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運び屋少女の勤務録 〜お困りごとなら帝都人材紹介所にご相談ください!〜  作者: 夏時みどり
第二章 渦巻く陰謀、忍び寄る影
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29.混乱(3)



 マキがいないと嘆くマイカの腕を握ったまま、紬は眉を寄せて忍と顔を見合わせる。店内で消火活動にあたっていた黒服の中にマキの姿はなかった。てっきりマイカと共に客の避難誘導にあたっていると思っていたのだが……。




「紬達と入れ替わりで休憩に入るよう、声を掛けられてから見ていないの……。今思い返すと、なんだかピリピリしていた気がするわ。機嫌が悪いのは二人が休憩時間を過ぎても戻ってこなかったからだと思っていたけど……」




 マイカが不安そうに俯いたまま、ポツポツと言葉を続ける。




「そういえば……何故か真顔で“逃げ出したくなったら休憩室の裏口から外に出られる”みたいなことを言われたわ……」



 

「喫茶 明星」の休憩室には店外に設けられた喫煙所に繋がる裏口があり、そこから大通りに抜けることが可能だった。従業員用の通用口を通るよりも近道らしく、裏口から退勤する黒服も多い。


 確かに息をつく暇もない程ひっきりなし訪れる客の対応に疲れ果てていたが、「流石に仕事を途中で投げ出したりはしないよ」と笑って返すと、マキは沈んだ表情でフロアに戻っていったという。




「でもマキさんがマイカを置いて逃げるなんてことは考えられないわ……」




 忍の言葉に紬も大きく頷いて同意する。マイカがマキを想うように、マキがたった一人の家族であるマイカを大切にしていることは、普段の態度を見ていれば疑いようが無かった。真面目に仕事に取り組んでいた彼が彩芽のように無責任に従業員の役割を投げ出すとも考えにくい。


 まだ店内に取り残されているのだろうか……。でも、マイカにやんわりと逃げるように促していることも気に掛かる。何か事情を知っているのかもしれない。


 とりあえず、渡や消防団に報告して店内を確認してもらおうとマイカを説得していると……


 


 ドンッ、ドドドンッ−−!!!!




 耳を劈き、ズシリと腹に響く爆発音が立て続けに鳴り響いた。爆風にのって巻き上げられた粉塵に襲われて、一瞬にして視界が霞む。




「あ、あれを見て……」



 

 両腕で顔を庇い、身を固くして容赦なく肌を打ちつける砂埃をやり過ごした紬は、忍の震える声を聞いて恐る恐る爆発音のした方向に視線を向ける。




 そ、そんな……。




 そして、目の前に広がる信じがたい光景に唖然として言葉を失った。数刻前まで活気に溢れていた祭りの風景は、一転して地獄絵図と化していたのだ。


 爆発で看板や骨組みが吹き飛ばされた調理屋台から高々と炎があがり、もの凄いスピードで隣り合う屋台へと燃え移っている。それも一カ所だけではなく、複数箇所で同じことが起こっていた。




「は、早く避難しないと……」




 忍がギャァギャァと泣き叫ぶ子供を抱えて駆け出した。爆風が収まって視界が開けると、中央神殿へと続く通りは大混乱に陥っていた。


 人々が迫り来る炎から逃れようと一斉に押し寄せ、道の両脇並んだ屋台や提灯が次々となぎ倒されていく。先程の店内とは比べものにならない程の怒号や悲鳴が辺りに飛び交い、秩序が失われていた。


 崩れた屋台に躓いて転んだり、骨組みの下敷きなって身動きがとれなくなった人は踏みつけられ、親と逸れた子供が声の限りに泣き叫んでいる。しかし、誰もが他人には目もくれず、一刻も早くこの場を離れようと躍起になっていた。




 一体何が起こっているというの……?




 周囲が逃げ惑う人々で騒然とする中、紬は爆発が起きた方向を呆然と見据えたまま動けずにいた。目の前の光景はどこか現実離れしているように感じられるが、砂埃の所為で霞む瞳や、口の中でジョリジョリと音を立てる砂の不快感がこれが夢でないことを物語っている。



 隣で同じように呆気にとられて固まっているマイカが、泣き出しそうな声で「マキ兄……」と呟いたのを聞き、紬は放心状態のままただ黙って彼女の手をぎゅっと握りしめた。



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