23.意外な客(1)
豊穣祭本番まであと二日。帝都を訪れる人が増えているのか店内は連日多くの人で賑わっており、必然的に紬達が接客につく機会も増えている。
彩芽の嫌がらせに多少悩まされながらも、帝都人材紹介所から派遣された四名は順調に業務をこなしていた。
「忍さん、紬さん、お二人にご指名です」
昼のピークが終わった時間帯を見計らって渡に声を掛けられた。聞けばこれから来店するお客様の接客をお願いしたいと言う。
「え、二人でですか?」
指示に戸惑って確認をすると、渡はこくりと首を縦に振った。どうやら聞き間違いではないらしい。紬は不安気な表情で忍と顔を見合わせる。
接客の機会は増えているが、必ず既存の従業員が同席しており、派遣である自分達だけで客をもてなした経験は無かった。
流石に既存スタッフと一緒に入った方がいいのでは……と主張してみたが「今回はお二人でお願いします」と短く告げられる。
「お客様はもうすぐ到着されるので、こちらで待機していて下さい」
普段は使用されていない個室へと案内され、二人は困惑しながら席に着いた。自分達を希望する客とは一体誰なのだろうと首を捻っていると、入口の方から歓声が上がり一気に店内が騒がしくなる。
何が起こったのか気になって扉の隙間からこっそり様子を伺うと、来店した二人組に女性客や給仕係の少女達の視線が釘付けになっていた。
そんなに凄い方がいらっしゃったのかしら…………???!!!
好奇心が勝って扉から身を乗り出すと、黒服の影に隠れていた客の姿が目に飛び込んでくる。その予想外の人物に、紬は驚きの余り絶句してしまった。
「えっ?! 所長と流華様……?!」
驚嘆の声を聞いて隣へと視線を移すと、忍も同じように目を瞠いている。店内の女性達の視線を一瞬にして奪った見目麗しい二人組は、人材紹介所の上司達だった。彼らは渡に連れられて、真っ直ぐこちらへ向かってくる。
動揺のあまりその場から動けずにいると、青年達の行方を追っていた店内の視線が一斉に紬達へと向けられた。
あ、まずい……。
視界の端にニヤニヤと悪戯っぽい笑みを浮かべるマイカと、顔を歪ませてこちらを睨む彩芽の姿が映る。せっかく店長が配慮してくれたのに、のこのこと顔を出して無駄に注目を浴びてしまった。これはまた彩芽からの嫌味を覚悟しなければいけないなと紬は顔を引き攣らせる。
「え〜っと……いらっしゃいませ?」
個室にやって来た冬至と流華を前に、忍が困惑しながら席を勧める。紬はグラスに水を注ぎながら、少々緊張した面持ちでその様子を眺めていた。
「なに緊張してんの? あんた達がちゃんと仕事をしてるか確かめに来たのよ。意外と様になってるじゃない」
流華は戸惑う忍に揶揄うような笑みを向けると、冬至と共に長椅子に腰を下ろした。
「もう! 突然で吃驚しました! 報告なら紹介所でやりますから!」
紬が冬至達のオーダーを伝えて戻ってくると、忍が頬を赤らめて喚いている。流華が可笑しそうに「ごめん、ごめん」と笑ったが、すぐに真顔に戻って口を開いた。
「それにしても、ここ喫茶店じゃなかったの? 確かに若い男女の出会いの場所になっているとは聞いてたけど……これ殆どラウンジじゃない!」
美しい青年に「あんた達、変なことさせられてないでしょうね?」と睨まれ、二人でブンブンと首を横に振る。この店の業務内容は上司達にも詳しくは説明されていなかったらしい。
「主な仕事はオーダーや商品の配膳です。最近、接客でお客様につくことも増えましたが、お店自体は健全ですし、特に困ったことはありません」
彩芽の件に関しては、冬至達に伝えてもしょうがないだろう。紬は慌てて弁明したが、何故か上司達は眉を顰めて険しい表情になった。
「契約では喫茶店での給仕の仕事としか説明されていなかったが……客の相手までさせられているのか。先方には後で苦情を入れておく」
冬至はそう言うと苦虫を噛み潰したような表情で渡が去っていった方向を見つめる。
「ねぇ、本当に大丈夫? 変な男に引っかかってないわよね?」
責任を感じているのか、流華が心配そうな表情で尋ねてきた。ここ数週間、豊穣祭関係の仕事が立て込んでいて紹介所は物凄く忙しかったのだ。依頼一つ一つを細かく調べて請け負うかどうかを判断するのは難しかったのだろう。
忍と共に何度も心配ないと伝えると、まだ腑に落ちない表情をしていたが、なんとか納得して貰えたようだ。
「全く……これから仕事を受ける際は要注意ね。それにしても紫苑を連れて来なくて正解だったわ。こんな如何わしい店だったと分かったらあいつタダじゃ済まなかったわよ」
「紫苑様は本日お仕事ですか?」
決して如何わしい店ではないのだが……話題を逸らす為にあえて否定せず、もう一人の幹部について尋ねてみる。すると流華は少々呆れたように口を開いた。
「あぁ、今日は留守番よ。アイツの嫁、かなり嫉妬深い性格なの。若い女性が集まる場所に連れて行ったなんてことがバレたら相当面倒くさいから置いてきたのよ」




