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2_秘密を探りに

 カゲフミのおどおどとした様子はいつまで経っても直らなかった。でも、喋るうちに、だんだんとましにはなっていった。

 答え合わせのときにカゲフミに教えてもらうんだけど、

「ここはこうだからこう、なはず、たぶん、いや、ちがうかも、えっ、間違ってたらごめん、ほんとに、ごめん、」

だったのが、

「ここはこうだからこう、なはず、間違ってたらごめん」

くらいに。

 ここで私は、カゲフミともっと仲良くなる作戦を思いついた。彼は昼休み、いつもお弁当を持ってどこかへ消える。もちろん一人で。もし誰もいない所で一人でご飯を食べているとしたら、ゆっくり話せるかもしれない。まあ、彼が喋ってくれるとは限らないし、拒否されるかもしれないけど。

 という訳で、いつも昼食を一緒に食べる友人に断りを入れて彼のあとをつけてみた。ばれないように、柱に隠れながら。彼はびくびくしながら歩みをすすめている。私に気づいているのか? いや、彼はいつもこんな感じだ。

 それにしても、彼はどこに行くんだろう。普段あまり行かない、家庭科室とかがある校舎に着いてしまった。そして、私が今まで昇ったこともない階段を昇っていく。ここはどこ? 一体、彼は何をしようとしているの? お弁当食べに行くんだよね?

 もちろん、既に人はいない。しーんと静かな階段で、私は大失態を犯してしまった。

 がたんっ

 大きな音が鳴って、膝に激痛が走った。

 前にいたカゲフミは大きく驚き、ゆっくりこちらを振り返った。

「…え?」

「あっ、違うの、カゲフミ、これはね…」

「…だ、だだ、大丈夫?」

 階段でこけてしまった私は、カゲフミに手を貸してもらってゆっくり立ち上がった。顔が真っ赤になったのは言うまでもない。この上なくダサい。それに、

 手まで握ってしまった。

 彼は私が立ち上がるとすぐに手を離し、「ど、ど、どうしてここに」と聞いてきた。

「あー、えっと…」

 こういうときって、どこまで正直に話せばいいんだろう。すべて話すか、少しだけ隠すか、適当に嘘をつくか。

 そういえばどうしてここに来たんだっけ。あ、そうだ、カゲフミと仲良くなるためだ。仲良くなるには、こちらから心を開かないといけない。本質なところを隠して、ごまかしていてはだめだ。

「あのー、実は、カゲフミと仲良くなりたくて…。ついてきちゃった…。お昼ご飯、一緒に食べてくれないかな?」

「えっ、僕なんかでいいの?」

 僕なんか、って卑下しないで。本当はそう言いたかったけど、そこまで突っ込んだ事は流石に言えず、うなずくに留まった。

「…僕でよければっ」

「本当に? …よろしくお願いします」

 どうしてこうも付き合う一日目のカップルみたいになっちゃうんだろうか。面白くて噴き出すと、「え? ど、どうしたのっ」って慌てられた、

「ねえねえ、どこ行くの?」

「屋上。た、たぶん誰もいない。知らない人も多い、んじゃないかな。この扉は、か、簡単に開くんだよ」

 四階の一番上に到達すると、重そうな扉があった。とっても怪しげ。なのに、景文はドアノブをかちゃかちゃと回すだけで特にためらいもなく開けてしまった。

 そこには。

「わあー!」

 そこには、空だけだった。

「空が広い!近い!」

「うん、僕はこ、この景色が好きなんだ」

 何やら怪しいイスを持ってきて、「どうぞ」とカゲフミは差し出した。あんたはここの主か。

「いただきます」

 こんな所でお弁当を食べるなんて、まるで天国にいるみたいだ。

「カゲフミはいつもここでお弁当を食べてるの?」

「うん。教室、怖くて、食べる場所探してたら見つけた」

「教室、怖いの?」

「…うん」

「どうして?」

 言ってから、あ、踏み込みすぎたかも、と気づいた。嫌な気分にさせたらどうしよう。

「…昔の、嫌なことを思い出す」

 …申し訳なくなった。

「…ごめん」

「え、何で謝るの。聞いてくれてありがとう、だよ」

「……」

 悪いこと聞いちゃった。その上、気遣わせちゃったな。

 申し訳なくて、ちぢこまって黙々とお弁当を食べた。

「あっ、今日は、ほんとにありがとっ」

 ごちそうさまの後、カゲフミがこう言ってくれたけど、正直嫌われたと思っていた。だから、彼の次の言葉は、予期せぬものだった。

「明日、も」

「へ?」

「明日、も、来てくれる?」

 私は驚きすぎて、目も口も大きく開いた。その勢いで、言葉が口から飛び出た。

「…カゲフミがよければ!」

「お願い、しますっ!」

 あーもう。どうして。

 どうして、こんなに。

 好きになっちゃうんだろ。

「あ、じゃあ、片付けするから、さ、先に教室、行ってて」

私はスキップをしながら教室へ帰った。片付けくらい待っておくのに、と言ったら追い出されてしまった。けど、こんなにニヤニヤしたのは久しぶりだった。

 次の日の昼休み、昨日より少しは堂々と彼のあとをつけた。そして嬉しいことに、あの扉の前で彼は振り向き、私を待ってくれた。

 そしてまた一つ、昨日と違うところ。

「そう、それでね…」

「へえ、そうなんだ」

「それで、あんなことがあって…」

「あ、ぼ、僕もそれわかるっ」

 お弁当を食べる最中、ずっと会話していた。内容は、空の様子とか、最近の天気とか、たわいもない内容だったけれど、彼の考え方が興味深かった。

「ここで毎日、空を見てるの?」

「う、うん」

「晴れの日も、曇りの日も?」

「あ、雨の日は、来ない」

「そうだよね。でも今日は晴れてて、気持ちいいなあ」

「う、うん。でも、曇ってても、素敵」

「え?」

 曇り空が素敵だなんて、今まで思ったこともなかった。どんよりして、むしろあまりいいイメージを持っていなかった。

「どうして?」

「うーん、眩し、すぎるし、しんどいんだ。ちょっと、暗い方が、自分っぽくて、好き」

 眩しすぎるとしんどい、っていうのは、ちょっとわからなくもない。

 ひょっとすると、人間に対してもそうなんだろうか。明るく眩しい人は、しんどいんだろうか。私は、どうなんだろう?

 暗い方が自分っぽい、か…。

「じゃあ、…また明日も来ていい?」

「もちろん。じゃあ、またあとで」

 今日はこの辺でお別れして、一人で教室に戻った。彼の言葉の真意は、結局わからなかった。

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