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相手のピッチャーかキャッチャーか分からないが流石に高川高校、三重高校に呼ばれなかった強者達が集まる私立だけある。強気にストレートをインハイに投げ込む。キャッチャーミットにいい音を鳴らせて今日最速の143キロをだす。
綾人はそれを見て笑みを浮かめながら素振りをしてバッターボックスに戻る。次に相手バッテリーが選んだのは打ち気を逸らすような外側に外れるかどうかギリギリのスライダー。
しかし、綾人は先程良二が打ったスライダーを狙っていたようでジャストミートさせる。綾人の打った球は飛距離十分スタンドに入る。これでウチのチームは4点入ってワンナウト、商業メンバーも混ざって大喜びだ。相手ピッチャーは中学から上がったばかりといってもシニアでエースを張っていたような男だ。
縦スラもストレートもレベルが高い。だが、横のスライダーを投げる時だけまだ甘い球を投げてきているのを良二が試合前から見抜いて綾人と俺に知らせていたのだ。多分高校に入って増やした球種か練習が甘い球なのだろう。
相手のベンチは既に次のピッチャーを用意させ始めてる。しかし、それを見て意地を見せたのだろうか続く後続をピシャリとシャットアウトしマウンドからベンチへ下がっていった。
「流石だな…」
俺は思わずそう言葉をこぼしてしまった。
「それは俺のバッティングがか?」
綾人がグローブをつけながら声をかけてきた。
「勿論ウチのメンバーの打力のヤバさも感じたけど、中学の頃からしっかりとやってきている人はピンチでも折れずに最後までマウンドに立っていた。カッコいいし引け目を感じるよ。」
俺は帽子の鍔を握り位置を直しながら綾人と一緒に出て行く。
「まあ、それはこれから積み重ねればいいさ、俺たちなら本戦も勝ち抜いていっぱい試合できるはずだぜ」
「そうだな、頼むぜ」
俺はマウンドからみんなを見渡し良二のサインに従って相手の4番に向かってストレートを低めに投げる。個人的に今回の球は中々にいいボールが決まったと思う。
しかし、相手の4番はそれをものともせずに一発でホームランにした。流石にこれは予想もしていなく結構動揺…することもなかった。むしろすげーって感じになる。良二はタイムを取りマウンドにやってきた。
「流石三重の新人大砲は違うな、さっきの4番は中学の時からホームラン連発するやつだったし気にするなよ、何故か三重と戦いたいからって推薦を蹴って高川に行ったような奴だ。」
良二は俺を励まそうとして色々な言葉をかけてくれている。
「いや、動揺したりはしていない大丈夫だ、むしろ身近にあんなすげーバッターがいることにワクワクしてる。これから3年間戦う機会も多いだろうし勝ちたい気持ちが湧いてきた…!」
「なら、次の対戦の時は零の切り札高速シンカーBを解禁しよう!
「だな、だがその前に相手の5.6.7をキッチリ抑えていこう。」
俺達はむしろやる気を上げて5.6.7番に対してストレート主体で四隅に集めて偶にチェンジアップとスラーブで三振とゴロにとっていく。この後は次の対戦が来る4回表まで特に動きもなく淡々と進んでいった。ちなみに俺のバッティングはライト前ヒットだが後が続かず特にチャンスにもならなかった。