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運び屋少女の勤務録 〜お困りごとなら帝都人材紹介所にご相談ください!〜  作者: 夏時みどり
第二章 渦巻く陰謀、忍び寄る影
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28.混乱(2)




 どうしよう……このままじゃ…………。




 紬は苦しそう呻いているご婦人を見据え、ぎゅっと強く唇を噛む。倒れた彼女に何度も「大丈夫ですか?」と呼びかけ、肩を叩いているが、意識が朦朧としているようで一向に返事が無い。


 何とかしなければと思うものの、医学の知識が無い為自分ではどうすることも出来ないのがもどかしい。とにかく重症者を安全な場所に連れていかなければ。


 焦る気持ちを落ち着かせながら、消火活動にあたっている黒服に声を掛け、倒れている客を早急に店外へ運び出して欲しいとお願いする。




「紬! 大丈夫?? この方達は一体……どうなっているの……?」




 背後からくぐもった声がした。振り向くと、忍が困惑したような表情を浮かべている。充満する煙を吸い込まないよう、彼女の口元にもしっかりとハンカチが当てられていた。




「確証がある訳ではないのですが……。煙を吸った人達の症状から想像すると……この煙は夾竹桃が燃やされて発生したものかもしれません……」




 慎重に告げられた紬の言葉に、忍が「まさか……」と青ざめる。店が広い為、煙はまだ致死量の濃度には達していないようだが、このままでは店内に残っている従業員も影響を受けるだろう。




 あぁ……本当はこんな乱暴なことしたくないけど……でもごめんなさい。とっても緊急事態だから……どうかお許しください!!




 紬は心の中で懺悔すると、壁際に移動して二人掛けテーブルの椅子をヨイショと持ち上げ、窓に向かって力一杯叩きつけた。


 ガシャーンという大きな音がして豪快に窓ガラスが割れ、勢いよく破片が飛び散る。「きゃっ!」という悲鳴が聞こえ、忍が目を丸くして紬を見ていたが、すぐに意図を理解したようだ。



 店内西側に光を取り入れる為に設置されているこの窓は、隣の建物と隣接している為、割っても人に被害が及ぶリスクが無いと判断した。


 案の定、割れた窓の向こう側から悲鳴などは聞こえてこない。暖炉で轟々と燃えている炎は、渡や黒服達の懸命な消火活動によって燃え広がってはいなかった。今はとにかく重症者の避難と店内の換気を優先させようと、紬は再び椅子を持ち上げる。




*****




「大丈夫ですか?!」




 暫くの間、店内の換気や消火活動に奮闘してると揃いの法被を着た消防団や医療具を携えた救護隊がぞろぞろと現れた。紬は渡に呼ばれ、分かる範囲の状況を説明する。


 夾竹桃の話を聞いた救護隊員は緊迫した表情になり、優先的に煙を吸った重症者の治療にあたると頷いてくれた。



 消防団が消火活動を始めると火はあっという間に鎮火し、充満していた煙も徐々に薄くなっていく。最後の客の避難が完了し、紬達従業員も店の外に避難するよう指示が出た。



 皆が不安や安堵など、様々な感情を口にしながらぞろぞろと店の外に出る。長い時間店内に留まっていたことが災いし、体調不良を訴える者も多かった。


 ちなみに看板給仕である彩芽は、爆破音を聞いてを真っ先に店から逃げ出したらしく姿が見えない。その行動に対してあちこちから「ありえない!」と非難の声があがっている。




 「マイカは無事かしら……?」




 忍が心配そうに辺りを見回す。紬達と入れ違いで休憩に入ったマイカは爆発音を聞いてすぐに店内に戻り、客の避難誘導を行っていた。


 客と一緒に外に避難していることを願い、野次馬で溢れ返る大通りを見渡すと、店から少し離れた場所で泣いている子供を宥めているマイカの姿を見つけた。




「マイカ! 良かった! 無事だったのね!」




 二人で駆け寄ると、紬達の姿を確認したマイカもホッとしたような表情を浮かべる。しかしすぐに眉下げ、泣きそうな表情になって口を開いた。




「二人共、無事で良かった……ごめんなさい。この子をお願い出来きますか?」




 迷子みたいなんですと告げると、マイカは泣きじゃくる子供を忍に預け、店の方へと駆け出そうとする。




「え?? マイカさん、駄目! 危ないです!」




 今は店内に戻るべきではないと紬が慌てて引き止めると、マイカは「行かせて……」と力なく首を横に振った。どうしたのだと問うと、悲痛に顔を歪ませて声を絞り出すように叫ぶ。

 



「マキ兄が……マキ兄がどこにもいないの!」




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