36.烏の陰謀(1)
夾竹桃が上手く流通してくれたら楽だったのだがな……。
第一皇子の後ろ盾につくことを決め、如何にして人々に第一皇子こそが次期皇帝に相応しいと認めさせるかを思案した。そんな時に行きつけの酒場で出会った怪しい商人から夾竹桃の香木を勧められたのだ。
この国には無い未知の毒を流通させ、その騒ぎを収めることで手柄をあげる……上手くやれば第二皇子を亡き者にして第一皇子の地位を盤石に出来るかもしれない。
我ながら中々の妙案だと思い、すぐに派閥の貴族に計画を伝えて指示を出したのだが……まさか、夾竹桃を毒だと見破る者がいるとは思いもしなかった。
屯所に紹介所の小娘がやって来た時、少し嫌な予感がした。小娘から詳細を聞いて予感が的中したことを悟り、力技で揉み消してしまおうと自ら紹介所に出向いたが、鷹司の息子が用意していた鑑定書の所為で誤魔化すことが出来なかった。息子が関わる紹介所に毒を運ばせ、あわよくば鷹司に責任を負わせようと欲を出したのが拙かった。
取調室で「話が違う!」と喚き出した商人の男を黙らせる為、派手に動いてしまったことも反省点だ。どこぞの領主もそうだが上手い話にはそれなりのリスクがあること何故理解していないのだろうか? 烏丸は不満げにフンッと鼻を鳴らす。
第二皇子も何を考えているのか……全く挑発に乗って来ない。
甘言に靡かなかった第二皇子を思い出して顔を歪ませる。皇宮では唯一、この皇子だけが思い通りにならなかった。
皇嗣に懐いていた少年はその思想を多少なりとも受け継いでいるようで、地位をちらつかせたところで全く興味を示さなかったのだ。
気が付くと無意識に爪を噛んでいた。烏丸は小さく舌打ちすると、机の引き出しに仕舞っていた金平糖を取り出して数粒纏めて口の中へと放り込む。
ボリボリと音を立てて噛み潰すと、口の中がいっぱいに甘い砂糖の風味が広がった。いけない、思い通りに事が進まないと冷静さを欠いてしまうのは昔からの悪い癖だ。
鼻から大きく息を吸い込んで吐き出した後、再び金平糖を摘み、音を立てて咀嚼しながら思考を切り替える。
既に毒だとバレてしまった夾竹桃を皇族の献上品に紛れ込ませたのは、第二皇子派を刺激して抗争を起こさせたかったからだ。
譲位の話が出る前から烏丸は秘密裏に火薬の原料を産出している領地を回り、領主を唆して裏取引を進めていた。
火薬取引は国で管理されているとはいえ、近衛隊長の地位があれば、使用報告ぐらい幾らでも誤魔化せる。抗争になったら武力に勝るこちらが確実に優位に立てる筈だった。
手ぐすねを引いて相手が仕掛けてくるのを今か今かと待ち構えていたが……側近達は息巻いているものの、第二皇子はいつまで経っても静観を決め込んだまま動く気配がない……。
第二皇子に争う意思が無いと判断した烏丸は計画を変更し、多くの人々が帝都に集まる豊穣祭を狙って今回の騒ぎを起こすことにした。
参道で起きた大規模な爆発は秘密裏に集めた火薬原料で作らせた爆弾を爆破させたものだ。事態が大きくなればなる程、収めた功績が高く評価されるだろうと、とびきり派手にやるよう指示を出した。これについては本当に上手く事が運んだと、落ち着きを取り戻した烏丸はせせら笑う。




