41.速達の任務(2)
「俺ってそんなに頼りなさそうかなぁ?!」
馬車に揺られながら源太が憤慨する。どうやら先程の会議室でのやり取りが気に入らず、ご立腹のようだ。
出発する直前になって、マイカが「不安だから自分も付いて行く」と騒ぎ出したのだ。運び屋である紬だけならまだしも、素人のマイカを連れていくのは難しいと皆で諭し、なんとか思い留まって貰った。
マキを想うあまり、居ても立っても居られなくなったが故の言動だとは思うが……源太の自尊心は大いに傷付いたらしい。
実際、小動物のように可愛らしい彼に護衛が務まるのか……という感想を抱いてしまっていた紬は曖昧に微笑むことしか出来ない。
「言っておくけど、俺は紹介所に籠りきりって訳じゃないから。君達は知らないだろうけど、所長や副所長と一緒に任務に行くことも割とあるんだからね!」
「え? そうなんですか?!」
思わず食いつくと、源太がジトっとした目を紬に向けて「やっぱり君も頼りないと思ってたんだね……」と低い声で唸る。
慌てて否定するが「いいもん、今から俺が頼り甲斐のある男だってことを証明してあげるから」とそっぽを向いてしまった。
プリプリと栗鼠のように頬を膨らませて怒る姿は愛らしく、威厳も何も無いのだが……。これ以上余計なこと言って機嫌を損ねてはいけないと、紬は黙って頷いた。
「……皇宮周辺はずいぶん厳重に警備されているみたいだね」
暫く他愛のない会話をして過ごしていると、不意に馬車の歩みが遅くなった。小窓から外の様子を窺っていた源太がボソリと呟く。
紬も身を乗り出して小窓を覗き込むと、近衛隊の軍服を着た衛兵達が明かりを手に皇宮周辺で屯していた。程なくして馬車が完全に止まり、コンコンとキャビンの扉を叩く音が聞こえてくる。
「すみません……お送り出来るのはここまでのようです」
扉を開けると御者の男が顔を出し、申し訳なさそうに頭を下げた。聞けば、豊穣祭を狙った爆発騒ぎやそれに乗じて皇族を狙った刺客が現れた為、状況が落ち着くまで警備体制が強化されているらしい。衛兵以外の者を皇宮に近付けないようにと指示が出ており、通行許可が下りないのだという。
「……成る程。英雄さんは自分の地位が盤石になるまで、邪魔者を近付けたくないようだ」
源太が皇宮の方向を見つめながら薄ら笑う。流華に作成してもらった書簡を見せて通して貰うべきかと考えたが、こちらの動きを烏丸に知られてしまったらと思うと躊躇してしまう。
「でも、この道を通らないと鷲尾家には辿り着けません……」
紬は頭の中で皇宮周辺の地図を思い浮かべた。この通りは普段の配達でも利用するが、馬車が通れるような抜け道は無かった気がする……。
戸惑いながら源太と御者の男を交互に見ていると、源太がにぃぃぃと口角を上げ、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「確かに馬車では無理だね。でも結構距離は稼げたし、ここからは歩いて向かおう」
そう言うと源太は声を潜め、御者の男に「引き返す振りをして木陰で下ろして欲しい」と指示を出す。そして男が「御意」と頭を下げて立ち去ったのを見届けると、パンパンに荷物が詰まった大きなリュックサックの中をゴソゴソと漁り始めた。




