2.公爵令嬢は両親を追い込む
お茶会が終わると良心とわかれ、いや両親と別れ私はとっとと家に帰ってきた。今頃婚約推進派の諸氏は王宮で作戦会議でもしていることだろう。面倒なので私は飯を食って寝た。
翌日早速呼び出しがあったので、侍女1号とお父様の書斎に行くとお母様と家宰であるじいやも揃って待ち構えていた。
「娘ちゃん!どうして昨日はあんな事を言ったんだ!」
お父様はお怒りのようです。
「お父様は何をお怒りなのでしょうか?最初から婚約しないとお伝えしていたはずですが?」
「確かにそういう話はしていた。しかし王族に対する礼儀ではなかっただろう。それに高位貴族の義務としてどちらにせよお前は政略結婚をすることになるのだぞ。」
「何を言っているのですか?王子とは婚約しないという言質はとっていたはずです。それを反故にしておいて、4歳の娘にだけ義務を課すおつもりですか?そもそも貴族の義務をどのようにお考えですか?」
お父様は何もわかっていない。これだから甘やかされて育ったお坊ちゃんは駄目なんだ。予知夢によれば私が断罪されれば家ごと潰れるのですよ。まあその事は言ってないけどね。
「貴族の義務とは、民と国を守り、家を繁栄させることだ。そのために多少の苦労は買ってでもしなければいけない。お前も貴族の心構えがあるのであれば望まない相手であっても親が決めた政略結婚をするのが義務であろう。」
「お父様は何もわかっていませんね。そんな抽象的な話で私を丸め込めると思っているのですか?じいやは『貴族の義務』をどう考えているのですか?」
お父様の教育係はじいやだったと聞いてますからね。確認しておかなければ。
「ご当主様の言う通りかと思います。」
「じいやまでこれでは公爵家の先行きは真っ暗ですね。」
そう言ってため息を付いたあと尋ねる。
「ではお二人は私よりも民が大事だと思っているということですか?民のために望まぬ結婚を強いるということは民のために私を生贄にする、犠牲にするということですよ。生贄になるものが生贄にする人間の言うことに快く従うと思っているのですか?それに娘1人幸せにできない人間が顔もわからない民とやらを本当に幸せにできるのですか?」
そう言うとお父様の顔色がだんだん悪くなってきます。
「いっ、いやそこまでは言っていない。そもそもこの話はお前のお祖父様が仲の良かった先代国王陛下と『お互いに息子と娘が出来たら結婚させよう』という話があったから出てきた話で・・・・そうだよな。じい。」
「左様にございます。先代の約束がある以上婚約を避けるのは難しいかと存じます。」
諸悪の根源はお祖父様か。よろしいならば戦争だ!
「話はわかりましたが、それならやはり貴族の義務を果たしていないお父様が問題ですね。」
二代揃ってこの有様だから私が苦労するのです。
「え?僕はちゃんと貴族の義務をきちんと果たしているよね。政務も滞りなく済ませているし、国は平和を維持して・・」
「そんな事はどうでもよろしい。はっきり言います。貴族の当主の義務として政務や軍務など些細な問題です。そんな事は部下に丸投げでいいのです。上司の仕事なんて基本部下を使うことでチェックができればよろしい。当主にしか出来ないことをやるべきです!」
「当主にしか出来ない事?」
ここまで言ってわからないとは何たる愚鈍。私自ら鍛え直さなければいけないようだな。
「当主にしか出来ない仕事。それは子作りです!当主の仕事とは一に子作り二に子作り、三四がなくて五に子作りです。政務など10番目以下です。当主にとってセイムのセイはセックスの性です。私が無事おとなになるかもわからないのですから兄弟姉妹は必要でしょう。私が生まれてから4年間も何サボっていたんですか!」
「えっ!いっいや、そのなんというか、そうだママの産後の体調があまり良くなくてそれで少し淡白になっていただk・・・・」
たった今思いついた言い訳。そんな退路はきっちり断たなければ。
「どんな変態プレイに勤しんでいたのかは知りませんが子作りは貴族の当主の義務ですよね!」
「「はい・・・・。」」
流石に両親ともにそのことは認めたか・・・。
「お母様の体調のことはそれこそ当家ご自慢の治癒師に何とかさせる問題でしょう。私の弟がいればその子が次期当主なのですから第二王子の婿入りという話はないはずです。妹がいれば相性の悪い私ではなくそっちとの婚約でもいいはずですよね。で・す・よ・ね!」
きっちりかっちり念を押す。
「娘ちゃん。子供というのは授かりものであなたが良い子にしているとコウノトリさんが運んできてくれるものなのよ。」
お母様がキョドりながら弁解してきます。
「私が良い子にしていなくても私は生まれてきたではありませんか。そんなおとぎ話はどうでもいいです。私は夢で見たので子作りの方法も知っています。私が生まれているのですから体質の問題はないはずです。子作りは計画性と試行回数です。知っててよかったオギノ式!両親とも私を騙そうとした罰として危険日周辺では一日3回食後に用法、容量をよく守って子作りです。じいや!私は何か間違っていますか?」
そう言ってじいやを見るとしみじみとした顔で頷いていた。
「たしかに仰るとおりです。目から鱗が落ちるようです。私の教育が甘かったとしか言えません。お嬢様にのみ義務を課すとはじいやの不覚でございました。」
ふはははは!じいやを丸め込むことに成功したぞ!あとは畳み込むのみ!
「ということで早速子作りをお願いします。ああ見届人はさんざん騙されたので私が直接いたしますわ。」
「「見届人!?」」
見届人とは結婚初夜などできちんと行為ができているか、しているかを確かめる人のことだ。契約と家制度が重視される貴族社会で白い結婚なんて物語の中でしかありえないのだよ。
「さんざん私を騙してきたのですから当然のことでしょう。きちんと最後までやっているかどうか私自ら確認いたします。ささずいーっと!さささずずずいーっと!」
そう言うと両親揃って顔を青くしていきます。
「いや無理だから!どんな変態露出プレイだよ!娘の前で子作りとか無理だから!勃つものも勃たないから!」
根性なしですね。これだからヘタレは!
「娘ちゃん!あなたにだけ負担をかけていたことは謝ります。だけど子作りは夫婦の秘め事で人前ですることではないのよ。ましてや娘の前でなんて・・・。」
お母様も必死ですね。
「これまでサボっていたのだから仕方ないではありませんか。私だって好きで拝見するわけではないのですよ。何問題ありません。今日は最初から最後まで拝見しますが、明日からは最後だけで大丈夫ですよ。私も長々と見たいわけではありませんので発射寸前に呼び鈴でも鳴らしてもらえば・・・・」
「「全然大丈夫じゃないから(ありません)」」
妥協したのに受け入れないとは・・・・・
「お願いだ。せめて見届人を変えてくれ・・・。」
「子供の前でやることじゃないのよ。」
こう見えて私も両親に頼み込まれると弱いのです。
「仕方ありませんね。私や子供でなければいいのですね。何も始まっていないのに減刑を求めるとは本当に罪の意識があるのでしょうか?」
いい加減な両親ですから念を押しておきます。
「「私達が悪かったんです。本当にお願いします。」」
「わかりました。」
「わかってくれたか。」
両親は露骨にホッとしている。
「ではじいや!お祖父様とお祖母様をお呼びして。お二方に見届人になってもらいましょう。もともとお祖父様のせいで婚約の話が出たのですから責任をとってもらわないと。隠居生活もこれでおしまいですわね!」
そう言うと両親が即座に土下座してきた。
「「親の前での子作りも無理です。」」
「私はきちんと確認しましたよね。子供の前以外なら問題ないと。あれは嘘だったのですか?あれも無理これも無理ってどういうことでしょう?お二人は貴族の義務を何だと思っているのですか?」
「本当に申し訳ありませんでした。二度と娘に婚約を強制したりしませんので何卒ご容赦下さい。」
「外堀を埋めていくような協力もしないと誓いますか?」
「「誓います!」」
言質は取った。しかしすぐ言質を取れるような相手だからこれだけでは心もとない。
「では見届人はワタクシの侍女1号にやらせます。侍女1号もよろしいですね。」
「はい。」
「ちなみにこの企画は視聴者参加型ですから、侍女1号も参加していいですよ。無事に孕めば公爵家の第二夫人です。お父様のことを割と素敵と言っていたし出会いがないとぼやいていたから丁度良いでしょう。参加については強制はしませんがどちらも孕まなければ他の者に役目を交代させます。」
「「「え?」」」
「必要なのは結果です!ちゃんと孕むまでお父様は執務禁止です。」
「公爵家の令嬢が孕むとか言っちゃらめええええ!」
そういえば私は公爵令嬢でした。命の危機で忘れてたわ。
「侍女1号はお父様の寝台に上がることを了承しますか?」
普通じゃ寝所に上がるなんだろうけどそこまでは確定だからね。
「かしこまりました。公爵家のお役に立てるのであれば私に異存はありません。」
「よくぞ言いました。今日からあなたはお父様の妾です。無事に第二夫人になれるように頑張りなさい。あなたには後でお母様の弱い部分を教えておきますので性活に役立てるように。」
彼女も今年で20歳。もともと子爵家の次女ですが、この世界の結婚適齢期は10代後半。このままだと嫁き遅れです。我ながらいい仕事してますね。
「侍女1号はワタクシによく尽くしてくれていますし、性格も良いのでお前が原因でお家騒動にもならないでしょう。これだけ譲歩したのですからお母様も文句は言わないですよね。それともダブルお祖父様とお祖母様の目の前で子作りの方がいいですか?」
そう言ってお母様を見ると青い顔をしてコクコクと頷いてた。
「軍務は出来ませんが政務は私もやります。迷惑料としてお祖父様にも手伝わせましょう。お父様はゆっくりじっくり貴族の義務を果たして下さい。ああそうそう、夫婦の寝室前には侍女数名で警備体制を敷きますのでお母様たちはお一人で動かれませんようにお願いしますわね。侍女1号も本來の仕事はお休みです。」
血筋が大事なのに他の男を近付けるわけにはいかないからね。とりあえずこれで堀は深くなっただろう。公爵城夏の陣に向けてこの調子でどんどん行くよ!
公爵令嬢「侍女1号は内容を記録しておくように。」
侍女1号「間違っても出版とか考えないでくださいね。」