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雷鳴の武神  作者: ジュリ
第一部 巡り帰りしもの
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第十一話 三戦帝の居場所

 ――ヴェネット とある酒場――

 少し前まで賑わっていた酒場も、客が少なくなってきた。散らかった店内の片付けに店員が追われている。

 静かになって行く店内の様子とは逆に、三郎とジャックの会話は盛り上がりを見せていた。

初対面の二人はすっかり意気投合していた。

途中から、ジャックにすすめられて三郎も酒を注文した。そのせいもあってか、三郎はいつもより饒舌になり、話に弾みがついたのだ。


「それにしても三戦帝に挑むってのはマジのようだな」

三郎からアトラニアでの目的を聞いたジャック。初めは驚いたが、この男ならいい勝負になりそうだと思っていた。

「おう!俺は強い者と戦うのが好きなんだ」


赤ら顔の三郎が強い口調で言う。酔っているのか、先程からこのセリフを何度も繰り返していた。


「さっきからそればっかだな」


苦笑いするジャック。そして少し沈黙すると、三郎にとっての朗報を口にする。


「……一人、居場所に心当たりがある」

「何だとっ!!」


テーブルに身を乗り出す三郎。そのせいでコップの酒が溢れてしまった。


「おいおい、そう慌てんなよ」


嫌な顔をして、手に掛かった酒を振り払うジャック。


「あ、すまん!」

「はあ、お前酔ってんな。一旦店出て酔い覚まししよう」

ジャックはそう言って代金をテーブルに置くと、席を立った。

「承知した!」


三郎は機嫌良く返事すると、テーブルに立て掛けていた太刀を手にして、ジャックの後に続いた。


 店を出た二人。通りを歩きながら話の続きをする。


「それで、三戦帝の居場所とは?」


思わぬ情報に胸を高鳴らせる三郎。


「カロビニア王国のグラディウスって都市だ」


カロビニア王国はトルミア南方の隣国で、そこにある大都市グラディウスに三戦帝の一人はいるという。


「そいつは近々グラディウスで開催される格闘祭(かくとうさい)に参加するはずだからな」

「かくとうさい?」


――グラディウスの格闘祭(かくとうさい)

 古くからグラディウスで開催されており、武器を使用せず、体術のみで勝敗を競う格闘技の祭典である。

各地から腕に覚えのある強者が集まり、優勝者には賞金も授与される。

 だが、賞金だけではない。

この祭典にはアポロヌス各国の王族も観覧しに来る事でも知られている。

理由として娯楽の要素は勿論あるが、優れた戦士がいればスカウトして、自らの家臣として召し抱えるという目的もあるのだ。

そういった仕官の可能性を求めて参加する闘技者も少なくない。


「という事は、その格闘祭に参加すれば三戦帝の一人と戦えるかもしれないのだな!」


三郎が興奮した様子で騒ぐ。


「まあ、そういう事になるな。でもお前の得意な剣は使えないし、祭典のルール上、殺しは無しだ」


三郎が腰に提げている太刀を見て、ジャックが言う。


「大丈夫。形はどうであれ、真っ向勝負ができるならそんな物関係ない。まあ剣戟が俺の本領ではあるが…高名な戦士に挑める貴重な機会だ。祭典の規則に従おう」


三郎が拳を突き出して、楽しそうに言う。


「へぇ、そうなのか。てっきり殺し合いが好きなのかと思ってたぜ」


ジャックが意外そうな顔をする。

彼が思う戦いの醍醐味と言えば、生きるか死ぬかの瀬戸際で生まれるスリルだった。三郎もそういったスリルを求めているのだと思い込んでいた。


「よく勘違いされるが、俺は戦いが好きなのであって、殺しが好きな訳では無い」


気に障ったのか、不満げな顔で三郎が言う。


「だったらなぜあのドラゴン使いを殺した?」


しかし納得いかない様子のジャックが、先程の戦いを引き合いに出す。


「それは奴が戦いを冒涜したからだ。俺に挑んできた癖に、弱き者を盾にするような真似をして巻き込み、美しく在るべき戦いを汚した」

「美しく在るべき、ねぇ……」


怒りの滲む言葉を吐く三郎と、ある男の姿をジャックは重ねた。


『戦いは、この世の何よりも美しい』


(あいつも同じ事言ってたな)

ジャックはその男の言葉を思い出し、思わず笑みを浮かべた。


「おいジャック、何がおかしいんだ」

三郎が顰めっ面で詰め寄る。


「いや、何でもない。変な誤解して悪かったな」

「分かれば良いのだ、分かれば!」


ジャックが謝ると、機嫌の良さそうな顔に戻る三郎。

(単純で馬鹿っぽいところは、似てねーけどな)

三郎の反応に苦笑いして、そんな事を思った。


「ところでジャック。かような情報を知っているという事は、その三戦帝の者と知り合いなのか?」


ふとした様子で、三郎が尋ねる。


「ああ、実はそうなんだ。東域戦争の時、たまたま知り合ってな、そん時に今の話を聞いた」


ジャックも東域とアポロヌスの戦争に参加していた。


「そうであったか。それでその三戦帝の一人はどんな者なんだ?」

「じゃあ教えとこう。そいつの名はクレス・レイオス」


――クレス・レイオス。血脈を辿ると雷の神に辿り着くという、魔術士にして半神の血脈の男。


「クレス・レイオスか……そのクレスは何故(なにゆえ)格闘祭に参加を?」

「まあ、賞金目当てもあるだろうが……あいつは根っからの戦い好きなんだ。誰かさんみたいにな」


それを聞いて、目を大きく見開く三郎。やがてその顔に不敵な笑みが浮かんだ。


(混じり気のない戦いができそうだ)


三郎は、血が逆流するかのような昂り感じた。


「決めたぞ、俺はグラディウスに向かう」

三郎の向かうべき場所が決まった。


「じゃあ俺も一緒に向かわせてくれ」


ジャックが同行を申し出る。


「お!もしかしてお前も格闘祭に出場するのか?」

「いやいや、俺は遠慮しとくよ。痛いのは嫌なんだ。

でも格闘祭を観戦する為に元々グラディウスに向かうつもりだった」


三郎の目的は別として、ジャックはヴェネットを出たらグラディウスに向かおうとしていたのだ。


「勿体無いなあ。お前魔術士だろ?いい戦いができるだろうに」

「……!?」


思いもよらぬ三郎の発言に、ジャックは動揺した。


(俺は完璧に魔力の気配を消しているはずだぞ!)


 ある理由から、ジャックは普段、魔力をコントロールし、察知されないようにしている……はずだった

確かに並の魔術士ならジャックの魔力を毛ほども感じないだろう。しかし、三郎は特別(・・)だった。


 「俺にもよく分からんが、昔からこの手の察知に関してはやたらと冴えててな」


三郎はジャックが完璧に魔力を消している事が分かっている。彼は通常の魔術士の様な魔力の読み方とは違う、特殊な読み方をしているのだ。

だが、その力の根源を彼自身が知るのはもう少し先の話だ。


「……ふっ、バレてたか」


そう言うとジャックは、タバコを咥える。そしていつものように指先に火を灯し、タバコに着火させた。


「やっぱりな、当たっていた」


三郎の眼光が鋭くなった。

それに怯む事なくタバコの一口目を楽しむと、指に挟んで口から離す。


「でもお前がお気に召す程強くないぜ、大した事ない平凡な魔術士さ」

「それはどうかな…?」


夜の冷たさを一層強めるような、鋭い緊張感が走る。


「あ!いたいた!おーい!」


相対する二人に声が掛けられる。そちらを向くと、先程の酒場の店主が駆け寄って来ていた。


「良かった追いついて」

そう言って息を切らす店主に、ジャックが問いかける。


「一体どうしたんだ?さっきの酒場の旦那だろ?」

「どうしたって…代金だよ代金。金貨なんて貰えないよ」


ジャックはさっきテーブルに代金を置いて店を出たが、飲み食いした分にあってない過度な金額を払っていた。

それを店主は返しに来たのだ。


「うっかりしてたぜ。わざわざすまないな」


ジャックが店主から金貨を受け取る。


「支払いは銀貨一枚で充分だよ」


銀貨で支払うように店主が求める。


「悪いな、銀貨は持ち合わせてない」

「逆に珍しいな……しかし、ぼったくりみたいな真似はできないしなあ……」


困った様子で店主が考え込んでいたが、ハッとした様子である提案をする。


「あんた達、今夜泊まる場所はあるかい?」

「あ、決めてなかったな」


ジャックが言う。三郎もそういえばといった様子で首を振る。


「酒場の2階が宿になってるんだ。さっきの分も含めて、金貨一枚で泊まってかないか?」

「おお!いい話じゃないか!三郎そうしようぜ」

「え、ああ、そうだな……」


この流れで三郎の話はすっかりはぐらかされてしまった。


(まあ、今はクレスとの戦いに集中するか…)


毒気を抜かれてしまった三郎がそう気持ちを切り替える。


「では着いてきてくれ」


そう言って酒場に向かう店主に二人は続く。


「いやー、野宿にならなくて良かったな」

ジャックは何事もなかったかのように三郎に話しかける。


「いや、ほんとそうだな」

三郎もいつもの明るい雰囲気を取り戻していた。


(にしても、こいつ…油断ならねーな)


三郎と他愛の無い会話をしながら、ジャックは思っていた。

下手をすればまた戦いを挑まれかねない。そしてもし戦いになれば、腕に覚えのあるジャックでも無事では済まないだろう。


(俺も三戦帝の一人だって事、そのうちバレるだろうな)


三戦帝の一人、"炎の亡霊" ジャック・レイン――

彼は自分を含めた三戦帝を狙う三郎の隣に立ち、他に変え難いスリル(・・・)を感じていた。


――死と隣り合わせのスリル……

それでしか得られない刺激がある


  刺激、それはジャックが人生を楽しむ上で不可欠な物。

それを得られるスリルを、彼は見つけたのだ。


「さあ、朝になれば楽しい旅の始まりだ」


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