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「アランのやつ、エルダさんに来て欲しくないって言っていたんですよ。木の役だから、かっこ悪くて恥ずかしいって」


「まぁ、そうなの」


 そういえば、忙しいから来なくてもいいよと言われていたので、何も考えず来てしまって申し訳ない気持ちになった。


「ほら、あそこにいます。台詞はないんですけど、熱演していますよ」


 舞台袖から覗くと、アランは真剣な顔で木になりきっていた。

 茶色い服を着て、頭と手に緑の布を巻き付けている状態だが、それほど滑稽には思えなかった。

 むしろ、真剣に演じている姿がカッコよく見えた。

 主役の狩人が、ポーズを決める際に、アランに足を乗せているのを見て、ムカっときたほどだ。

 演劇が終わり、みんなが頭を下げていると、エルダは早くアランに話しかけたくてウズウズしてしまった。


 パチパチと拍手の音が響いて幕が下ろされると、エルダは急いでアランの側に駆け寄った。


「アラン、最高だったわ!」


「うわっ! エルダ! どうしてここに」


「覗いていたら、入れてもらえたの。素晴らしい舞台だったわ」


 そう言って声をかけると、アランは恥ずかしそうに目を伏せてしまった。


「でも、僕、木の役だし……こんなのエルダに見せたくなくて……」


「何を言っているのよ! 一番カッコ良かったのはアランよ! すごく真剣で、上演中、押されても一度も動かなかった。すごく、感動したわ」


 エルダが熱のこもった気持ちをアランにぶつけていると、周囲から視線が集まっていることに気がついた。

 主役の狩人役が、苦笑いしながら、横で頭をかいていたので、エルダは慌てて口を押さえた。


「エルダ、こっちに……」


 舞台のど真ん中でみんなに見られているので、アランはエルダの手を引いて舞台から降りた。

 階段を登ってたどり着いたのは屋上だった。学園祭の間は限定開放されているが、中庭でダンスパーティーをやっているので、誰も人がいなかった。


「ごめんなさい、私……あんな場所で大声で……」


「ううん、いいよ。すごく嬉しかった」


 アランは大騒ぎしたエルダに怒ることなく、ニコッと笑ってくれた。

 走って疲れたこともあって、二人で屋上にあったベンチに座った。

 今なら聞けるかもしれないと、エルダは息を呑んでから口を開いた。


「ずっと、聞きたかったの。アランは私の告白に、どうして了承してくれたの? 突然、よく知らない生徒から告白されたのに」


 エルダの問いに、アランは空を見上げ後、決心したようにエルダを見た。


「僕ね、いつも兄さんの話ばかりするでしょう?」


「……ええ」


「兄さんは僕とは比べものにならないくらい優秀で、ずっと兄さんが誇りだった。誰に何を言われても、兄さんのことを褒めてくれるなら、少しも痛くなくて……。でもさ、そうしていたら、時々、自分がよく分からなくなっていたんだ。兄さんじゃなくて、自分ってなんだろうって考えたら……何も思いつかなかった」


 お前の兄さんってすごいな、きっとアランはその言葉を数限りないほど聞いてきたのだろう。

 それが誇りで、嬉しい気持ちもあったが、自分とは何なのか振り返ってみた時、何もなかった。

 アランの気持ちを想像したら、エルダの胸はチクリと痛んだ。

 出会った頃のアランは、印象が薄くて、全然頭に入らなかったことを思い出した。


「自分がまるで見えない人間になったみたいな気がしていたんだ。だから、エルダが僕に告白してくれて、ちゃんと見えていたんだって……見てくれた人がいたって嬉しくなって……。でも、自信がなくてすぐに返事ができなかった。やっぱり嘘だって言われたらどうしようかって悩んだ。けど、こんな機会、もう二度とないかもって思って、返事をしたんだ」


 自暴自棄になって誰でもいいからと声をかけたことが、今になってエルダに重くのしかかってきた。

 自分を選んでくれたと、喜んでくれたアランに、とてもそんなことは言えないと体を縮こませた。


「エルダは? どうして僕を好きになってくれたの?」


「それは……」


 エルダの言葉は詰まってしまった。

 本当のことを言ったら、アランを傷つけてしまう。

 何より、アランに嫌われてしまうと考えたら、声が出てこなかった。


「ごめん、困らせちゃったね。いいんだ、一緒にいてくれるだけで、嬉しいから」


「アラン……、私は……」


「エルダは、僕には眩しいくらいの完璧な美人で、世界も違うし、手が届かない人だと思っていた。きっと、僕みたいなつまらない男と一緒にいても、笑ってくれることなんてないって……。でも、それは、僕の勝手な考えだったって気がついたよ」


「……アラン」



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