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「エルダは、くだらない話でもちゃんと聞いてくれて、お腹を抱えて笑ってくれて、僕がドジをしても、怒らないし、一緒に池に入ってくれた。手の届かない完璧な女性ではなくて、中身は普通の女の子で、違う世界なんかじゃなくて、僕と一緒に、歩幅を合わせて歩いてくれる、優しい子だった。会う度に、エルダを知る度にどんどん好きになって……、今日だって、カッコ悪いところを見られたのに、あんなに熱くなってくれて……僕は……僕は……」


 アランがポロポロと泣き出してしまったので、エルダは慌ててハンカチを出して、アランの涙を拭いた。

 胸が熱くなって、壊れてしまいそうだった。

 こんなにも、自分のことを思ってくれる人が、他にいるだろうか。

 どんなにエルダとして着飾っても、中身は前世を引き摺ったまま、つまらない自分だと思っていた。

 しかし、アランは、そんなエルダのことを好きになったと言ってくれた。

 嬉しさか込み上げてきて、思わずアランに抱きついてしまいたい気持ちになった。


「ははっ、こんな格好で話しても、全然ダメだよね」


 アランは全身茶色で木の格好をしている。

 恥ずかしそうにしている顔に、心をくすぐられてしまった。


「ダメじゃない。すごく可愛い」


「え…………ええっ!」


 微笑んだエルダは、アランをじっと見つめた後、乗り出して二人の距離を縮めた。

 ぎしっとベンチが軋んだ音を立てた時、我に返ったようにアランが、後ろに飛び跳ねるように下がった。


「い、いけない! これからクラスの後夜祭があるんだった!」


「えっ、じゃあ、私は先に……」


「い、いいんだ。一緒に帰りたいから、着替えて戻ってくるね。ここで、待っていて!」


 真っ赤な顔で慌てながら屋上のドアを開けて、アランは戻って行ってしまった。

 一人残されたエルダは、ポカンとした顔になったが、アランの慌てた様子を思い出して、クスクスと笑ってしまった。


 いつからか、健気で必死なアランが可愛いと思うようになった。

 少し近づいたら、照れてしまうウブさも、たまらなく可愛い。

 あの平穏を絵に描いたようような糸目も、愛おしいと思うようになった。


 でもこのままではダメだ。

 付き合ったキッカケをちゃんと打ち明けることがないままでは、アランの隣にいる資格がない。

 どうやって打ち明けようかと考えていたら、キィィと音を立てて、屋上のドアが開いた。

 ずいぶん早い帰りだなとエルダが顔を上げると、そこに立っていたのは、アランではなく、オースティンだった。


「オースティン様!」


「おおっ、誰もいないと思ったら、エルダか。少し休みに来たんだが……その、久しぶりだな」


「お、お久しぶりです」


 あの告白までは、毎日のようにオースティンの元を訪ねて、話しかけてくっ付いていたのに、一切近寄ることがなくなった。

 気まずい沈黙が流れてしまい、エルダが目を泳がせていると、なぜかオースティンは近づいてきて、隣に座ってしまった。


「あの時のこと、悪かったな。せっかく告白してくれたのに、顔が好みじゃないだなんて、もう少し言葉を選ぶべきだった」


「いえ、変に期待を持たせるより、キッパリと言っていただけてよかったです」


「そうか……。今まで毎日のように顔を合わせていたのに、あれ以来君が来なくなったから、少し寂しくなったよ。友人として、話を聞いてもらって、助かっていたんだと気がついた。振ったくせに虫のいい話だが……」


「ご迷惑かと思い、控えておりました。殿下が、友人としての会話がご希望でしたら、遠慮なくお呼びください。私のつまらない話でよければいつでも披露します」


 そう言って笑うと、オースティンも安心したように笑い返してくれた。

 オースティンへの気持ちは、どこかへ飛んで行ったかのように、胸からは消えていた。


「エルダ、変わったな……、前はこうもっとギラギラして、鋭い目がどうも苦手で……」


「はは……、鋭い目、ですか。なんとなく、覚えはあります」


 彼は前世からの推しで、憧れの人だった。

 冷静に考えると、恋心というよりは、どうにかして自分が推しを手に入れたいと思って躍起になっていた気がする。

 ゲーム感覚ではなかったと言えば嘘になる。

 実際問題、彼らにとっては、ここが本当に生きている世界なので、ゲーム感覚で近づかれたら、迷惑な話だっただろうと、やっと気がついた。

 それが態度に出ていたから、オースティンは引いてしまったのかもしれない。


「転校生の令嬢と、お付き合いされるそうですね」


「ああ、もう噂になっているのか。まだ、お互いの意思を確認していないが、そのつもりだ。魅力に溢れた人で、一目で気に入ってしまった」


「そうですか。どうぞお幸せに」


 心は少しも痛まなかった。

 ただ、推しの幸せを純粋に嬉しく思い、幸せを祈ることができたので、エルダ自身も心の中で驚いていた。


「エルダこそ、俺に振られて、誰でもいいから告白してやる! なんて叫んでいただろう」


「え!? あれを聞いて……!!」


「バッチリ聞いたぞ。それですぐに、パラディオン家の次男と付き合い始めたと知って、驚いたよ。あんな地味な令息と……まさか俺への当てつけだったりして?」


「殿下、それは……」


 ガシャンと音がして、屋上のドアが閉まったのが見えた。

 ハッと気がついたエルダは、マズいと思って咄嗟に立ち上がった。



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