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運び屋少女の勤務録 〜お困りごとなら帝都人材紹介所にご相談ください!〜  作者: 夏時みどり
第一章 お困りごとなら帝都人材紹介所にご相談下さい!
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8.裏メニューの任務(4)

本日も新キャラが登場します!



 通常なら小半刻こはんとき程馬車に揺られていれば大審院に到着するのだが……。弱いながらも降り続ける雨の所為で、大通りは馬車を利用する人々で混雑していた。


 紬達も二組に分かれて辻馬車に乗り込み目的地を目指すものの、はやる気持ちに反して馬車の動きは鈍い。



「全然進まねぇな……」



 キャビンの小窓から外の様子を確認していた海斗が溜息を吐く。二人の乗った馬車は、あと少しで市街地を抜けるというところで立ち往生していた。



「雨が小降りになったから、今のうちに移動しようとする人が多いらしい」



 外から聞こえてくる喧騒が段々と大きくなっている。向かいの席で腕を組み、右脚を小刻みに揺らしている海斗を眺めながら「馬車を降りて走った方が早いかもしれないな……」などと考えていると、コンコンとキャビンを叩く音が聞こえた。



「おい、降りろ。作戦変更だ。馬車はやめて徒歩で向かう」


 

 扉の隙間から窺うと、岳斗がにゅっと現れてボソリと要件を述べる。大審院まではまだ少し距離があるが、賢明な判断だろう。紬は海斗に目配せし、二人で素早く馬車を降りた。



「ここの奴らは自己中ばかりなのか? 我先にとぞろぞろと動きやがって……」



 悪態を吐きながら人混みを掻き分ける双子と逸れないよう、紬も早足で後を追う。




「おい……()()()とその()だ」


 

「このクソ忙しい時に」と岳斗が唸ると、海斗もチッと大きく舌打ちをする。あからさまに苛立ち始めた双子の視線の先を確認すると、環を警護している紫苑が軍服を着た二人組に絡まれていた。





「いやはや、こんな天気の日にお出掛けですかな? お暇なんですねぇ」



 燃える様な赤い髪をサイドで刈り上げた、いかにも軍人という風貌のガタイの良い青年が嫌味ったらしく紫苑に詰め寄る。


 

その青年の一歩後ろではひょろりと線の細い、若い男が静かに控えていた。目の下まで伸びた長い前髪に顔の半分が隠れており、感情を読み取ることが出来ない。




「善良な市民に構う時間があるならこの渋滞をどうにかしろ。近衛兵こそ暇なのか?」



 業務怠慢だぞ? と紫苑が顔色一つ変えず、冷静に言葉返す。



「お前らの様なドブネズミを見張る為に俺達は仕事してるんだよ。ちょこまかと動きやがって。どうせまた面倒ごとを持ち込もうとしてるんだろ、鬱陶しい」



 あ、ドブネズミじゃなくてドブ()()()だったか? とガタイの良い青年が意地悪い笑みを浮かべた。





「おいおい……他に見張るべき案件が山ほどあるだろ、やっぱり無能なんじゃねぇか?」



 岳斗が紫苑へ加勢しようと駆け寄って、苛立つ感情のままにそう吐き捨てると、赤髪の男に飛びかかった。



 しかし、彼の繰り出した拳は後ろに控えていたひ弱そうな青年に受け止められる。


 紬が目の前の険悪な雰囲気に困惑していると、「彼奴らは国に仕える近衛兵だ」と海斗が耳打ちしてくれた。



「ガタイの良い方が近衛三番隊隊長の綿貫耕太郎わたぬき こうたろう、岳斗の相手をしてるヒョロいのが副隊長 の犬養元いぬかい はじめ。うちの紫苑ボスと綿貫は昔からの因縁があるらしく、いつも難癖をつけて突っかかってくる。同業者の間ではキツネとタヌキを近付けるなって有名だよ」



 お()()()とわ()()()で狐と狸……成る程。一発触発の雰囲気を見る限り、確かに彼らの間には何かしらの遺恨がありそうだ。

 




「今お前らに構っている暇はねぇ。暇つぶしなら他所でやれ」



 紬が一人納得している間に犬養に近付いた海斗は、岳斗の拳を掴んでいる男の細い腕をギリリと握り込んだ。犬養は一瞬ピクリと眉を動かし海斗を睨んだが、ゆっくりと力を緩める。



「おい、余計なことをするな。ちょっと殴らせてやればそのネズミを公務執行妨害でしょっぴけたのに」



 綿貫につまらなそうに告げられ、犬養が「申し訳ありません」と頭を下げる。



「……我々は忙しいんだ。早くそこを退いてくれないか?」



 紫苑がぞくりとする冷たい声を発したが、綿貫は怯むことなく挑発する様に冷めた瞳を覗き込んだ。



「いーや。お前達は怪しい。岳斗そいつの公務執行妨害未遂の件もある。何か良からぬことを企んでいないか確認が必要だ。さっさと屯所に来い!」



「……ぁんだと?」「職権濫用だ!」



 綿貫の無理矢理な言い掛かりに双子が声を揃えて喚き出す。おろおろと両陣営の様子を伺っているだけだった環も、痺れを切らしたのか「権力の不当行使も甚だしい!」と憤っている。




 騒ぎから少し離れたところで「どうしたもんか……」と頭を悩ませていた紬は、ふと紫苑に視線を送られていることに気が付いた。



 あ、ですよね……。了解です。



 仮にも近衛兵と一緒にいる訳だし、依頼主の安全は確保されているだろう。足柄からの刺客に追い付かれる前に告発文書を大審院へ届けなければ。


 紫苑から顎の動きと視線だけで「先に向かえ」という指示を受け取った紬は、小さく頷いてくるりと向きを変えた後、大審院に向かって力いっぱい駆け出した。


\ お読みいただきありがとうございます!/


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