必要であるが、戦いの最中では隙ができるし、神聖性のある文言や攻撃性の強い文言を使う程、術者への反動は大きくなり、体への負担や消費する魔力が増えて行く。


そしてジェイドの詠唱は、彼にとって奥の手の一つと言える程の攻撃力を誇っていた。魔力消費は大きいが、高火力を持って押し切るというのが、ジェイドの流儀だ。

しかし、轟々と音を鳴らす火球が迫ってきても、メリセントは眉一つ動かさなかった。


「神より賜りし救国の盾よ、降り掛かる災いを防ぎ払え」


メリセントによる詠唱。片手を広げ火球の方へ向けると、彼女の周りに魔力によって生じた結界が現れる。

結界は火球を防ぎ、メリセントに触れる事は無かった。


メリセント・デュエルハルトの魔術は結界魔術。

かつて降り掛かった災いから人々を守る為、伝説の王アーサーは神より特別な魔術を授かった。

魔力を用いた結界を作り出し、あらゆる攻撃を防ぐ事ができる守護者の魔術。

それを受け継いだ末裔メリセントは、若年16にしてその力を物にしていた。


結界にぶつかり火球が打ち消される。それに応じて結界を解くメリセント。魔力消費を抑える為だ。

効率よく魔術を用いて、無駄なく戦うのが彼女の流儀だ。


しかし結界を解いた刹那、ジェイドが拳を握り、メリセントへ飛びかかった。

日頃の訓練の様子から、彼女が無駄な魔力消費を抑える為、攻撃を防いだらすぐに結界を解くのは分かっていた。

火球による攻撃は目眩し。一気に距離を詰めて叩くのがジェイドの作戦だった。

ジェイドの握り締めた拳に炎が宿る。


「うおおお!」


雄叫びと共に駆けるジェイド、攻撃が届く寸前の距離に差し掛かった時だった。


「甘いわね」


メリセントの一言と共に、枷のような結界がジェイドの足を捉えた。それによってバランスを崩し、地面に転がった。

次いで檻のような結界がジェイドの周りを囲み、彼の動きを封じる。


「間合いを詰めるのはいいけど、それじゃあ私の魔術の効果範囲内に自分から突っ込んでくるのと同じ事。自殺行為ね」


檻の中で伏せるジェイドを見下ろすメリセント。


「ぐっ……畜生……」


身動きの取れないまま、首を傾けてメリセントを睨むジェイド。


「いつもあんたは魔術を撃ちまくって、魔力切れで自爆してるから、今回は体術も織り交ぜようとしたのは悪くないわ。でももう少し考えなきゃ」


見下ろしたまま、メリセントがジェイドに言った。


「く、屈辱……」


悔しさのあまり、地面に顔を突っ伏すジェイド。またメリセントに負けてしまった。

さらにはその様子を両親に見られてしまったのだ。


「また挑戦待ってるわ」


余裕綽々といった様子でメリセントが拳を掲げる。

勝者はメリセント・デュエルハルト。会場には彼女を讃える歓声が上がった。


「良い試合じゃった」


二人の元にやって来たのは学校長、マテウス・デュエルハルトだ。その手には柄の先に宝石をあしらった長剣があった。


「ありがとうございます、お祖父様」


マテウスから剣を受け取とると、メリセントが一礼した。

既に結界を解かれていたジェイドも立ち上がると、無言で一礼する。


「ジェイドよ、そなたの奮戦振りも見事であった。お母上も感激しておられよう」


マテウスがジェイドの肩に手を置いて言う。

一瞬、両親がいる客席の方をジェイドは見ようとしたが、それはやめた。

 こうして、ジェイドとメリセントの試合は幕を閉じた。


 

 そして、この試合を見ていた者の中には、ただの娯楽として見物していた者の他に、自身の思惑を成す為に監視をしていた者もいた。


「魔術学校の学校長が守護者の剣を持っているって話だったが、持ち主が変わってたみたいだな」


「そうみたいね、でもあんな少女が持ち主だなんて。怪我しちゃうんじゃない?」


試合の終わった闘技場を客席から見下ろす二人の男女。


「だが、魔術の腕は相当なもんだ。一筋縄ではいかねぇだろうな」


その男の目は獣のように鋭く、歪ませた大きな口から見える犬歯はまるで矢尻のようだった。側頭部の髪を刈り上げ、頭頂部から後頭部にかけた長い髪を三つ編みに束ねている。

そしてその鋭くも下卑た視線を女の方に向ける。


「それで、お前の色仕掛けは失敗しちまったのか?エレナ」


「ふん、笑わせないで」


男と共にいたのは他でもない、エレナだった。

ジャックのもとから去った後、偶然にもエレナはこの魔術学校にやって来ていた。


「アレスの双剣は少し厄介な男の手に渡っていた。守護者の剣を奪う前にこっちにも協力して、アーリ」


「まあ、報酬次第だな」


アーリと呼ばれた男が、エレナの華奢な肩に腕を回す。


「幹部への推薦をしてあげるわ」


その腕を払って、エレナが言う。


「ふっ、そいつは上々」


つまらなそうにして、アーリが鼻を鳴らす。


「とにかく、ここは人が多い。一度静かな所で計画を練りましょう」


「俺の任務は守護者の剣を奪う事なんだが…こんな風に誘われたのなら仕方がないなぁ」


アーリがいやらしい笑みを浮かべる。

エレナは傭兵上がりのこの下品な男を嫌っていたが、実力は確かである。組織の計画の為に、アーリと協力する必要があった。

 そうしてエレナとアーリの二人は、人混みの中、魔法学校から姿を消した。



一方、ジャックはジェイドとメリセントの試合が終わった後もその場に残り、三郎を待っていた。

広場中央では学生による魔術の演舞のような事が行われているが、酷くつまらない物だった。

膝に頬杖をついて演舞を見ていたが、ふと正面にある兄がいた客席の方に目を向ける。

何やら兄と女が言い争っている。よく見ると、ジャックの知っている女だった。


「ヴィオラか…」


兄エドワードの妻、ヴィオラだった。夫婦仲はジャックが家出する前より悪くなってそうだ。


(もし、俺が二人の前に顔を出したら、あの喧嘩もすぐに終わるだろうな)


兄夫妻が昔から心のすれ違いを起こしているのは、どれだけ取り繕おうが、ジャックには見透かされていた。

そんな二人も王家の人間だ。共通の敵である自分が現れたのなら、怒りの矛先をこちらに向け変えるだろう。

苦笑いしつつも、故郷を思い出したくなかったジャックは、この場を後にする事にした。


「さてと、三郎を探しに行くとしよう」



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