53.苛立ち(1)
……一体何なのだ。
あと一押しの場面に水を差され、烏丸亜須真は思わず出そうになった舌打ちを既の所で飲み込み、声の主を睨む。
鷹司のガキか……相変わらず気に食わない男だ。自分が場違であるという自覚がないのか? 鷹司の当主も新しい君主が決まる重要な会議に出席せず、まだ青臭い息子を寄越すなど、一体何を考えているのだ……。
烏丸は訝しむように眉を寄せ、この場に不相応な年若い青年を睨む。そもそも、こんな青二才が皇帝直属の護衛部隊である親衛隊の隊長を任せられている事自体が気に入らない。
「これはこれは、鷹司の坊ちゃん……一体どうされましたかな?」
冷静に対処しようとしたが、積年の感情が少し溢れてしまった。嫌味たらしく“坊ちゃん”の部分を強調し、立場を弁えろという意味を込めたが、鷹司家の嫡男は臆する様子もなく、皇帝に発言の許可を求めている。
再び出そうになる舌打ちを堪え、烏丸は乱れる心を整えるように鼻から大きく息を吸いこんだ。それをゆっくり吐き出していくと徐々に気持ちが落ち着いてくる。
息を吐き切ると、初めての御前会議に舞い上がっている若者の話を、少しくらいなら聞いてやっても良いかという余裕が出てきた。
断罪が終わり一連の騒動の首謀者がマキであると確定すれば、第一皇子と自分の地位は磐石なものになる。烏丸が四大貴族で一番の権力を手に入れた暁には、公爵である鷲尾は難しくとも、鷹司や朱雀院の力は確実に削いでいくつもりだ。
聡い青年はそれに気付き、何とか点数を稼ごうとしているのかもしれない。そう思うと少し気分が良くなる。
どれだけ点数を稼いだところで無駄なのだが……。まぁ、せいぜい足掻くが良い……。
烏丸は緩みそうになった口元を固く結び直し、憐れな青年の言葉に耳を傾ける。
「この男が一連の騒動の実行犯であることは否定しません。第二皇子殿下に襲いかかった彼を捕らえたのは私自身ですから。ただ……本当にこれら全ての罪を彼一人が画策し、実行したのでしょうか……?」
青年の橙色の瞳が妖しく光り、一瞬こちらに向けられた気がした。
今更何を言い出すのやら……と鼻で笑いそうになったが、妙に説得のある言い回しに周りから「確かに……」と納得するような声が聞こえてくる。
まだまだ甘いが、将来邪魔になりそうな悪い芽は早めに摘んでおかないとな……。
烏丸は一瞬目を細めた後、困ったように眉を下げながら冬至に語り掛ける。
「本当も何も……捜査の結果、この男が犯人であるという揺るぎない証拠が多数上がっているのです。貴方自身が彼の犯行を目撃しているのでしょう? 故にこれは紛れもない事実ですよ。それとも……親衛隊隊長様は近衛隊の仕事が信用出来ないとでも言いたいのでしょうか……?」
駄々をこねる子供をあやすような口調で近衛隊に喧嘩を売っているのかと告げると、マキを捕らえている衛兵達の目尻が吊り上がった。それを見た冬至はとんでもないと言うように肩を竦めて首を振る。
烏丸は「分かれば結構」と満足気な笑みを浮かべて話を終わらせようとしたが、冬至は飄々とした表情のまま、引き下がることなく言葉を続けた。
「近衛隊の皆様には、日頃から大層お世話になっております。その仕事ぶりに感謝することはあれど、疑うなんてとんでもございません。
……しかし、今回に限っては近衛隊内部からも“やや強引な裏付けが多いのではないか”という声が聞こえていることも事実です。
それに加えて……彼は第二皇子を襲ったところを現行犯で捕らえられました。本来であれば親衛隊預かりの筈なのに、爆発騒動の主犯だからと強引に担当を変え、こちらに取調べの機会を与えて頂けなかったのは何故でしょう?」
堂々とした態度で迷いなく問いかけられ、烏丸は本日三度目となる舌打ちしたくなる衝動に駆られていた。
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第2章も佳境に差し掛かっているのですが、中々筆が進まず…進捗が遅くて申し訳ありません。自分の語彙力、表現力の無さを痛感しております…。。
11月中に第2章を完結させられるように頑張りますので、引き続きどうぞよろしくお願い致します!




