【1】
私は幸せよ。
子供や孫に囲まれてあの世へ逝けるのだから……。
「おばあちゃん! 聞えてる?」
「亜里砂…お母さんはもう…」
天寿を全うした五十嵐ウメ(98歳)は、子供や孫に囲まれて静かに目を閉じていた。
特に病気や怪我などしていないが、最近は布団で寝ている時間が長いと近所に住んでいた子供の嫁からの情報で持ち回りで家の様子を見ていたが、とうとう起き上がるのも億劫になったようだった。
昨日から一度も起き上がらないので、往診をしている医者に見てもらい余命は数日と診断されたばかりで、最期は眠るようだった。
彼女が次に目を開けたときに日本にはあまり見ない石段の建物に囲まれて、街ゆく人たちは海外の映画で見たような装いだった。
彼女は驚いたが
「そのひとつかまえて!」と聞えた幼い声に引きつけられ振り返えると若い男が彼女にへ向かって突っ込んでくる。
とっさにぶつからない程度に避けて足をかけた。
若い男は勢いよく転び、そこに数人の大人が取り囲こみ、そのままどこかへ連れて行かれる。
「ありがとう。あなたすばしっこいのね」
身なりの綺麗な幼子が彼女の目の前に立った。
「いえ、たまたまですから」
彼女と幼い少女の目線が同じくらいになっている。
「あなたのおなまえは? おれいがしたいの」
「わたし、わたしは…」
彼女は先ほどまで布団の上で意識が朦朧としていた。死ぬ間際に夢でも見ているのだろうかと思っている。
「わたしは、【クレア】」
「クレアね! どこにすんでいるの?」
「すんでいるのは…いっ!」
彼女は、突然の頭痛に顔をしかめる。
「どうしたの!? だいじょうぶ?」
頭痛がひどくなり、頭を抱える。痛みに耐えきれなくなり意識を失った。
幼い子供は、この事態にどうしていいかわからず立ち往生している。
「お嬢様。そばに居れずすみません。どういたしました?」
「ジェフ!」
ジェフと呼ばれた老紳士が幼子のそばに寄る。
「このこがたおれて。さっきわたしのとられたくすりをもっていったひとをとめてくれたの」
ジェフは倒れている少女を見下ろした。
身なりは小汚く棒きれのような少女。本来なら、近くの病院へ連れて行くなり近くの人にお金を渡し処置を頼むが捨て置くとお嬢様が悲しむと判断した。
「いったん屋敷に運びましょう。素性は目覚めてからでも聞けるでしょう」
「いいの!?」
「間接的ですが、お嬢様が助かりました」
「ありがとう」
お嬢様と呼ばれた幼子は、ほっとした顔をしたのを見た時、自分の判断は間違っていなかったと老紳士は思った。
「では、馬車に戻りましょう」
「ええ」
倒れている彼女を抱え、近くにいる青年と女性に声をかける。
「リオン、ザラ。この子の身寄りを聞き込みしなさい。後々必要になるかもしれない」
指示を聞いた二人は、うなずくと素早く立ちさった。
幼子と彼女を乗せた馬車も走り始めた。幼子の分岐点を抱えて。
ここでセーブしますか? Yes or No
最終的な流れは決めていますが、完走できればいいなと。




