魔力増強のためにハジメテ捨てます! 〜脱・☓☓宣言が王弟殿下の逆鱗に触れまして〜
ウィレム先生はとても優しい。
暖かい春風のような人で、いつも私を穏やかに受け止めてくれる。
そのウィレム先生が今。
何故かものすごい怒気を放って、私のことを壁ドン……ではなく、机にドン。をしている。
「君の鈍いところ、可愛いと思ってたけど、さすがに今はちょっと冷静でいられないな」
長めの銀色の前髪から覗くウィレム先生の金の瞳。
その瞳が、激情の炎でギラギラと燃えていた。
◆◇◆
私――ルアーシャ・ドナと、ウィレム先生の出会いは今から三年前の春。現在通っている魔法学園の入学式三日後のお昼のこと。
私が昼食代を節約しようと、食べられる野草を探して学園の裏庭を彷徨いてる時だった。
「さすが王様が創った学園! 生えてる雑草もツヤツヤしてて立派〜! この緑の葉っぱとかサラダにしたら美味しそうじゃない?!」
メインのおかずとパンは購買でゲットしたものの、当時15歳の成長期だった私の胃袋を満たすにはイマイチ量が足りない。けれど、毎日好きなだけ食べるにはお金が足りない。
そんな私の入学した王立アダマス魔法学園は、その名の通りこの国のアダマス王家がニ百年前に創立した全寮制の学園だ。
『身分関係なく優秀な魔術師を育てるため』という理念のもと、平民の学費は免除されるので特にお金持ちの家の子でもない私も入学することができた。
それはとてもありがたい。ありがたいのだけれども。
さすがに昼食代などの生活費は支給されたりしないので、なるべく出費を抑えたい平民の私はこうして腹の足しになりそうな野草を求めて裏庭をウロウロしていた。
「あ、あの木になってる赤い実も甘くていくらでも食べられちゃうやつ!」
しかもあの実はジュースにしても美味しいやつだ。多めに採って帰って寮でのオヤツにしよう。身長の低い私でも効率よく採取する手段はないだろうか。
――――と、木の上ばかり見て歩いていた私は根本に転がっていた『何か』に引っかかりバランスを崩した。
「きゃあっ?!」
「っ?!」
けっこうな勢いで転んだにも関わらず、そこそこ厚みのある『何か』が緩衝材になって受けるはずの痛みを免れる。バフっと頬に地面以外の感触が当たった。
「――なっ、君は、新入生か……?!」
私の下にある『何か』から発せられた、とんでもない美声。
涼やかで程よく低くて、聞くだけでぞくりと耳が喜ぶような甘い音。
突発的な出来事に驚いて出た声なのに、私が今まで聞いたことのある誰の声よりも良い声だった。
私はその声の主の上に転んだのだ。そう理解するまでに数秒がかかる。
そして、現在進行系で私はその人の身体の上に乗っている。身長155cmの私よりふた回りは大きい、しっかりとした男の人の身体。それが『何か』の正体だ。
私の顔に当たったのはきっとこの人の胸元だろう。質の良い黒いシャツを身に着けている。そして徐々に視線を上げると目に入る、喉仏と形の良い顎。とんでもない美声を発した薄い唇。通った鼻筋に、銀の髪。
神様が全力で愛と技術を注いで創った彫刻のように整ったパーツたち。その美しい顔の中で、更に美を結集させたような金色の瞳と視線があった瞬間。
私は熱した油に落とされた水滴のように『彼』の上から飛び降りた。
「うぃうぃうぃウィレム先生……?! し、失礼しましたっっっ!!!!!」
前方&足元不注意で私が下敷きにした男性。
その人は、入学三日後の私でも知っているアダマス学園の有名教師だった。
「――確かに俺はウィレムだが……まだ一年生の授業はしてないはずなのに、君は俺のことを知っているのか?」
「もちろん知ってます! むしろこの学園の生徒で、いえこの国で貴方のことを知らない人間はいないと思いますウィレム・アダマス先生……!」
ウィレム・アダマス。
そう、アダマス学園を創ったアダマス王家に連なる方。現国王の歳の離れた弟君。彼は私の6歳上だから、この出会いの時は21歳だった。
王族でもあり、強大な魔力を持つ魔術師でもある彼が学園の教師に就任したことは、この国の誰もが知っていた。
え。その王弟殿下を、平民の私が下敷きに? これ、不敬罪になるやつでは?
終わった。私の人生、終わった。
「びええぇぇっ! すみませんすみませんすみませんすみません! わざとじゃないんです王族の方を傷つけようだなんて思っていませんっ! 食べられる野草を探してたら足元が疎かになっただけなんです……!!」
突然の出来事と、その後の私のエキセントリックな動きに、ウィレム先生は宝石みたいに綺麗な瞳を見開いて固まっている。
けれど私が地面に額を擦りつける勢いでひれ伏そうとすると、素早く私を止めて視線を合わせながら優しく微笑んでくれた。
「そんなことをする必要はない。こちらこそ、驚いてしまいすぐに反応できなくてすまなかった。むしろ、こんなところで昼寝をしていた俺が悪いんだから謝るのは俺のほうだ」
「いえっ! 先生が悪いだなんてそんなことないですっ……! 本当に野草に夢中になってた私の不注意なのでっっ」
「君、名前は? 夜会などで見かけたことがないということは、貴族ではない子だろうか。けれど、学園の中ではそんなこと気にせずに、教師と生徒として接してほしい…………野草?」
「ありがとうございます! 寛大なお心に感謝いたします! 私の名前はルアーシャ・ドナ、お察しの通りしがない平民の娘でございます! お昼ご飯代を節約したいので、食べられる野草を探しに来ました!」
「昼食代が足りずに? まさか、この国はそんなに飢えた子を見逃していたのか……っ?」
「あ、いえ! 違うんです!」
「違う?」
自分のことは教師として接して欲しいとは言ったものの、私の言葉に王族としての責任を感じてしまったであろうウィレム先生の眉根が寄り表情が曇る。
何か、とても悲壮な勘違いを彼にさせてしまっている。そう気づいて、今度は私が慌ててそんな彼を止めた。
「別にうちがご飯も食べられないくらいお金がないとかではなくて! 我が家は妹と弟が多くて、私の下に五人、弟と妹がいるんです……! だから、両親は欲しいものとか遠慮することないって言ってるんですけど、私が勝手に節約してるだけなんです……! なので国がアレとかそんなんじゃないですっ!」
「六人きょうだい? それは、賑やかそうだな」
「はい! しかも全員、私と同じホワイトブロンドと青い瞳で! みんなで移動してると目立つので、ご近所さんでは『ドナさんちの子どもたち』といったらちょっと有名なんですよ……!」
子沢山な中流家庭の長女。それゆえの節約精神。
決して国の政策に問題があるわけでなく、私が好きで野草を食べているだけだと身振り手振りを交えて説明する。
事実、私も両親も弟妹たちも国への不満は何もない。
「しかし、成長期の子供が思いきり食べられないというのは教師としても見過ごせないな……。学食を無償で提供できないか学園に掛け合ってみよう」
「本当ですか?!」
え、ウィレム先生メッチャ優しい。
学食が無料になったらメッチャ嬉しい。
「あぁ。それと、ちょうど授業の資料整理や研究を手伝ってくれる助手を生徒の中から募集しようと思ってたんだ。君さえ良ければどうだろうか。もちろん報酬はちゃんと渡すよ」
「良いんですか?!」
「うん。むしろ、君はちょっと危なっかしい気がするから、俺の目の届くところにいた方が良いと思う。これも何かの縁だし、これから君が卒業するまでの三年間よろしく頼むよ」
「はいっ! よろしくお願いします!」
学園の有名教師ウィレム・アダマス。
彼は王族だからという理由だけでなく、その神々しいまでの美貌と強大な魔力を有する才能、そして穏やかな人柄で生徒たちから絶大な人気を集めていた。
そんな人の助手になれた上にバイト代まで貰えるなんて断る理由がない。
こうして偶然から始まった私のラッキーな助手生活。
ウィレム先生の研究室に通い、彼の役に立ち、更に二人だけの時間を過ごせたことは、私の三年間の学園生活の中でもとても大切な宝物だ。
『ルアーシャ、学園生活で何か困っていることは? 俺で良ければ力になるから何でも相談してほしい』
『王都で有名なお菓子を貰ったからルアーシャにあげるよ。他の生徒には内緒だよ』
『――あっ、ごめん。ちょっと夜明けまで新しい魔法の研究をしていたから眠くて。普段は人前であくびなんてしないのだけど、ルアーシャと二人の時はつい素が出ちゃうな。君といると癒やされるんだ』
瞼を閉じれば、いくらでもウィレム先生の笑顔と彼がくれた言葉が浮かび上がる。
――けれど。その大切な時間も、あと三ヶ月で終わってしまう。
私が学園を卒業する日がすぐそこまで迫ってきていた。
学園を卒業し教師と生徒という関係がなくなってしまったら、平民の私はウィレム先生に話しかけることもできなくなるだろう。
(そんなの、嫌……! 私、もっと先生の側にいたい……!)
いつの間にか胸に芽生えていたウィレム先生への恋心。
平民の私が王弟である先生と両想いになりたいなんて、不相応なことは願わないけれど。せめて、卒業した後でも彼に関われる可能性が欲しい。
そう願った私は、夜な夜な寮の部屋で頭を抱えてどうにかそれを叶えられないか考えた。
悩みすぎて毛根が絶滅するかと思うほど脳をフル回転させたけれど、おかげである起死回生の手段を思いつく。
それは、冬休み明けに行なわれる卒業試験で優秀な結果を残し、この学園の職員として採用され就職することだった。
現在、私の成績は学年の上位グループの真ん中くらい。
体内に巡る魔力の含有量が平均値しかないわりには、良い成績をおさめられていると思う。
(助手の私が残念な点数を取ってウィレム先生に恥をかかせるわけにはいかないもの……!)
そう。私が魔力量のわりに日々のテストで上位に食い込めているのは、努力次第で点数のとれる座学と魔法のコントロールの技術を死に物狂いで学んでいるからだ。
魔法のコントロールに必要な精神力と器用さ。それを鍛えるために行った滝行や瞑想、米粒に小さな文字をびっしり書く訓練、魔術書の写経。
おかげで今はヘアピン1本でどんな鍵でも開けられるほどの技と集中力を身につけた。
でも、持って生まれた才能……魔力の量だけは、自分の努力だけではどうにもならない。
学園の教師として確実に採用されるには、溢れるほどの魔力も欲しい。
(魔力の量が足りないからって、それで諦めてウィレム先生と一緒にいられなくなるのは絶対に嫌なの……!)
どうにかして魔力を増やす方法はないのか。
何冊もの分厚い魔術書のページをめくり、血眼で文字を追い続けた。
そうしてページをめくり過ぎて手の指がカッサカサになった頃。
私は遂に、自分が求める答えの記されている本を見つけた。
『【禁忌】魔力を増やすための禁断の方法♡』
禁忌という言葉とは裏腹に、表紙にハートマークが散りばめられたショッキングピンク色の本。
それは一見、ラブシーンが過激な恋愛小説のようだったけれど、そこには確かに私の知りたいことが載っていた。
そしてすぐにでも『ソレ』を実行するために、図書室を飛び出し、ウィレム先生の研究室へと駆け込んだ。
「ウィレム先生! ちょっと複数の男性とお見合いのようなお茶会……合コンに参加したいので、週末の助手のお仕事はお休みさせてください!」
◇◆◇
生徒たちが学ぶ校舎の側に建てられた石造りの塔。
そこにあるウィレム先生専用の研究室。
その部屋のドアを開くのと同時に叫んだ私の言葉を聞いて、先生は銀のまつ毛に縁取られたイエローダイヤモンドみたいな瞳を見開いた。
私よりも30cm近く高い長身。スラリと細く見えて、実は膨大な魔力を制御するために鍛えられた肢体。
その完璧なスタイルで黒い魔術師のコートを着た先生はいつ見てもうっとりするくらいカッコいい。
(先生は黒だけじゃなくて、王族としての白の正装も似合うんだよね……)
国の式典に王弟ウィレム・アダマスとして参加していた先生。長めの前髪を後ろに流して王族の正装姿の先生はすごく素敵だった。
(素敵過ぎて、式典の日は先生に声をかけられなかった)
国王陛下とも王太子殿下とも対等に会話をする先生は、遠くから見ても圧倒的なオーラを放っていて。改めて、私とは住む世界が違う人なのだと感じた。
(でも。それでも――っ)
やっぱり私は先生の側にいられる可能性を諦めたくない。
「……ルアーシャ、今、合コンって言った?」
「はい! 私の目的達成のために、どうしても今すぐにでも合コンに参加したいんです!」
「えーと、助手の仕事自体は特にたて込んでないから休むのはかまわないけど、問題は合コンのほうだよルアーシャ。生徒に合コンに参加したいと言われて許可できる教師がいると思うかい」
「でも先生! 私はもう十八歳で成人していますし、お酒を飲む気はないんです。ただ、どうしても卒業試験で良い成績を残したいので、男性の協力が必要なんです! 合コンと言いましたが、恋人探しではなく、協力者探しのためのお茶会だと思っていただければっ!」
「良い成績を残したいのと男の協力がどうしてイコールになるのか理解できないよルアーシャ。……それに、男なら君の目の前にもいるだろう」
私の『目的』達成のために、あのショッキングピンクの本に書いてあった『方法』をウィレム先生に手伝ってもらう。
その光景を想像して一気に顔に血が上る。
だって、あの『方法』は――――。
「えっ! む、ムリムリムリムリ! ムリですそんなのっっ! 先生が相手なのだけは絶対にムリです!」
「無理ってどうして? 俺はこの学園の教師なんだから、むしろ良い成績を取るために頼る相手として適任だと思うのだけど? もし授業でどこかわからないところが有って他の男に聞こうとしているのなら、俺に遠慮なく聞いてほしい」
「いえっまさか! 先生の教え方はいつも凄くわかりやすいです!」
「では何故?」
合コンで男性と出会い私がしたいこと。
それは魔力を増やすためのある『行為』で。
そして、それは。
「…………魔力の量を、増やしたくて……」
「――魔力を?」
私の羽虫が鳴くような声を聞き逃さなかったウィレム先生の眉がピクリと痙攣した。いつも春の陽だまりみたいに穏やかなウィレム先生の雰囲気が変わる。
あ、ヤバイ。さすが魔術を知り尽くした稀代の魔術師。
これ、私が見つけた文献の内容も知ってる展開では?
「ルアーシャ? ちゃんと答えなさい。魔力を増やすために、男と、何をするつもりだって?」
「え〜と」
「ルアーシャ」
今まで聞いたことがない、ウィレム先生の低い声。
その声には「逆らうことなど許さない」という響きがあった。
「――――をですね、してもらおうかと」
「うん? もっと大きな声で言って」
「〜〜! 男性に肉体的に一番深い部分に精気を注いでもらって魔力を増やそうと思いましたごめんなさいっっ!」
瞬間。地震みたいに研究室がドンッと揺れる。
でもこれは天災じゃなくて。
ウィレム先生から放たれた魔力が部屋を……ううん、塔全体を揺らしたからだ。
「やっぱり、図書室にあった禁忌の本を読んだのか。……アレは一般の生徒には存在すら認知されない魔法をかけておいたんだけど、君の察知能力を侮ってたな」
殺気にも似た炎がウィレム先生の瞳の奥で燃える。それは、今の彼なら視線だけで人を殺せるのではないかと思うほど。
「――それで、あの本に書いてあった『男との肉体的接触による魔力の増幅方法』を実行しようと? しかも、その相手が俺なのは絶対に無理なんだ?」
そう、先生の言うとおり、あの『魔力を増やすための禁断の方法』に書いてあったのは、異性と触れ合い興奮と同時に魔力を高めるというものだった。
更には実行者が女性の場合、男性の精気を受けることで魔力が飛躍的に強くなるらしい。
どうせ好きな人……ウィレム先生とは結ばれることはできないのだ。だったら相手は誰でも良いから初体験などサクッと済ませてしまって、魔力を増やしたほうが今後のためになる。
――そう、考えていたのだけれど。
好きな人のくだりは省いた私のその考えを聞いて、ウィレム先生から凍てつくような圧迫感が膨れ上がり、比喩ではなく部屋の空気が重くなる。ビリビリと、彼の怒りが伝わってきた。
「――――――君の鈍いところ、可愛いと思ってたけど、さすがに今はちょっと冷静でいられないな」
一瞬で距離を詰められて、気づけば私は机の上についた先生の腕の中に閉じ込められていた。
「先生……?!」
「今まで苦労して学園の男子生徒を牽制してたのに、これから初めて会う見ず知らずの男が君に触れる?」
ねぇ、知らない。
こんな冷たい空気をまとったウィレム先生を、私は知らない。
「卒業まで待とうと思っていたのが裏目に出たのか」
この、私を見下ろす男の人は、誰。
「――そんなに男の精気が必要なら、俺が抱いてやる」
獲物を狙う肉食獣の唸り声。
ギラギラと金の瞳を燃やしたウィレム先生が低く呪文を唱えると、私の身体から力が抜けた。
「――えっ?」
「催眠魔法。大丈夫、少し感度が上がって、理性が利かなくなるだけだよ」
「どう、して」
舌の力すら入らなくて、呂律が上手く回らない。
まるで風邪を引いた時みたいに頭がフワフワする。
「純潔を『捨てる』相手に俺を選ばなかったこと、間違いだったって思い知らせてあげる」
キス。混乱する私を金の瞳に映したまま、間近で見ても欠点が一つも見当たらないウィレム先生の美貌が距離をゼロにする。
「……っ!」
催眠魔法のせいなのか恋心のせいなのか。
人生で初めてする好きな人との口づけはすごく甘くて、思考がぼんやりと痺れていく。
「クソ……! 君のそんな蕩けた表情を他の男に見られた可能性があると思うと、腸が煮えくりかえる……っ!」
それから先生は私の色んなところに触れた。
私が経験しようとした行為が、こんなにも深く相手を受け入れることだったなんて。
男の人の精気を受け入れると魔力が高くなる。
それだけが目的だったから、相手は男性なら誰でも良いと思ってた。
――ううん。『ウィレム先生以外の男の人』なら、誰でも良いと思ってた。
だって、私にとってウィレム先生以外は誰でも同じことだから。
ウィレム先生だけが、私の特別な人だから。
「先生、先生……っ!」
「まったく、少し触れただけで涙目になるなんて。それで本当に、よく知りもしない男に抱かれるつもりだったのか」
先生が触れて火照った肌に汗が伝う。
頭がボーッとして、もう先生のことしか考えられない。
「ルアーシャ、君を誰にも渡したくない。俺以外の男が君に触れるなんて、想像しただけで気が狂いそうなんだ……!」
「――っ!」
「愛してる。愛してるんだ。君の卒業を待って、結婚を申し込むつもりだった」
「私も先生が好きっ、好きです……!」
まさか先生も私のことを好きでいてくれたなんて。
全身を支配する以上の幸福感が胸を満たして、涙になって零れ落ちる。
「ルアーシャ、君がそう言ってくれるなら、どんな手を使ってでも俺は君を守るよ……っ」
先生の言葉と同時に、身体中に魔力が満ちた。
「――――え、男の人の精気を受ければ魔力が上がるって、誰でも良いわけじゃないんですか?」
「よく考えてごらんルアーシャ。もしその方法で魔力が上がるのなら、この国は大魔術師ばかりになっているはずだろう」
「確かに……。でも、私は実際に魔力が上がって……」
私の身体中を巡る溢れるほどの魔力。今の私なら、竜巻を起こすほどの風魔法を操ることだって可能だろう。
(それだけ私がウィレム先生に魔力を注いでもらったってことだよね)
日付けが変わった後も続けられた行為を思い出し、ポッと頬が熱くなる。
「それは相手が俺だからだよ。俺くらいのレベルの魔術師じゃないと、相手の魔力を増強するなんてできない」
「ウィレム先生レベルの魔術師」
それって。この国にはウィレム先生くらいしかいないのでは?
「うん。だからねルアーシャ。君は、俺以外に抱かれる必要なんてないんだよ。――もっとも、今後俺ぐらいの魔術師が現れても君には絶対に触れさせないけどね?」
声を低くした言葉に滲むウィレム先生の独占欲が嬉しい。
そのぞくりとする雰囲気に、キュンっと心と身体が震えた。
「大丈夫です! 私、もうウィレム先生以外に触れられるのなんて、ムリです……!」
空回りだった私の脱ハジメテ宣言。
結局私は、先生に抱かれるしか選択肢はなかったらしい。
けれど今、私は髪の毛1本にすら力が宿るほど魔力が強くなっている。
そして何より、私が魔力を欲したのはウィレム先生の側にいられる手段が欲しかったからで。
「ウィレム先生。私、先生の側にいられるなら、どんな努力だってしてみせますからね……!」
そう。私は根性には自信があるのだ。
だから、どんな未来だって大丈夫。
そんな私を見て微笑んだ先生は、優しくキスをして抱き締めてくれた。
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