30
鈴屋銭湯、田舎特有の大きめの商業施設がいくつか集まる場所の隣にある銭湯だ。小さい頃に何度か家族で来たことがある。
「とりあえず必要なのは靴箱の100円と入るための券300円だな。マッサージのは別に1000円現金で後払いな。」
俺は綾人の先導に従いみんなと更衣室へ向かう。いつもユニフォームを着替える時に裸を見ているからさして、緊張したり気にすることはない。そのままみんなで洗い場に行き汗と土ぼこりを落とした後湯に浸かる。
「んー、気持ちいいね。家でもお風呂には入るけど銭湯とかの大きなお風呂は格別だ。」
拓君が伸びをして頭をゆらゆらさせながらリラックスしている。良二は縁にタオルを置き横になり、綾人は普通に座っている。
俺は階段になっているところに座り温まる。
「来週の土曜、シンカーを禁止しようと思う。」
「なんで?使えば楽勝だよ?」
拓君が首を傾げながら聞いてくる。
「多分零は、他の球種を磨きたいのとシンカーの情報を与えたくないんだろ。噂程度にはもう広まってしまっているが、動画なんかで撮られたり観察されると面倒だからな。」
「そう、良二の言う通りだよ。先輩方には舐めてるのかとか思われると嫌だし言わない。勿論勝つために必要だったら投げるけど、事前の良二の情報からそこまで気にする必要はないと思ってる。」
なるほど、とみんなが頷く。
「そういえばさ、良二はどうやってそこまで情報を手に入れてるんだ?」
俺は気になって聞いてみた。
「それはな、基本的にはネット。あとは地元の野球好きのおっさん達からかな。県外とかになるとちょっと俺だけじゃ集めきれないし新しくマネージャーとかそういうの担当の部員も必要になってくる。」
「だけど、今は部員もかつかつマネージャーなんて一人もいないと。」
「そういうこと。今は元々の知り合いとか前情報で対処できるけどどれだけ成長するかとかは読めない。早急に人員を集めないとだね。」
「んー、ちょっと俺もツテがないか考えてみるよ。」
「んじゃ、話がまとまったところでサウナに行って、その後にマッサージしに行こうぜ。」
俺たちはサウナに入り水風呂に入ることを3.4回繰り返し体がぽかぽかとしたままマッサージの部屋へと着替えて向かう。
「親父ー!時間通りに来たぜ。」
「はいはい、どうも、綾人の父です。いつも息子がお世話になってます。」
「こちらこそ本日はよろしくお願い申し上げます。」
俺たちはそれぞれ挨拶を交わして順番に整体をしてもらう。
俺の番がきた。体がゴリッゴリッと音がするがとても気持ちがいい。
「零くんは、いい鍛え方をしてるね、綺麗な筋肉のつき方だよ。疲労もしっかりケアしてるみたいだし、長持ちする投手になれるね。それに、全体的に柔軟性が高いから変化球多めの投手かな。」
素直に驚いた。体の筋肉などをみただけでここまでわかるものなのかと。
「ええ、その通りです。ありがとうございました。」
そのまま整体を終えてお金を払って4人で自転車に乗り火照った体には涼しく感じる風を浴びながら途中のコンビニでアイスを買い食いして帰った。