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雷鳴の武神  作者: ジュリ
第一部 巡り帰りしもの
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第二十一話 白銀の王太子

 「遅い。道に迷ったか?」


魔術学校の中央広場を囲って設けられた、まるで闘技場のような会場の狭いスタンド席に座り、ジャックは呆れ顔で独りごちた。

もうすぐ学生による魔術の余興が始まるというのに、三郎は一向に戻る気配が無い。

かといってわざわざ探しに行く気にもならない。幸い二人分の席は確保できた。余興を楽しみつつ、彼を待つ事にしようと決めた。


「えー、お集まりの皆様。これより始まりますは、この魔術学校で日々研鑽を積んだ学生達が、格闘祭の前座として神々に捧げる―――」


会場の中央で、魔術学校のローブを着た教授らしき男が開会の宣言をしている。長ったらしい口上はジャックが学生の頃となんら変わりない。

それを聞き流しつつ、辺りを何となく見渡していると、正面には特別な来賓用の、日除のテントが張ってある客席が目につく。

そして、その席に数人の護衛に囲まれ、貴族のなりをした男が今やってきた。

雪原のような白銀の髪、翡翠のような深緑の目。

その男を見るなり、ジャックはマントのフードを被った。

顔を見られると厄介な事になりかねない。

ジャックにとってその男は血塗られた因縁のある人物だった。


「やっぱりあの学生は兄貴の息子達なんだな」


因縁の相手、アゼルニアの王太子にしてジャックの腹違いの兄、エドワード・レインその人だ。


そのエドワードは見下すような冷たい視線を客席に巡らせると、席に腰を下ろした。

そして、足を組みながら近くにいた護衛の従士に尋ねる。


「カイルは?」

「只今、妃殿下と若君をお出迎えに」


やや緊張した面持ちで従士が答える。それを訊くと、エドワードは何も言わず広場の端に目を向けた。その視線の先には、不吉な黒髪の息子の姿があった。


「エドワード殿下、もういらしていたのですな」


するとそこに、一人の男がやって来た。

高価な織物を羽織り、口髭と脂肪を蓄えた中年の男。

レイン家と遠い縁戚関係にある商人で、名はクラセナーといった。

クラセナーは太った体を揺らしながら、エドワードの隣の席に座る。


「そなたに招かれなければ、こんなお遊戯会に来る事はなかったろうな」


エドワードがクラセナーを横目で見ながら言う。


「私の誘い故に来て頂けたのですね。光栄でございます」


クラセナーがそんな戯言を返す。


「もし親子の為の気遣いをしたつもりなら、それは意味のない事だぞ」


クラセナーを冷たく睨むエドワード、その迫力に少々気圧されながらもクラセナーは首を横に振る。


「まあ、多少の心遣いはございましたが、本当の目的は別にあります」


クラセナーはそう言って、広場にいるある人物の方を指し示す。

そこにいたのは魔術学校の制服を着た、長い髪の可憐な少女だった。腰のベルトには柄の先端に赤い宝石があしらわれた長剣を一振りを差している。


「あの少女が何だというのだ」 


「彼女は伝説の魔術王、アーサー直系の末裔です」


「ほう、あの少女が…」


クラセナーの言葉を聞いて、エドワードの目に鋭い光が宿る。


「だとすれば、あの娘の持つ剣が"神代の遺物"という事になるな」


「仰る通りでございます。あれこそが"守護者の剣"」


エドワードは前々からクラセナーによる報告で、守護者の剣がグラディウスにある事を知っていたが、実物を見るのは初めてである。


「こうした機会でありませんと中々お目にかかれませんからね」


クラセナーは守護者の剣をエドワードに見せる為、魔術発表会の見物をすすめたのだ。


「何かあるとは思っていたが…こんな事なら勿体振らずに早く言え」


無駄足にならずに済んだのは良かったが、エドワードはクラセナーの要らぬサプライズに少々腹が立った。


「それはそれは、失敬致しました」


しかし、気に留めない様子でクラセナーが少し頭を下げる。


 二人がそんなやり取りをしていると、エドワードの側近カイル・グレッグが、王太子妃ヴィオラを連れて戻って来た。


「殿下、奥方様をお連れ致しました」


恭しく一礼するカイル。その後ろには、エドワードの美しい妻の姿があった。


「殿下、まさかここに来たらしたとは。それにクラセナー殿まで」


ヴィオラがそう言いつつ、エドワードの隣の席に座る。


「この男に勧められてな」


クラセナーの方に顎をしゃくり、エドワードがここに来た理由を語る。当然、息子達の為ではない。


「王家が探している"守護者の剣"を見る為だったのですね」


自分の息子達の事を一切口に出さない夫に落胆しつつ、ヴィオラが言う。


「いずれレイン家が奪取する"神代の遺物"の一つです。

今の持ち主がどれ程の力があるのか、是非ともご覧になら

れた方がよろしいかと」


クラセナーは、魔術学校の校長と親交がある。以前会った際に、かの剣を持つ少女がこの催しに出るという事を聞いていた。


「それで、その力をどう見せてくれるというのだ」


エドワードが訊く。そもそも魔術発表会の具体的な内容を知らされてなかった。


「この発表会で行うのは、魔術を使った一対一の試合です」


魔術発表会の内容は、生徒による魔術を使った模擬戦である。ルールとして武器の使用禁止と過度なダメージを負わせる事を禁止している。


「で、あの少女と戦うのは?」


顎を上げて、見下すように広場の方を見ながらエドワードが尋ねる。 

それにクラセナーが口端を歪ませて答える。


「殿下のご子息、ジェイド様です」


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