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2/11

 エルダはまず、オースティンが出没する中庭に張り込んで、ハンカチを落としての出会いを成功させた。

 朝の散歩で偶然を装って近づき、オースティンの亡くなった母親の好きだった花を見つけて、これが一番好きなのと答える。

 みんなが雑草だって言うけど、この花は私によく似ているの、踏まれても元気に花を咲かせるから、というヒロインの言葉を完コピして披露し、オースティンの心を掴む。

 その後の、図書館でのお勉強、階段の踏み外し、ダンスパーティー、町でのお買い物、星空鑑賞と、全てのイベントで正解の選択肢を選び、完璧に攻略した。


 はずだった……


 ヒロイン登場を控えて、そろそろいいだろうと思った頃、学園の噴水前で待ち合わせた。

 そこで、ついに君に出会えてよかったという台詞が飛び出した。

 はい、勝った。

 これで攻略完了だと、鼻息荒く好きだと告白したエルダに待っていたのは、顔が好みじゃないと言われてフラれるという結末だった。

 


「確かにヒロインと外見は違うけど、それってそんなに大事? まぁ……確かに、大事……か。もしくは、生理的な問題? もうーーなんなの!!」


 父親との関係で悩むオースティンのために、攻略のためでもあるが、エルダは親身になって、一緒に悩みながら励まし続けた。

 自分以外にオースティンと近い距離の令嬢などいない。

 それなのに、フラれるなんて、あんまりだと思った。

 この十年は何だったのだと、だんだんムカついてきたエルダは、足音を立てながらズンズンと歩いた。

 エルダが勝手に努力したことだが、オースティンのために生きてきた十年が、音を立てて崩れてしまった。


「悔しい……私は素敵な恋がしたかった……それなのに……それなのに……」


 ここでピタリと足を止めたエルダは、目の前の建物を見た。

 今は人気がないが、あの角を曲がったら、誰かいるかもしれない。

 もう何がなんでも、誰かと付き合わなければ、気が済まない。


 エルダはヤケになっていた。

 あの角を曲がって最初に会った男性に、付き合って欲しいと告白する。

 それで了承してくれたら、その男性と絶対に付き合ってやる。

 どんなワルでも、おじいちゃん先生でもどんどこい!

 エルダは歯を食いしばって歩き出した。

 一歩、一歩、足を運び、ちょうど角を曲がった時、向こうから来た人と肩がぶつかってしまった。


「ああ、ごめんなさい。大丈夫でしたか?」


 優しそうな声が聞こえて、エルダの視界には、男子生徒の制服が映った。

 エルダは息を吸い込んで腹に力を入れた。


「私、エルダ・グレイスと申します」


「え、……あ、はい」


「好きです! 付き合ってください!!」


 急に告白されて驚いたのだろう。

 息を呑むような音が聞こえて、沈黙が辺りを包んだ。

 ここでエルダは我に返った。

 ヤケになって知らない人に告白するなんて、頭がどうかしていた。


「ごめんなさい! 忘れてください!」


 頭を下げたエルダは、全速力でその場から駆け出した。

 男子生徒から、あっと声が聞こえた気がするが、止まってなどいられなかった。

 

 何もかも上手くいっていたはずなのに、それは全部幻だった。

 せっかく転生できたのに、何もかも水の泡だ。

 ゲームの知識など意味がなかった。

 もう自分の人生は終わってしまった。


 エルダは自分の悲劇で頭がいっぱいで、結局誰に告白したのか、分からないまま、最悪の日を終えた。


 

 


 ※※※




 鏡に映る自分を見ながら、エルダはため息をついた。

 鏡の中には、目鼻立ちがはっきりくっきりしていて、キリッとした眉のとにかく気の強そうな美人が映っていた。

 鮮やかな赤い髪に、エメラルドの瞳は、宝石のようだと称されている。

 前世でもこの世界でも、美的感覚は同じで、エルダは美人の部類に入っている。

 しかし、メイクは必要ないくらい、とにかく濃い顔なので、まじまじと見ると、これが原因かもしれないとエルダは再び息を吐いた。

 よく考えれば、ゆるふわ全開の可愛いヒロインちゃんとは、正反対だ。

 どうしても好きになれないのは、この濃さだったのかと頭に手を当てた。


「ちょっとー、せっかく最新の美容クリームを持ってきてあげたのに、さっきから何回ため息をつくわけ?」


 鏡の中に、ぬっと入り込んできたのは、ラブマジック学園に入学する前に学んでいた、女学校からの友人、伯爵令嬢のティアラだ。

 同じ年で、美容に興味があり、意気投合して仲良くするようになった。

 学校帰りや、休日に、お互いの家を行き来して、美容やお洒落、恋バナに花を咲かせる、エルダにとっては親友だ。

 ティアラは艶のある黒髪のストレートで、青い空のような目をしている。

 エルダとはまた違って、クールな雰囲気の美人だ。

 ティアラの家は貿易商を営んでいて、最新の美容品をいつも手に入れては、エルダにプレゼントしてくれた。

 今日も、いいものが手に入ったと言って、遊びに来てくれたのに、フラれて落ち込んでいたエルダは、ため息ばかりついていた。





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― 新着の感想 ―
[一言] ハッキリした目鼻立ちよか、地味な顔が好きな人は割に居るもんね。 あと高位貴族なら王子様と血が近かったりして 年頃になった娘が、遺伝子が近い父に嫌悪感を抱くように、遺伝子が近い主人公へ女と…
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