暇つぶしで節税しましょう
「なろうラジオ大賞2」応募作品。
「年末調整の山が崩れない」「押し寄せる様はむしろ波では」「給与日なんてなければ……」
全く覇気のない呟きを風物詩に、我らが会計事務所は本日も絶賛残業中だ。時間が割増で金に変わっていくが、心身への負荷も積み重なる。
私もあちらに加わってやりたいけれど、まずは手元の案件からだ。
『有閑税申告に関するご相談報告書』
有閑税とは何か。大雑把に言えば「無意味に過ごす時間こそ至上の贅沢、浪費した時間分課税しよう」という制度だ。富める者から全体への分配を突き詰めた結果だとか。
何はともあれ施行された以上、我々としては対応するのみだ。
有閑税は一年間の余暇合計に対して金額が決まる。
ならば、暇とされる空白を別の色で塗りつぶせば晴れて対象外、節税が可能だ。
「こちらが学習時間として控除対象となる一覧です」
「資格取得の勉強時間と……読書もですか?」
「はい、お客様のご職業ですと記載した書籍とは関連がございますので算入できます」
「育児時間控除はこのようになります」
「これは毎年同じくらい差し引けますか?」
「いいえ、お子様の年齢や健康状態などに応じて上限が変わります。定期検診の結果に等級が記されますのでそちらをご確認ください」
極端な話だが、中学生に赤子の頃と同じだけ接するだろうか? 答えは否だろう。成長すれば子とて私的な時間を欲する。例外こそあれど、基本的には控除できる時間は減っていく。
なお定期検診の結果は納税者本人にも影響する。
「運動につきましては上限まで余裕がございますので増やすと節税となります。一方で睡眠は超過分が余暇になっていますね」
「お布団恋しい……」
「恋の試練として離れることも必要です」
こうして控除できる項目を丁寧に顧客へ説明する。年明けに自らの手で申告する人もいれば、申告書の作成まで依頼されることもある。
「どうせなら自動で控除させればいいものを……」
保存した報告文書を再確認しながら嘆息した。
無意識に首筋に手を持っていったらしく、指先に硬質な感触がある。
——ネックリング——
個人を識別する主要媒体であり、常に装備するよう義務付けられている。体温・脈拍などの健康状態や位置情報を記録し、資産や公私問わず様々な情報とも繋がっている。
国民の言動を全て管理するこの媒体があったからこそ、有閑税は実現した。
これほど便利なのだからもっと自動化できそうではあるが……まあいいか。
おかげで私にはつぶすべき暇はないのだから。
暇つぶしに応募してみようと思い立った結果、己の認識の甘さに膝から崩れ落ちました。
1000字以内でお話作るのはとても難しい……