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好かれ者  作者: rvrio
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好かれる者1

【好かれ者】

 人間界には、誰からも好かれる者がいる。

 愛想が良くて、明るくて、生真面目で、丁寧で———。

 その人といるのが楽しいのか、それとも都合が良いのか。

 “好かれ者”はいつも平然と生きているだけなのに周りを惹きつけている。

 良くも悪くも、彼らの周りには人が集っている。


 ここで言う“好かれ者”は、上記には該当しない。


=====================================


 放課後の最後のチャイムが鳴る。

 部活動も終わり、数少ない熱心な部員たちも帰路についているのが窓から見える。

 私もそろそろ帰らないといけない。流石に、いつまでも学校にいるわけにはいかない。

 頭を掻いた私は、そそくさと机の上に出していたノートをカバンに収めた。


 ノートには、『今日もアイツが後ろにいる』と書かれていた。


「でねぇ~。その気持ち悪い先輩がうちに告白してきてさ。まじでやばくない?当然断ったんだけど…。」


 帰り際に、部活が終わった部員が二人の女子生徒が教室に入って来た。

 彼女たちは此方に気付くと手を振り、笑顔で声をかけてくれる。


美祢(みね)ちゃん。今日も教室に残ってたんだ。また、“良くない者”でも見えてる感じ?」

「ちょっと、喜菜(きな)。」


 喜菜と呼ばれた女子からはほんのりと酸い匂いが香る。

 バレーで鍛えられた太い腕に太腿からは、部活が終わってもまだ熱が帯びているようだ。


「美祢ちゃんに向かって変なこと言わないの。失礼でしょ。ごめんね。」


 そんな彼女の発言を訂正するように、隣の夜根よねちゃんが肘で彼女の脇腹を小突いている。


「ごめ~ん。そうだ、あれだったら途中まで一緒に帰る?うちらももう帰るからさ。」

「えぇっと。」

「前から思ってたけど、家って古好(こすき)の方だよね?だったら私たちと帰り道一緒なんだよね。未祢ちゃんを時々見かけてるから、声をかけようか迷ってたんだ。」


 私は隣で黙っている夜根(よな)ちゃんを見た。

 すると、視線に気づいた彼女は微笑み返してくれた。


「私も未祢ちゃんと帰りたいなぁ。迷惑じゃなければ。」

「その、じゃあ、お願い、します。」

「あはは。そんな畏まらなくても、私たちも嬉しいよ!皆の“好かれ者”である未祢ちゃんと帰れるんだから。」

「あ、あはは。ありがと。…え?」


 彼女たちとは、普段それとなくしか会話しない。

 週に3回ほど、昼食を一緒にしたり、体育や移動教室で時々関係を持つくらいだ。

 友達のように、いつもいる関係ではない。


「未祢ちゃん、大丈夫?」

「あ、うん。帰ろっか。」


 夜根ちゃんが暗い顔をした私を少し心配そうに覗いてきたため、私は直ぐに帰らなければいけないと思った。

 肩にカバンをかけ、椅子を収めて、足早に教室を二人と共に立ち去った。

 誰かと一緒に帰るなど、私には初めての体験だ。上手く出来るだろうか。

 家までの道、アスファルトに私以外の影が出来ているなんて、奇妙であった。


「いや~。今日の部活もしんどかったなぁ。コーチが怒鳴る怒鳴る。口では簡単に言えるかもだけど、やってるこっちはそう簡単には出来ねーつの。」

「それだけ喜菜ちゃんに期待してるんじゃない?正直、喜菜ちゃんが一番のアタッカーだし。」

「うちだけ頑張っても意味ないでしょ。って、未祢ちゃんも思うよね?」

「え。」


 突如振られた話題に、私は直ぐに返事が出来なかった。

 バレーの話なのだろうが、正直どんなことを言えばいいのか分からないからだ。

 バレーなど、やったことがないし、知らない。

 喜菜ちゃんは部員の中でリーダー的な存在なのだろうか。だとすれば、夜根ちゃんが言うように『頑張れ』と応援した方が良いはず。だけれども、本人は実はそれほどバレーに対して執着はなく、趣味程度で嗜んでいる可能性もある。だとすれば、やんわりと共感してあげるべきかもしれない。


「未祢ちゃん?どした?」

「あ。」


 黙り込んでしまった私の顔を二人が眺めている。

 その眼は澄んでいて、どこか遠い。


「その、無理ない程度で頑張れば良いと思うよ。ほら、体が壊れたら話にならないし。」

「…。」


 二人が黙り込む。

 しまった。言葉の選択を間違えたか。

 そう思った私の頬に冷や汗が流れるが、直ぐに二人は大笑いをし始めたので、それほど問題が無かったのだとわかった。


「アハハ!すっごい言葉を選ぶじゃん!そんな気を使わなくても良いよ!」

「そうそう。私たちの仲じゃない。そんな言葉を選ばなくても良いよ。」

「そ、そうかな。でも、色々と大変そうにも聞こえたから。」

「うわ。見てよ夜根。こいつは出来る女だぜ。優しすぎて惚れそぉ~。今日告白してきたあのキモイ先輩とは次元が違うわ。」

「先輩に失礼だよ。あの先輩だって、喜菜に振られて結構落ち込んでたよ?」

「ちょっと顔が良いからって、調子乗ってるのがキモイ。知ってる?あいつ陰で『俺なら余裕だから、今まで何人落としてきたと思ってんだよ。将来ホストなれるからな俺?』とか嘔吐発言してたんだよ?」

「まぁ、良い噂は聞かないよね。煙草も吸ってるらしいし。」

「な、なんだか、部活動以前に大変そうだね…。そんな怖い人がいるんだ…。」


 男女のジレンマというか、消えない呪いと言うか、いざこざと言うか。

 聞いていて良い気分にならないのは異性との間違った物語な気がすると、私は思ってしまう。

 私が理想とするのは、少女漫画のような出会い。

 冴えない私はパンを咥えて、曲がり角で運命の人とぶつかる。その人の態度は悪態で、初めこそ強気で当たって来るんだけど、実は根は優しくて、私と交流するにつれて彼の心の氷も解けていき、いつしか真面目な青年になってラブラブに—。

 …なんてことは、ブスな私には無いことは承知している。

 けれど、想像と妄想は自由だ。…これが奪われない限り私は生きていけるからな日本政府!日本の素晴らしきアニメ漫画カルチャーを外国の圧力から守ってくれ!アニメと漫画は私の聖書なんだ‼


「でも、私にはあんまり関係ない話だから、羨ましいな。」


 それでも、羨ましいと思ってしまう。

 生まれて17年。異性から告白されたことなど一度も無い。

 だから、単純に良いなと思ってしまう。というか、告白されるということは、女性としての魅力があるのだと判子を押して貰えたみたいで本当に羨ましい。


「ちょっとちょっと。何言ってるの?未祢ちゃんがどれだけ皆から狙われているか知らないの?」

「え?」

「そうだよ!未祢ちゃん、凄い男子から厭らしい目で毎日見られてるよ?」

「えぇ⁉」


 驚愕の事実。そんな雰囲気は一切感じていないはずだ。

 きっと何かの間違いに違いない。

 けれども、頭の中で変な想像をしてしまい私は顔を赤くしてしまう。


「やっぱり自覚無かったか。あんまり男子の前で無防備にしない方が良いよ。男って直ぐ勘違いするから。私みたいに『コイツ行けんじゃね?』って思われた終わりだよ。ガサツに振舞ってると、まじで、まじでヘラヘラした男が来るから。」

「そうそう。未祢ちゃん、時々シャツ出して下敷きで服の中を仰いでるでしょ?あれは止めた方が良いよ。」


 そう言われても、窓際は直射日光が人間バーベキューをしようとやってくるのだが。


「あの、あそこの席暑くて汗が…。」

「だとしても止めた方良いね。ただでさえ下着が透けてるのに。そんなに熱いなら、うちの制汗スプレーなりシートなり貸してあげるからさ。マジで止めた方良い。かなり男子にチラ見されてるから。」

「…えぇ。気持ち悪い。」

「でしょ?だから、やめようねって話。いや、元はと言えば無意識に誘ってる未祢ちゃんが悪いのもあるけど。」

「誘ってない!」

「ふふ。少しは砕けて来たみたいね。」


 夜根ちゃんが笑っている。私は彼女の顔を見て、どこかお互いにホッとしたように感じた。

 正直、あまり仲が良いとは思っていなかったため、帰り道が長くなるのではないかと思っていた。

 けれども、それは私の錯覚だったらしい。いつの間にか家の前まで来ていて、二人とはお別れになってしまった。


「あ、うち。ここなんだ。」

「へぇ…。ここが未祢ちゃんの家かぁ。」

「The・和って感じだね。」

「中は、意外と洋式なんだけどね。」


 何だか『和風=古い』と思ってしまっただけに、一応中は洋式になっていることを伝えておく。


「えっと、二人はまだ先なの?」

「いや?とっくに家は過ぎてるけど?10分くらい前に。」

「えぇ⁉なんでここまで来たの!言ってくれればよかったのに。」


 私は驚いて二人を問い質してしまう。

 二人に気を使わせてしまったのではないか。

 私がいつも一人で何かに怯えていることが、二人にいらぬ心配をかけてしまったのではないかと申し訳なく思ったのだ。

 けれども、二人は『別にと』言う感じで平然だった。

 というよりも、悪い顔をした。


「未祢ちゃんのお家情報は価値あると思ったから。」

「うんうん。これで、いつでも未祢ちゃんに会うことが出来るね!」


 二人は笑う。


「じゃあ明日、迎えに来るから。」

「え、え?」

「じゃあ、7時に迎えに来るね。」

「え、ちょっと。」

「バイバイ!また明日ね!」

「え、あ、ばい、ばい…。」


 二人は時間を気にしたのか。家へ走って帰っていく。

 その背中を見て、やっぱり私は申し訳ないことをしたと思ってしまった。


「…また、貴方の仕業なの。」


 誰もいない玄関にそう呟いた。

 けれども、当然誰かから返答が返ってくることは無い。

 なぜなら、誰もいないのだから。

 いるはずが、ないのだ。



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