24.意外な客(2)
「えぇ?! 紫苑様って結婚されているんですか……?!」
流華の言葉を聞いた忍が素っ頓狂な声をあげる。紬も衝撃の事実に声が出ず、コクコクと頷いて驚きを表現する。紹介所の幹部達は皆、身を固めていてもおかしくない年齢ではあるが、これまで誰からも女っ気を感じたことがなかった。
特に紫苑は女性人気はあるものの、クールな言動から冷たい印象を持たれることが多く、好意を示す相手にかなり素っ気ない態度をとるので女性が苦手なのだと思っていた。それがまさか、既婚者だったとは……。
「あら、知らなかったの? まぁ、あいつは自分からは話さないか……。私達が帝都学院の同級生だったことは知ってるでしょ? あいつの嫁も同級生なの。紫苑は学生時代から婚約していた幼馴染と結婚したのよ」
こう聞くとすごくロマンチックでしょと流華が笑う。なんと、純愛を実らせるタイプだったのか。そう考えると女性へのあの態度にも納得がいく……ような気がする。
「実際ロマンチックだっただろ。色々あったけどあいつらずっと相思相愛だったじゃないか」
紫苑の名誉の為に伝えておくと、今でもラブラブだよと冬至が笑いながら告げる。どれだけ頑張ってもあの紫苑が女性に愛を囁いている姿を想像することは出来なかったが、自分なんぞに想像されても迷惑だろうと紬は思考を放棄した。
あれ、ということはもしかして……??
「お、お二人も実はご結婚されていたりするのでしょうか……?」
忍がやや緊張した面持ちで尋ねる。心なしか不安げに声が震えている気がする。
そう、密かに彼女の恋を応援している身としてもこれは気になるところだ。紬は騒ぐ心を落ち着かせながら、上司達の顔色を窺う。
「いや、残念ながら僕達二人は結婚していないし、今のところそんな予定も無いよ」
婚約者すらいないからねと苦笑する冬至の言葉に「別にモテないわけじゃないのよ」と流華が口を尖らせる。流石に先程の光景を見せられて、彼らがモテないと思う者はいないだろう。
上司達の独身宣言を聞いた忍がホッと小さく息を吐いた。そして「そうですか」と嬉しそうな笑みを浮かべる。そんな忍に優しい表情を向ける流華を見て、紬は「脈が無い訳ではなさそうだけどなぁ……」などと野暮なことを考える。
「さて、そろそろ本題に入ろうか。急に尋ねたのは君達の様子を見たいというのもあったけど、忍に調査を頼んでいた件に進展があったからだ」
コホンと咳払いをした冬至の顔から笑みが消えた。普段紹介所で受付嬢をしている忍が外仕事をする際は、大体情報部の仕事を一緒に任されている。なんとなく察していた紬は、特に驚くこともなく居住まいを正す。
「皇族への献上品から、夾竹桃の香木が発見されたわ。あの商人が持っていたものと同じものだそうよ」
えっ…………??
声を潜めて告げられた内容に、思わず言葉を失った。忍も眉間に皺を寄せて流華を見つめている。
「あの事件は近衛隊から秘密裏に調査を進めたいという要望があり、まだ公に発表されていない。しかし、皇宮で働く者には情報が共有されていた筈だ。にも関わらず、紛れ込んでいたらしい」
あの毒で皇族の命を狙っている者がいるようだと冬至が真面目な顔で続ける。
「直ぐに献上した商人を捕えて尋問したが、見知らぬ男に一級品の香木を格安で譲ると声を掛けられて購入しただけで、その毒性については知らなかったと証言している」
夾竹桃を売りつけた男は「この国ではまだ出回っていない品だから献上品にすると喜ばれる」と語っていたらしい。
「調べたところ、この繫華街周辺で同じように怪しい男に声を掛けられたという報告が多数上がっているわ。男は帽子を目深に被って顔を隠していたけど、歳は二十歳前後の青年みたいよ」
「客の中に怪しい男の目撃者や接触のあった者がいるかもしれない。出来るだけ早急に情報を集めてくれ」
冬至の言葉に忍が「畏まりました」と頭を下げる。そして少し考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。
「では、円滑に進める為に紬にも情報収集を手伝って貰います。あと、お店での接客業務は続けさせてくださいね?」
話を聞くには一番手っ取り早いのでと忍が告げると、二人の表情がピシリと固まったが、最終的には背に腹は変えられないと渋々了承してくれた。
小説のストックが切れてしまったので、明日は登場人物紹介 〜第二章編〜のみの公開となります…。
明後日より再開できるよう頑張りますので、今暫くお待ち下さいませ。




