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運び屋少女の勤務録 〜お困りごとなら帝都人材紹介所にご相談ください!〜  作者: 夏時みどり
第二章 渦巻く陰謀、忍び寄る影
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26.再会



 マキの後を追い掛けて休憩室を飛び出すと、店内は相変わらず多くの人で賑わい、満席状態だった。


 忍と別れて案内されたテーブルへ向かうと、髪型も服装もきっちりと整えられた実直そうな青年が「紬さん!」と立ち上がり、顔を綻ばせる。




「ご無沙汰しております! その節は本当にありがとうございました。」




 青年が明るい声で告げると、その向かいに腰掛けていた大人しそうな雰囲気の女性が席を立ち、一緒に一礼した。紬も慌てて頭を下げた後、青年へと向き直って口を開く。




たまきさん! お久しぶりです! 帝都にいらしてたんですね」






 紬に会いたい客とは、約三ヶ月前に領主の横領罪を告発したいと紹介所を訪れた、足柄領の役場で経理を担当している環だった。豊穣祭が執り行われる帝都を観光する為に昨日からこちらに宿泊しているらしい。




「折角なので皆様に挨拶しようと思って人材紹介所を訪ねたら、流華様に紬さんはこちらに居ると教えて頂いたのです」




 そう言うと、環は申し訳なさそうに眉を下げ「あの時は挨拶もないまま領地に戻ってしまって……本当にすみませんでした」と頭を下げた。




「え?! そんな、気にしないでください! あれは眠っていた私が悪いですから!」




 聞けば功労者である紬に直接礼を言わず、領地に帰ってしまったことをずっと気に掛けていたという。しかし、そもそも環に会えなかったのは、紬が判断を誤って刺客に襲われた挙句、怪我を負って気を失ってしまったからだ。


 完全に自業自得なので気にしないでくださいと伝えると、環は戸惑う素振りを見せながらも、安心したような表情を浮かべた。




「こちらは以前お話していた恋人の理絵りえです。僕達、この度婚約することになりました」


「理絵と申します。その節は環さんが本当にお世話になりました。人材紹介所の皆様のおかげでこうして無事に婚約を結ぶことが出来ました」




 環の紹介を受け、向かいの席の女性が再び丁寧にお辞儀をする。嬉しい報告を受けた紬は破顔して「おめでとうございます!」と祝福の言葉を掛ける。




「ご婚約されたということは……今回のご旅行は婚前旅行ですか……?」




 紬の問いかけに二人は顔を見合わせ、照れながら頷いた。なんとも微笑ましい光景だ。最近忙しすぎて荒んでいた心が浄化されていく気がする……。



 足柄領は孝治が横領罪で投獄された後、先代領主の甥がその後を継いだらしい。新しい領主は聡明な人物で、元々領民が希望していた農業で収益を上げられる環境を整えてくれているという。自分の仕事が足柄領の平穏や環達の幸せに繋がったことを知り、紬は少し誇らしい気持ちになった。



 幸せそうな二人に釣られてニコニコと微笑んでいると、ドンッ−−と肩に強い衝撃を受け、身体がよろめいた。


 驚いて目を見開くと、彩芽が恐ろしい形相でこちらを睨んでいる。油を売っていないで仕事をしろということだろう。




 彩芽さんも一番忙しい時間帯に馴染みの令息と長時間話し込んでいた気がしますが……。




 理不尽な仕打ちに少々苛立ってしまったが、客足が途絶えない店の状況を見ると、そろそろ戻った方が良さそうだ。




「もっとゆっくりお話ししたいのですが、本日はお客様が多くて……申し訳ありません」


「いえいえ、こちらこそ。お忙しい時にお時間をいただいてしまってすみませんでした。お会い出来て良かったです」




 名残惜しい気持ちで仕事に戻らなければいけないことを謝罪すると、環が理絵と共にとんでもないと首を振る。しかし、ふと真顔に戻り「最後に一つだけお耳に入れておきたいことが……」と声を潜めた。


 そして「何でしょう?」と首を傾げる紬の耳元に顔を寄せると、店内の賑わいに紛れてしまう声量で囁く。




「孝治様が牢の中で亡くなったそうです」




 緊張の色を孕んだ声色で簡潔に告げられた環の言葉に紬は瞠目し、静かに息をのんだ。



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