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運び屋少女の勤務録 〜お困りごとなら帝都人材紹介所にご相談ください!〜  作者: 夏時みどり
第二章 渦巻く陰謀、忍び寄る影
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16.不穏な依頼(3)



 依頼主の男が拘束されてから一刻が経過した頃、紹介所の入口がざわざわと騒がしくなった。


 紫苑の指示で屯所に向かった紬が、軍服を着た近衛兵を連れて戻ってきたのだ。利用者達の好奇の視線に晒されながら一行は真っ直ぐ執務室へと歩みを進める。




「紬です。近衛隊の皆様をお連れしました」




 扉を叩いて短く告げると、すぐに紫苑が顔を出した。一瞬、紬の背後に立つ近衛兵の顔を見て眉を顰めたが、すぐに真顔に戻り「どうぞ」と身を引いて客人を招き入れる。


 自分の役目を終えた紬は一礼して持ち場に戻ろうと踵を返したが、紫苑から「お前も入れ」と告げられた為、恐縮しながら入室する。



 執務室では穏やかな笑みを浮かべた冬至と、縄で手足を拘束された太々しい表情の男が並んで長椅子に腰掛けていた。




「おや? 隊長様直々にお越しいただけるとは……。ご足労頂きありがとうございます」




 冬至が明らかに位の高そうな軍服を着た壮年の男性に向かって声を掛ける。


 長い黒髪を後ろで一つに束ね、眉間に深い皺を寄せて険しい表情で冬至を見据える男は、近衛二番隊の隊長であり、四大貴族の一つである烏丸家の当主、烏丸亜須真からすま あすまと言うらしい。



 屯所にて事情を説明し、兵の派遣をお願いすると隊長自ら出向くと言われ、紬は大いに動揺してしまった。


 できる限り失礼の無いよう細心の注意を払ってお連れしたつもりだが、問題無かっただろうか……。冬至に不安気な視線を送ると「大丈夫だよ」とでも言うようににこりと微笑まれる。




「それで、そいつが例の商人か?」




 烏丸の冷たい声に、冬至が真剣な表情で頷いた。拘束された男がチッと大きく舌打ちをしたが、紫苑に睨まれ気まずそうに視線を逸らす。




 


「これを毒ではないかと指摘され、男が暴れたと……」




 改めて詳細な報告を受けた烏丸が、問題の香木を眺めながら不審そうな表情で確認する。




「はい。彼女は仕事の関係で薬草に見識があるのです。故にこの国では馴染みのない毒草に気付いてくれました」


「……平民の小娘の知識を信用して大丈夫なのか?」




 烏丸に訝しげな視線を向けられ、紬の身体がびくりと強張る。




「傷害未遂については認めるが、毒物については信憑性があまりに薄い。この件は一旦近衛隊で預からせて貰う」




 烏丸はそう言うと、部下に男の持ち物を押収するよう指示を出した。拘束された男がニヤリと口角を上げ意地の悪い笑みを浮かべる。


 紫苑がピクリと眉を動かし意味ありげに視線を送ると、冬至は表情を変えることなく淡々と口を開く。



「彼女は真面目に仕事をこなしていますし、薬草を見分ける知識については専門家からもお墨付きを貰っているのですが……。信用頂けないのであれば、こちらに鑑定書もあります」




 そう言うと、懐から一枚の紙を取り出し、烏丸に差し出した。




「この男が逆上して暴れたのが何よりの証拠かと思いますが……一応信頼のおける専門家に鑑定を依頼しました。異国の植物なのでこの国では馴染みがないですが、確かに扱い方に注意が必要な毒性の強い植物だそうです。


 彼女の見解どおり、香木として使用されると最悪の場合死者が出るとのこと。……それでも疑われるのであればご自分で効果を確かめられては如何ですか?」




 差し出された鑑定書には八雲のサインが入っており、先日紬が見た植物図鑑の複写コピーも付けられている。



 

 え、いつの間に……??




 冬至は依頼主の男を取り調べていたし、紫苑は近衛隊を受け入れる準備を進めていた筈だ。一刻程の時間があったとはいえ、上倉邸に赴いて鑑定書まで入手しているとは……。紬が彼等の仕事の早さに驚いて目を瞠ると、真顔だった冬至が悪戯っぽい笑顔を浮かべた。



 烏丸は冬至から奪うように鑑定書を取り上げ、その内容に目を通す。じっくりと時間をかけて読み終えると、控えていた部下に毒物の密輸罪も加えておけと苦々しげに命じた。


 隊長の命令を受けた部下達はてきぱきと男に猿轡を噛ませ、更に頑丈にその身体を拘束していく。




「……小賢しい鼠もたまには役に立つのだな」




 去り際に馬鹿にしたような口調で烏丸が囁いた。耳聡い冬至が笑みを浮かべて「近衛隊長様のお役に立てて光栄です」と応じる。



 一瞬、憎悪に満ちた表情で冬至を睨む烏丸だったが「ふんっ」と鼻を鳴らすと、くるりと背を向けて足早に執務室を去っていった。紫苑が一緒に屯所へ向かう為、その後を追う。




「紬、本当にお手柄だったね。ありがとう」




 ピリピリとした威圧的な空気から解放され、思わずほぅ……と溜息をついてしまった紬に、冬至が労いの言葉を掛ける。




「あ、いえ。仕事の話に口を出してしまって、すみませんでした……。でも、その……毒の流通を事前に防ぐことが出来て良かったです」




 上司からのお褒めの言葉に照れながら、もごもごと要領を得ない返事をする。




「いやいや、あのまま知らずに依頼を受けていたら僕達は密輸の実行犯にされていたかもしれない。本当に助かったよ」




 なんと、そういう危険性もあったのか……。想像して青くなってしまった紬を見て、冬至がくすりと微笑んだ。




「いつも真面目に仕事をこなしてくれているお陰だね。……それにしても、煙で心臓麻痺を誘発する植物か……」




 紬をひとしきり褒めた後、冬至は不意に表情を消して考え込むように口を噤む。それから暫くの間、眉を寄せたまま黙り込んでしまった。


 急にどうしたのだろう……。紬は困惑するが、彼の思考の邪魔をしないよう、息を潜めてその横顔を見つめていた。


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