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今日も今日とて書き続ける。
野球要素がスタートです。
中学の頃の教師から成績開示に行ってこいと言われた零は一旦家に帰り昼ごはんを食べてから松代高校に向かうことにした。
零の通っていた天雲中学は前期に合格した生徒は自主登校に切り替わるので零はわざわざ居心地の悪い自分のクラスになど行くつもりはないのだ。
そんなことをだらだらと考えながら、松代高校の正門から入り事務室へと向かう。
「すいません、松代高校に前期で合格した一条なのですが成績開示をお願いに…」
しにきました。と続けて伝えようとしたところ丁度他の入学者も来ていたようで順番待ちをするためにその人の後ろに並んだ。
「はい、よろしくお願いします」
終わったようだ。
「あなたも成績開示ですよね?」
事務室の窓口に行くと割腹のいい笑顔のおばちゃんが声をかけてくれた。
「はい、一条と言います。」
と言いながら書類を一緒に提出する。
「えーと、天雲中学の一条さんですね!わかりました。すぐ用意させていただきます。それにしても同じ中学から一緒にくるのバレないようにズラして入ってこなくても大丈夫よ?」
最後の一言はこっそりとおばちゃんは言ったつもりだろうが結構響いたようで前にいた女子学生にも聞かれたのは確実であり、とても気まずい上に振り返りづらい。
「あのぉ、私昨日助けていただいた駒井結衣って言います。ありがとうございました!」
長いおさげを揺らしながら頭をガバッと下げる。
「あー、気にしないで」
「それに、一条さんに私失礼な態度とっちゃって…本当にごめんなさい。」
「いーよ、そんなの、慣れてるし」
そう、この子も同じ中学なら俺のことを知っている。別におかしな反応じゃない。どうせこれから高校が始まっても一緒だ。
「いえ、学校で言われてる噂とかは関係なく、ただ緊張していた時に声をかけられて驚いちゃっただけなんです…」
少し頭を上げてこちらを見る。上目遣いになって顔がわかるようになった。よくよく見ると目立たないながらも綺麗な顔立ちをしていた。
「あ、あぁ…気にしてないよ。顔を上げてくれ、こんな所でそんな事して誤解されてもアレだし」
「あっ、気づかなくてごめんなさい。 」
「ほら、成績開示の結果も来たようだよ」
おばちゃんから成績開示の入った封筒を受け取る。
「一条君、今年の首席で入学のスピーチがあるんだけどコレ例年のやつね、年と人数だけ変えた毎年のやつだから気にしないで気楽にね!」
そう言って封筒とは別に紙を渡された。
「え、待ってください。自分はそんな事できません、他の人にお願いできませんか?」
俺はめんどくさいのが嫌だし、嫌なイメージを持たれたくないから目立ちたくもない。目つきに関しては諦めているから極力普通の高校生活を送りたいのだ。
「うーん、主席が毎年する事になってるしなえ、よろしく頼むよ」
そう言っておばちゃんは笑いながら窓口をピシャリと閉じてしまった。
「や、やられた…」
俺は呆然としてそばにいた駒井さんのことを忘れてしまった。
「一条さん、首席なんて凄いですね!」
キラキラとした目でこちらを見つめてくる。
「いや、そんなことはないよ…それより、駒井さん?だよね、君は俺の目を気にしないんだね。怖くない?」
「いえ、別に気になりませんよ?見た目だけで判断するなんて子供のすることです。勿論最初はビックリしましたけど、昨日の一条さんの対応でそんなのは気になりならなくなりました」
「そ、そっか、ありがとう?」
「いえ!お気になさらず」
「「…………」」
妙な沈黙が続いた。
「じゃあ、俺はこれで。」
「あ、はい。ではまた…」
俺は気まずくなって別れの挨拶を言ってその場から離れた。俺には少々新鮮な反応だったし、他の奴らとは違って中身を見てくれた事に感謝をしていた。しかし、恥ずかしいものは恥ずかしい。
やはり、零はチキンなのである。
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時は変わって春の入学式。最大の懸念であったスピーチは何事もなく終わり教室で自己紹介が始まっていた。
零としては中学での2の舞を避けるためになるべく情報を多く出そうとしていた。去年は名前とよろしく、としか言わなかった為誰も話しかけてくれなかったのである。
零はそれを踏まえて
「一条零、好きなことはゲーム漫画アニメ、趣味は軽い運動の為に野球をしてます。目つきが悪くて怖がられますけど、安全です」
((((((いや、安全ってなんだよ!))))))
零は自己紹介をきちんと終えることができて一安心であった。(クラスメイトの反応がどうかはさておき)
順番に自己紹介は済んでいき、久しぶりに聞く声が響く。
「駒井結衣です。天雲中学出身で吹奏楽をやっていました。趣味は読書と音楽です。よろしくお願いします」
駒井さんの方をチラ見すると、気のせいかもしれないが目があった気がして直ぐに前を向いた。
この後は大した出来事もなく放課後になった。
「なあ、今から予定あるか?」
「ああ、大丈夫だが、水樹君だったよなどうしたんだ?」
「僕のことは良二って呼んでくれ、女みたいで名字で呼ばれるの嫌いなんだ、さっき自己紹介で野球してるって言ってただろ?部活見に行かないか?」
「了解だ良二、俺のことも零でいい。野球してるって言ってもクラブとかには1度もいたことないし、投げ込みと素振りしかしてないぞ?」
「それでも十分さ、俺は親の期待のためにここにきたけど本当は甲子園にどうしても行ってみたいんだ。そのチャンスがまずは欲しい」
そう語った良二の目はなにか惹きつけるものがあった。周りが帰っていく中、俺たちは松代高校のグラウンドに来ていた。松代高校は過去に甲子園出場を果たしており、偏差値が高い高校なので、その分社会で成功している人も多く寄付も多額に集まった。
その為、グラウンドはコート2面分、設備はナイターは勿論、ネットで囲われたバッティング練習場、5人くらい入れるブルペン、専用部室が完備されており、トレセンも優先的に使えるのだ。というよりは他の人たちがあまり使わない。
カーン、カーン バスっ バスっ
バッティングとキャッチングの音、先輩たちの声かけがグラウンドから響いてくる。
「おおっ、野球って感じだな。」
「そりゃ、野球部だからね、僕は前期が終わってからすぐにここに来てたから先輩達とは顔馴染みなんだ。紹介するからついてきて。」
「まてまて、俺はまだ入ると決めたわけじゃないし、中学の頃まともに運動してないんだぞ、足を引っ張るだけだ。」
零は本心からそう思っていた。この時はまだ。
「まあまあ、落ち着いて。大丈夫、いきなり全体練習とかには入らないし、折角ならキャッチャーのミット目掛けて投げたいだろ?」
「そりゃ確かに良二の言うとうりだけど、わざわざ先輩の時間を取ってしまうなんてなあ。それに道具も持ってきていないしな。」
「なに、気にしなくていいよ、軽くだよ軽く。それにキャッチャーは僕だよ。気にせず投げてくれ。」
そういうと良二はさっさと先輩の方に向かっていってしまった。ボーッとしていくわけにもいかず零もそのままついていく。
「キャプテン、こちら同じクラスでピッチャーの一条零です。まだ入部するか決めて無いそうですが、悩んでるみたいなので、とりあえずブルペンを貸していただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、勿論いいぞ、うちはブルペンがそもそも埋まるほどのピッチャーもキャッチャーもいないからな、はっはっはっ」
キャプテンと呼ばれた先輩はなんとも言えないセリフを吐きながら朗らかに笑う。
すっとこちらをみて
「3年ファーストの朝山貴教だ。一応ここのキャプテンをしている。悩んでいるそうだが、無理することはないとりあえず良二に向かって投げまくるといいさ。」
そう言い、肩をポンポンと叩くと練習に行ってしまった。