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初投稿作品です
批判 感想まっています
いつのまにか、こんな所まで来てしまった。
目つきが悪く、人から嫌われやすい俺にとって父親がくれたボールとグラブ、そしてバットが暇つぶしの道具だった。ただ、それだけだったのにこの高校に入ってからは大きな意味を持つようになった。目の前には最後のバッター、こいつを討ち取れば甲子園出場。最後の一球を今投げた。
松代高校 地元では偏差値が高い事で有名なよくある普通科高校である。中学では部活にも入らず、ゲームやテレビ漫画を楽しみ勉強に力を入れて体を動かすために親からプレゼントされたグラブとボールを使ってネットや壁にに投げ込みをしたりバットを振る、そんな生活を送ってきた一条 零は余裕で松代高校の前期試験を受け、今日その結果を確認しにきていた。
正門から入り、駐車場を抜けたところに分かりやすい掲示板が設置されていた。まだ肌寒いこの季節、同じように集まってきた中学3年生達が寒さ以外の要因で震えている中、零は早く帰ってこたつに入りたいと思いながら自分の番号を探す。
左の所から順番に近い数字が出てくるまで確認していくと六十二番、しっかりと自分の番号が載っていた。特に感慨もなく、帰ろうと思った所、ふとある女の子が目に入った。
その子は自分と同じ中学の制服をきていたので零は少し気になったのである。その女の子は周りの中学生達に押し退けられ、番号が確認できずに泣きそうになっていた。
零は帰るだけであったし、その子とは何も接点は無かったが目についた以上助けないのも何か嫌な物があるので声をかけた。
「後ろにある右側の階段からなら多分番号が見やすいよ」
突然話しかけられた女の子は、少しびくっとした後、零が来ている制服を見て同じ中学なのが分かり目線を合わせてきた。
「ひっ(小声)、 あ、ありがとうございます…」
やっぱりだ、俺はいつも目つきが悪いせいで周りの人から怯えられ、嫌われる。いつものことなのに、何故俺は…。
そう考えるのもやめて零はすぐに校門から出て家に帰った。
「ただいまー」
我が家の扉を開き、そのままリビングのコタツに直行する。
「零、結果はどうだったの?」
家のことを一通り終えた母親が特に心配した様子もなさそうにお菓子を食べながら聞いてきた。
「受かってたよ」
零はそのままコタツに潜ってぼーっとする。
「高校では何か部活とかするの?」
うちは色々あってお金には困っていないのでバイトしろとかは言われないが、野球のボールを使って遊んでる自分を見てきた母は零が野球部に入るのかどうか気になっているようだ。
中学の頃には零は雰囲気が近寄り難く、目つきも相当に悪かったので人とあまりかかわりたくなかったし、零自身野球は父親とのコミュニケーション兼軽い運動のつもりだったので特に固執していなかった。また、ゲームが好きなので放課後などネットで遊べる時間帯に部活は嫌だったし、勉強もそこそこ頑張っていたのでどうでもよかった。
勿論リトルなん行っていなかった。
「んー、どうだろ、わかんない」
零はそのままコタツの暖かさに身を任せて微睡の世界に落ちていった。
「零くんはこーしえん?ってところに私を連れて行ってくれるんでしょ!」
これは…とても懐かしい光景だ。まだ小学校で目つきも普通だった時に、近くのお姉ちゃんと一緒に遊んでいた頃の記憶だ。
「んー、よくわからない!けど、お父さんはいつも楽しそうにこーしえんのお話ししてるよ!」
その頃は彼女が近くにいたから1人じゃ無かったけど、家が学校から遠かったのもあって他の友達なんていなかった。
「いつか、零くんをいっぱい応援できるよーに私お歌の練習頑張るね!」
彼女は、声が綺麗でその歌のセンスから音楽教室に来て欲しいと先生側から請われて通っていた。だから、俺のことを応援してくれるなんて言ってくれた。
「うん!」
「んんっ…、久しぶりに静香姉の事思い出したな。」
起きた時にスマホで時間を確認してみると翌日の朝であった。零はそのまま朝風呂に入り部屋着に着替え毎日のルーティンとなっている朝の運動…というには些か、いやかなりハードな朝練を開始する。
まずは家の周辺を音楽を聴きながらランニングする。最近では距離やタイムを変化させるのをやめて、重しをいれたリストバンドタイプの足枷をしている。
その後、軽めに素振りをし、小さい頃父親とコミュニケーションを取るために1番練習をしていたネットへのボールの投げ込みを始める。
父親はスポーツ店の店長をしており、不必要になった器具などを引き受け処分していた為その中から修理したり使えそうな物を持ってきたりして家に置いてくれていた。
我が家は僻地にあるため土地は割と広く、バスケットゴールなど様々な器具が置いてある。しかし、零は1番初めに父親から貰って一緒に遊ぶきっかけになった野球がメインになっていた。
まずは、軽く肩を温めるほどにストレートを投げ込む。その後、少しずつ腕の振りを強くしていき球速をあげる。ストレートの後は変化球だ。
実は父親は店に来る子供が変化球を練習しすぎて肘を壊したという話を良く聞いていたので、零には、投げさせてもらえなかった。
しかし、零はなんとか父親に頼み込み1つだけという条件で教えてもらった。勿論スマホなどで調べたりはできたのだが、根が真面目な零はそんなことはしなかった。
零は無理をするのは良くないし、肘壊すとか怖いと考え、毎日30球までというルールを決めていたのだ。
そう、零は割とチキンなのである。
だがその代わりと言ってはなんだが、1球1球の投げる変化球へのこだわりや変化への考察、そして研究は時間をかけてじっくりしてきた。
その結果、(零的には)そこそこ良い変化を身につけられたと思っている。
変化球を投げ終わったその後は、シャワーで汗を流して家のことを手伝う。普段なら学校に行くのだが高校が始まるまで零は暇を持て余していた。
ここで少し変だとは思わないだろうか?零は野球に入れ込んでなんかおらず、インテリ系だと思い込んでいる。しかし、側からみれば野球が好きにしか思えない。
これには理由がある。零はゲームをしながら、勉強も怠らなかった。それは彼が凝り性なのである。父親は彼に、「勉強は点数を取るゲームなんだよ」と伝えた所、零はみるみる成績を上げていき今に至った。
今では勉強が苦でもなく、やり出せばハマって長時間かけてしまうという感じであった。
それと同様に野球の練習も「軽くハマっている」程度だと思い込んでいるのだ。
そう、彼は自分がおかしいと思っていないのである。そして両親も気にしていないのである!!!!!
さて、暇を持て余した零の続きである。
零は階段から人が降りてくる音が聞こえ、そちらに目を向けた。
「お兄ちゃんおはよぅー…」
目を擦りながら降りてきたのは、義理の妹 一条瑠璃。母親の姪っ子であった彼女は記憶がハッキリする前から両親をなくし親戚をたらい回しにされそうになった。そこを当時1歳児である零を育てていた母が一緒に育てると言って引き取ったのである。
「おはよう、早くしないと学校に遅れるぞ」
一つ下の瑠璃は勿論中学生であり、まだ少し学校が残っていたのである。
「うん、わかったあ…」
階段を降りてそのまま瑠璃は洗面所へ向かい用意を始めた。
「零、昨日寝落ちしてたけど学校に報告しに行ったの?」
その後少ししてから同様に起きてきた母に忘れていたことを指摘された。
「ヤバイ、言ってない…まあ電話でも後でするか」
普段学校では、怖がられていた零は腫れ物を扱うかのようにされており先生からも必要最低限しか面倒を見てもらっていない為、顔を出す必要もないと考えていた。
「最後くらい顔を出しておきなさい」
母親に諭され、行くことになった。
…解せぬ。
丁度学校に行く予定であった、瑠璃と一緒に懐かしの…というには早過ぎる母校へと向かった。
「お兄ちゃんはいつも、そんなブスッとした顔をしてるからみんなに怖がられるんだよ?もっと口元をにぃーってしなきゃ!」
「にぃーって言っても俺はこれがデフォなんだデフォ。それに瑠璃に迷惑はかけていないから良いの。」
「またそんな事言ってー!お兄ちゃんは優しくて努力家な誇らしいお兄ちゃんなんだからみんなに知って欲しいし、よく見てもらいたいんだよ!」
今ので分かるだろうが瑠璃はお兄ちゃんっ子なのである。
「そんなのは知らん」
別に零も普通に話しかけられたら普通に話すが、その零にとっての普通は見た目も相まってめちゃくちゃ冷たい印象を与えるのだ。
そのまま雑談をしながら中学の中に入り職員室へ向かい、合格の報告をしたところ予想外に喜ばれた。というのも、良い高校へ行く生徒を輩出できたからである。
「そうだ、成績開示にも行っておいてくれ、頼んだぞ」
「…うっす」
ということで今日の午後の予定は決まった。
溜まり次第投稿していきます。