最悪な人生
ぼく:(M)ぼくは18才の人間。名前はない……というか忘れてしまった。
いつもお前と呼ばれていたし。
ぼく:(M)それなのに、なんで18歳ってわかるかって?社会適性検査というものをするのが、18才だからさ。
ぼく:(M)優、平、劣……これで決められた結果により、これからの人生が決まってしまうんだ。
ぼく:(M)結果は、ぼくは劣。ぼく以外の一家全員が優だし、元々人間扱いされたことがなかった。だから、さっき完全に捨てられた。
ぼく:(M)大きい城みたいな家の玄関からけりだされ、頭をつかまれて引きずられながら、門まで出されたんだ。
ぼく:(M)だから、もじゃもじゃの黒髪でボロボロの水色のTシャツとはだしで、ふらふらと、歩き回るしかない。
ぼく:(M)初めて家から出たから、見覚えがある場所なんてどこにもないし、まして真っ暗だから体力も神経もすりへるだけ。
ぼく:(M)疲れ果てたぼくは、道端に座り込んでうずくまる。
人間1「今日、楽しかったね」
人間2「ハロウィン、最高!」
ぼく:(M)声の先をみると、2人の人間が話しながら、通り過ぎていく。着たことがない色とりどりの服。キラキラした笑顔と声。聞いたことのない楽しそうな言葉。
ぼく:(M)どれもぼくには与えられなかった。
ぼく:ぼくの人生、最悪だったな……
ぼく:(M)目を閉じたら、つめたいみずがほっぺたに流れる。ブルブルがすごく大きくになってきたから、おさえるようにうつむいた。
ぼく:(M)さよなら。
陽太:トリックオアトリート……お菓子をくれなきゃ、いたずらしちゃうぞ♪
ぼく:(M)うわずった声が聞こえてきたから、なんとか目を開けて、声の先を見る。ピンク色の髪で鼻筋が通った男の子が、口角を上げていた。
ぼく:なにを言ってるんですか?
ぼく:(M)言葉の意味も顔の意味もわからないぼくは、とまどうことしか出来ない。カレはぼくを見つめながら、ボサボサの黒髪を右手でなでてくる。
ぼく:(M)その右手が、頭の後ろから首へおりてきた。カレがフッと笑い、ぼくの視界から消えた。
陽太:ガブッ
ぼく:ッ!
陽太:ズズッ……うん、悪くないね。(吸血音)
ぼく:(М)ドクドクと、身体のソトへでているはずのぼくの血。それが、なぜかやわらかいもので止められて、少しずつ、すいこまれていく。
ぼく:(М)だんだん、モクモクと、くすぐったいような感じが、身体のぜんぶをつつんだ。フシギとイヤじゃないから、わけがわからない。
ぼく:(М)しぜんにでる声が、じぶんじゃないみたいなんだ。なんか、ぼく……変だ。
陽太:(吸血音)
ぼく:(М)こんどは、ふわふわと温かいものが、身体をビリビリさせ、頭は、まっしろになってきた。温かいものに包まれて、いい気持ち。
陽太:ふふっ、気持ちいい?
ぼく:もう、しんでもいい……
陽太:大丈夫、血を吸い尽くしたら死んじゃうから。ふふふ
ぼく:(М)感じたことがないけど、イヤじゃない感覚。うまくヒョウゲンできないし、頭が回らない。
陽太:俺ね、吸血鬼なの
ぼく:きゅう、けつ、き……?
ぼく:(М)兄たちがときどきその話をしていたのをおもいだす。
ぼく:もしかして……朝日家の方ですか?
陽太:そうだよ。君こそ、クズ人間の御前家の坊っちゃんでしょ?
ぼく:はい、ぼくは御前家の人間です
陽太:あれ、意外と素直だね。なら、話は早い……俺の家族を、御前家は傷つけてきた。だから、君にその罪を償ってもらうよ。
陽太:カカをいじめて、ヤーにぃをバカにしてさ。2人を庇おうとしたやさしいマーにぃを、無理矢理手術して、不自由にしたらしいね……身勝手にも程がある
ぼく:(М)カレはクロいカンジョウをぼくにぶつける。もっと……もっともっとちょうだいよ。うらんでいるんでしょ?
陽太:だから、君は生け贄。血は、全部飲み尽くして、皮と肉は全部食べて、骨は御前家に送り付けてあげるから
ぼく:いいですよ
ぼく:(М)血抜きをされ、解剖されるのか。それくらいはするよね。ソウのはんいに入っているから、全然こわくない。
ぼく:(М)ふわふわした意識をつむいで言ったのを、ふふふと笑うカレ。きゅうけつきだっていい、ぼくをこの世から消してください。
ぼく:(М)その願いが届いたのか、カレはぼくをお姫様だっこをして胸に抱え、強く首筋に噛みついた。
陽太:ねぇ
ぼく:はい
陽太:天国よりも良いところに連れてってあげるよ
ぼく:どこ……?
陽太:楽園さ。大丈夫、すぐに気に入ると思うよ
ぼく:(М)目を細めたカレの目が赤く光ったのが見えた瞬間、はじけるように意識がなくなった。