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運び屋少女の勤務録 〜お困りごとなら帝都人材紹介所にご相談ください!〜  作者: 夏時みどり
第二章 渦巻く陰謀、忍び寄る影
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14.不穏な依頼(1)



 領主の横領を告発したいという環の依頼を受けてから三ヶ月程が経過した。いつの間やら季節が変わり、紬の首の痣もすっかり消えて無くなっている。


 人材紹介所は二週間後に帝都で大々的に執り行われる豊穣祭に向けて繁忙期を迎えていた。本日も仕事や働き手を紹介して欲しいという人々が受付に長い列を作っている。



 普段は運び屋として働く紬も、この日ばかりは人材紹介所の所員として、忍の補佐をしながら慣れない受付業務をこなしていた。




「紬! こちらのお客様を所長の所までご案内して。受付待ちの人が途切れなくて手が離せないの! お茶出しもお願いね!」




 紬は忙しそうな忍から押し付けられた「依頼申請書」と書かれた書類に目を通す。そこには依頼主の基本情報に加えて「裏メニューの依頼希望」と走り書きで記されていた。


「了解です」と短く返事をし、目の前に立つ恰幅の良い男を建物の奥へと案内する。





「紬です。裏メニューを希望されているお客様をお連れしました」




 薄暗い廊下を進んだ先にある執務室と書かれた扉の前で立ち止まり、軽くノックする。「はい」と言う返事を待って声を掛けると、程なくしてガチャリという音と共に扉が開いた。



 出迎えてくれた冷たい雰囲気を纏う美丈夫に一礼して、依頼申請書を手渡す。帝都人材紹介所のNo.2である紫苑に鋭い視線を向けられ、依頼主の男がゴクリと喉を鳴らしたのが分かった。


 紬は男の方を振り返り、安心させるように微笑んで入室を促すと、自身は茶を汲む為に給湯室へと向かう。






「異国で珍しい香木を見つけたのです。こちらはまだ同業者には知られていない一級品です。これを賊や同業者ライバルに秘匿したまま、安全に帝都へ運び込みたいので、運び屋か荷馬車の警護を頼める人材を紹介して頂きたい」



 三人分の湯呑みを盆に乗せ、話の邪魔にならないようにそっと執務室に入ると、依頼主の男が説明を始めていた。


 所長である冬至と依頼主の男が向かい合って長椅子に腰掛け、両者の間に置かれた長机には商品である香木や資料の束が綺麗に整列して並べられている。




「この植物は香木としても優秀ですが、花の咲きっぷりも見事なものです。このように夏の頃になると、赤や桃色、白い花を枝いっぱいに咲かせるのです。狂い咲く様はそれはもう圧巻なので、きっと貴族の皆様にも気に入って頂けるかと……」




 商人は香木だけでなく、木の苗も一緒に輸入して鑑賞用植物として貴族向けに販売したいと話す。そしてゆくゆくは香木を自国生産出来る体制を整えたいそうだ。




「ふむ。少々ひんが無いような気もするが……確かに咲きっぷりは見事ですね。派手好きな貴族になら需要があるしれない」




 冬至は商人から手渡された資料に目を通し、描かれた植物画を眺めて感想を述べる。彼の言葉に、商人の男は「そうでしょう」と満足そうに頷いた。




「こちらの香木も特別にお譲り致しますので、是非ご利用下さい。お休みの際に枕元で焚いて頂ければゆっくりお眠りになれますよ」




 そう言うと、男は一級品と言われる香木を冬至と紫苑に手渡した。コロンとした可愛らしい見た目に加えて、青や黄色などの鮮やかな香料で着色されており目で見ても楽しめる工夫がされている。


 紬はどんな植物が使われているのか気になって、お茶を配りながらこっそりと冬至の持つ資料を盗み見た。




 ……え? これって……??




 描かれている植物画を目にして思わず息をのむ。紬の些細な動揺に目敏く気付いた冬至が、不思議そうに首を傾げた。




「何か気になることでもあったかい?」


「あ、いえ……。私の勘違いかもしれません」




 咄嗟にそう答えたが、背中に嫌な汗が伝う。つい最近、同じものを八雲の洋館で見た気がする。




「とりあえず言ってみろ」




 紫苑に有無を言わせない口調で促され、紬は緊張をほぐす為に小さく深呼吸する。そして、冬至が持つ香木を指差しながら、恐る恐る口を開いた。




「……これは毒ではありませんか?」




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