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「付き合うことになった!?」


 食堂で食後のケーキを食べながら、ティアラにアランとのことを話すと、ティアラは口に手を当てながら、目を大きく開いた。


「だって、仕方がないでしょう。自分から告白したのに、断るなんて。考えてくれたみたいだったし、いくらなんでもさ……」


 エルダは喋りながら、さっき会ったアランのことを思い出そうとしたが、すでに顔が薄っすらとぼやけてきた。

 本当に空気のような存在。

 アランはモブ中のモブのようだ。


「まぁねー、これも何かの縁だと思って、付き合ってみれば? 嫌だったら、やっぱり合わなかったって言えばいいんだし」


 気楽に考えなよとティアラは言って、ケーキをパクパクと食べた後、カップからお茶をぐっと飲んだ。


「そうか……しばらく会ってみて、気が合わないなんて、よくあることよね」


「そうよ、結婚するわけじゃないんだし、重く考えすぎ」


 振り回すようで申し訳ないが、エルダが好きという状態なのに反応が薄かったら、期待はずれだと向こうから断られる可能性もある。

 うんうん考えながら唸っていると、ティアラが名前を教えてと言ってきた。


「ええと、アラン……よ。家名は聞かなかった」


「アラン? アラン・パラディオン? パラディオン公爵家の次男じゃないかな。同じ学年だけど、別のクラスだったと思うわ」


「パラディオン公爵家? 嘘……」


 どう見てもモブくんだが、高位貴族の令息だったので驚いてしまった。

 パラディオン公爵家といえば、国が成立した時から続く、由緒正しい名門の家だ。

 ゲームには出てこないが、国の歴史を学ぶ上で、名前は知っていた。

 確か、長男は王の近衛騎士で、社交界でも浮き名を流している色男だと有名だ。


「そういえば、公爵家の令息なのに、次男君は話題にも上がらないわね。悪い人だったら困るし、ちょっと調べてみるわ」


「ええ、お願い」


 一時期パーティークイーンとして、様々なパーティーに顔を出していたティアラは、顔が広くて、人脈がある。

 貴族の付き合いは、ただの男女の付き合いとは違う。

 時に家としての政治的な関係も含んでしまうので、相手を知らずに付き合うなんていうのは、ありえない話だった。

 考えなしで動いてしまった自分の責任だが、もしもの時のために、ティアラを頼ることにした。


 と言っても、お互いぎこちなかったし、向こうも会話は得意ではなさそうだった。

 エルダも話題が豊富ではないので、アランとの付き合いはそれほど続かないだろうなと思っていた。


「そういえば、さっき職員室に転校生が来ていたわよ。この時期に珍しいって。すごい可愛い子だった」


 途中入学、転校生と聞いたら、ついにヒロインの登場だとピンときた。

 エルダが散々やり尽くしたことを、ヒロインはこれからやることになるのだ。

 二番煎じになってしまうが、やはり彼女はヒロインなのだ。

 見た目は、オースティンの完全なタイプということで、仲良くなるのは時間の問題だろうと、エルダは勝手に想像した。

 初めから、エルダの場所なんてなかった。

 設定通り、ヒロインを邪魔して、悪役令嬢になってやろうかと考えたが、バカバカしくなってやめた。

 これから始まるゲームの展開を、群衆の一人として見ながら、よく知らない相手ととりあえず付き合うことになる。

 未来に希望が持てなくて、これだったら引きこもり令嬢になった方がマシだったと、エルダは悔やんでばかりいた。

 

 

 


 漆黒の髪に、目の覚めるようなブルーの瞳、スラリと高い背、体にはしっかりとした筋肉がついて、太い腕にごつごつして骨ばったセクシーな手。

 男子生徒からは羨望の眼差しを注がれ、女子生徒達からは歩く目の保養とまで言われている。

 それが、オースティン王子。

 完璧に作り上げられた、彫刻のような顔立ちを見て、エルダは口をキツく結んだ。


 一年生のエルダは教室での授業中で、窓側に座っているので、ふと二階の教室から窓の外を覗くと、オースティンの姿が目に入ってしまった。

 オースティンは二年生なので、外で運動の授業を受けていた。

 どこの世界でも運動着はダサいものだが、オースティンが着ると、舞踏会にでも行けそうな格好に見えてしまう。

 イケメンパラダイスと銘打っていたゲームの中で、彼は間違いなくキングだった。

 

 エルダはいつもオースティンを目で追っていたので、当然のように簡単に見つけてしまう自分に嫌気がさした。

 この胸に広がるモヤモヤは、恋が破れたからだろうか。

 失恋のショックでこんなに苦しいのか。

 恋愛初心者のエルダには、よく分からなかった。

 オースティンは、前世からの推しで、付き合えなかったことに悔しさはあるが、彼が幸せになれるなら、それはそれでいいじゃないかという気持ちもある。

 どちらかというと、彼のために努力してきた十年間が、なかったものになってしまったことが、残念だという気持ちの方が大きい気がした。

 ぼけっと外を見ていたら、いつの間にか授業は終わっていて、同級生達は立ち上がり、パラパラと帰り出していた。

 そろそろ帰ろうかと、鞄を開けて教科書を詰め込んだ時、横に人が立った気配がした。




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