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おセンチです。
試合が終わったあとはよく覚えていない。雨が降ってきて残りの試合が中止になった。 くらいだ。
何故?という疑問ばかりが頭に浮かぶ。あの場面でミスすることなんてないはずなのに。
「気にすんな、良く投げてたよ。むしろ点取ってやれなくてすまん。」
「今日の零君は誰にも責められないよ。だから元気出して!」
綾人や拓君が帰る途中に声をかけてくれたがああ、という生返事しか出来なかった。
もっと責めてもらえればお前が悪いと言われれば、満足もできたかもしれないのに。
みんな優しいんだ。
学校について解散になった。俺も自転車置き場に向かわなければいけないと分かっているのに体が思うように動かない。
雨の滴るザッーとした音と部室の前にあるベンチに座っているため上の屋根から落ちてくるぽたぽたという水の滴る音だけが響く。
あの場面、俺は…
「おい、零。あの場面はお前のミスだ。だがな、お前ひとりの責任じゃねぇ。俺も同じだ。周りのみんなはバッティングで支えられなかったと責任を感じてるかもしれないが。バッティングはその時その時のもの。結局の所俺らバッテリーが負けたんだ。」
良二がベンチの隣に座って自販機で買ってきたスポドリを渡してくる。
「あの時俺はお前の異変に気づいてやるべきだった。当たり前だよな、いくら凄い球が投げられるからってお前は今日がはじめての試合。しかも、三重県でも有名なスラッガーと大阪から来た化け物相手だ。しょうがねえ。なんてことはないな。この負けを引きずるなとは言わない。だがな、このままこの事を糧にして前を向いてやっていけないなら元の趣味にした方がいい。」
良二は一息つくためにペットボトルをがぶ飲みする。
「厳しいようだが、俺たちは甲子園を目指すんだ。それなら立ち止まってる暇はない。お前はどう思ってるんだ。」
顔は合わせずただお互い前を向いて話す。
「俺は、マウンドの上に立ってみんなともっと試合がしたい。俺はマウンドに立つ楽しさを忘れられない。みんなに対しての申し訳なさもある。だから、この気持ちを忘れずに、この気持ちをもう一度味わない為に、前へ進むよ。」
横目でチラリと見た良二は嬉しそうに笑っていた。
「ならまずは反省会でもするか。近くの喫茶店でも行こうぜ。」
俺は気持ちを切り替えて良二と雨合羽を着て自転車で前へと進む。




