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「急用でして、失礼します」


 オースティンに頭を下げた後、エルダは急いでドアを開けて校舎の中へ入った。

 誰か来るとしたら、アランしかいない。

 話を聞かれてしまった。


 急いで階段を駆け降りると、思った通り、すぐ下の階にアランの姿があった。

 エルダは、アランの背中に向かって、待ってと声をかけた。

 アランの足はピタリと止まったが、振り向いてはくれなかった。


「アラン、もしかして……話を……」


「誰でもいい……か」


 アランの言葉を聞いて、ドキッと心臓が揺れて、バクバクと暴れ始めた。


「一人で舞い上がって返事をして、エルダには迷惑をかけてしまったね」


「アラン……、違うの……」


「いいんだ。今まで選ばれることなんてなかったから……夢を見てしまった」


「アラン、聞いて!」


 何とか話を聞いてもらおうと、エルダはアランの肩に手をかけたが、それを振り払うようにアランは一歩前に出た。


「ごめん、エルダ。何も言わないで、しばらく、一人で考えたい」


「…………」


 エルダはアランの腕を掴もうと手を伸ばしたが、その言葉で触れることができなくなって、静かに腕を下ろした。


 アランは何も言わなかった。

 肩を震わせた後、階段を降りていってしまった。

 アランを追いかけたい衝動に駆られたが、強く否定されてしまい、エルダはそれ以上どうすることもできなかった。

 窓の外から、祭りの賑やかな声が聞こえてくる中、エルダはその場に立ち尽くしたまま、長いこと動くことができなかった。




 学園祭の後、学園は長期休みに入ったが、エルダは家に閉じこもったまま、一歩も外へ出られなくなった。

 心配した両親が、友人のティアラに声をかけたので、ティアラが家に来てくれた。

 エルダの部屋に入ってきたティアラは、ベッドに入ったままのエルダを見た後、閉じたままだった部屋のカーテンを開けた。


「うう……眩しい……」


「一週間もベッドにいたら、根っこが生えるわよ。そろそろ出てきなさい」


 布団からのっそり顔を出すと、エルダの顔を見たティアラは、ひどい顔ねと言ってきた。


「それで、何があったの?」


「……………」


「当ててあげようか。アランに、誰でもいいって告白したことバレたんでしょう?」


「うぅ……」


 エルダが唸り声を上げると、ティアラはやっぱりねと言って、ベッドの端に座ってきた。


「謝ろうと思ったけど……アランにしばらく一人で考えたいって言われちゃって……」


 布団にくるまってポツリとこぼしたエルダを見て、ティアラはハァと息を吐いた。


「貴方が殿下に積極的だったの有名だったから、いつかは知られることよ。こうなったら仕方がないじゃない。後はどうしたいかよ」


「どうしたいか……」


「前に言ったみたいに、お試しだったから、ダメになったら仕方がないって諦める?」


「そんなっ! そんなのは嫌!」


「だったら、ウジウジしないで立ち上がりなさいよ。どうして諦めたくないの? その答えが分からなければ、二人で行った思い出の場所にでも行って、よく考えてみたら?」


 心に漂っていた濃い霧がスッと消えていくような気がした。

 エルダはティアラにありがとうと声をかけた。

 やっと冷静に考えられるようになり、布団から出たエルダは、身支度を始めた。


 


 


 夜の帳が下りる頃、ボート乗り場は大勢の人が訪れていた。

 今、王都で一番人気のあるカップルのデートスポットだ。

 池は夜になるとキラキラと輝くので、雰囲気はバッチリで、告白やプロポーズの場所として、知れ渡っていた。

 どこを見渡しても、仲の良さそうな男女が肩を寄せ合って歩いている姿を見て、エルダは一人で来ている自分が少し恥ずかしくなった。

 ボートに乗るための列に並んだエルダは、前回ここに来た時のことを思い出していた。

 アランは寒くないようにと上着をかけてくれて、ドレスの裾が汚れないように持ち上げてくれた。

 何かと気を使ってくれるアランに、エルダは無理をしなくていいと言った。

 するとアランは不思議そうな顔をして、無理をしているわけではなく、好きでやっていると言った。

 そう言われたら、やめてと冷たく言うわけにいかない。

 あまり甘やかさないでと言うと、ごめんと謝られてしまった。

 誰かのために自分が何かをできるということが、こんなに楽しくて嬉しいものだと思わなかった。

 そう言って笑ったアランを見て、エルダの胸はトクトクと鳴った。

 手を繋いでくれるだけでいいのよと言って、アランの手を取ると、アランは頬を染めて嬉しそうな顔をしていた。

 アランの温かい眼差し、少し柔らかい手は、優しさで溢れていた。


「そうよ……私は……」



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