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雷鳴の武神  作者: ジュリ
第一部 巡り帰りしもの
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第十五話 感察

 三郎達の泊まる宿の向かい側、比べると小さく古ぼけた宿にローラとマリーは泊まっていた。

二人が案内された部屋はやたらと狭く、置いてあるベッドが部屋の半分を占めていた。

 そして今、先にマリーをベッドで休ませたローラは狭い床に座り、食い入るように三郎追跡地図を見ていた。

 

 三郎にいつ動きがあるか分からない、夜間は二人で交代しながら地図を見ておくことにしたのだ。


(おそらく、グラディウスに向かっているな)


ローラは三郎の行き先をそう予測していた。

近々グラディウスでは、年に一度の格闘祭が開催される。

戦いに執着する三郎なら、間違いなくこれに食いつくだろう。現に、グラディウスに続く帝国街道を彼は進んでいる。


(神崎はどこでその情報を仕入れたのだろう)


アトラニアにきて右も左も分からないような三郎が、格闘祭の事など知っているはずがなかった。

入れ知恵をした者がいる。もしかしたら三郎の隣にいた傭兵と思しき男かもしれない。


(あの男、一体何者なんだ?)


地図を見たまま、ぼんやりとそんな事を考えていた時、


「ローラさん、そろそろ交代です」

マリーが身を起こし、ベッドから声を掛けてきた。

「ああ」

そう返事だけして、変わらず地図を見ているローラ。

「ローラさん」

「…ああ」

二度目の催促で、ローラはマリーに地図を渡すと、お互いのいる場所を交換する。

軋んで底の抜けそうな床に、顰めっ面でマリーが腰を下ろす。

一方のローラはベッドの端に腰を下ろしたが、そのまま横になろうとしなかった。

「寝ないんですか?」

それに気付いたマリーが顔を顰めたまま振り向く。

「少し気に掛かる事があってな」

ローラがどこを見るともなく答える。


「もしかして、神崎と行動しているあの男ですか?」

「ああ、そうだ」

「やっぱり…実は私も気になってたんですよ」


マリーもローラ同様、あの男の存在が引っかかっていた。


「あの男、何であんな不審な奴と一緒に行動してるんですかね」

「お互いに利が一致して動いているんだろうが」

「神崎が傭兵を道案内の為雇ったとか?」

「うーん、まあそんな所だろう」


少し引っ掛かる所はあるが、酒場などで格闘祭の事を知った三郎がその辺にいた傭兵を雇い、道案内をさせている。

あり得なくはない。

いずれにせよ、三郎追跡の邪魔になる様子もないので深く考えなくても良いだろう、ローラはそう思い直した。


「まあ、少なくとも魔術士では無いですね」

魔術士であるマリーが自分に分かる確実な情報を口にする。

魔術士は他者の魔力を感知し、その力を測ることができる。

マリーが見た限り、あの男からは毛程も魔力を感じなかった。

「たとえ半神の血脈だったとしても、距離を置いておけば気付かれる事をないだろう」

ローラが続けて言った。もし男が半神の血脈だったとしても、こちらが注意さえしていればバレない自信があった。


「よし、それじゃあ私は休ませてもらうぞ」

明日に備えて少しでも休息を取りたいローラ

次の交代まで、仮眠に入る。

ベッドに横になり、静かに目を瞑った。

(キリアン様……)

こんな時でも、瞼の奥に見えるのはキリアンの笑顔だった。

彼の事を想いつつ、束の間の眠りについた。


 ローラが眠りに着いてから、マリーはうつらうつらしながらも、追跡地図に目を向けていた。三郎も休んでいるのか、一切動きは無い。


ふと、何気なく後ろを振り向いてみる。

こちらに顔を向けて、静かに寝息を立てるローラ。

貴族出身の彼女。まさに上流階級の令嬢といったような、

上品で涼やかさのある美しい寝顔。


「……綺麗」


自分でも思わぬうちに、マリーはそう口から溢していた。

そして自分の発言に驚くようにして、手で口を覆った。


「いやいや、何言ってんの私……」


しかし、ローラが美しいのは紛う事なき事実。美しい景色や絵画を見て人々が美しいと言うのと同じような感情を持ったに違いない。きっとそうだ。そうに違いない。


(なんかこの人を褒めてるみたいで悔しいけど)


ローラを超えるべき壁と捉え、敵愾心すら持っているはずのマリー。自分が口走った言葉のせいで、その胸中は複雑な感情で満ちていた。

そして、その感情を振り払うように強い口調で呟く。


「私は必ずこの人を超えて、騎士団の頂点に立つんだ」







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