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13話:叩かれる石橋は己


「え、っていうか後輩は誰から()()聞いたの?あっ、いや、勘違いするな、儂の勤務態度には普段から一切問題は無いのだからな?それはそうとして悪質な噂の出所は抑えておかなければという正義感に基づいた質問だからな?サボりは全くの事実無根だからな?それで、どこのどいつだ腐った風評被害を垂れ流す愚か者は」


 眼前、早口で小言をまくしたてる『従者(ホロ)』。

 彼女の小さな靴裏は詩音の前で小気味よいリズムで上下に往復し、コンコン地面を叩いて音を鳴らしている。


「……名前は聞きそびれましたけど、昨日と同じ人からですよ。ほら、あの、事務に所属してるっていうホロ(せんぱい)の先輩って言ってた人。あの人曰く、みんながその風説知ってる口ぶりでしたけど」

「…………ッッ!?……ああ゛ぁぁぁっ!!ひどいひどいよぉっ、どうしてサボってるの知ってるのあのひとぉぉぉぉぉぉッッ!!」


 押し殺した叫び声と共に、小さな姿は床へと一つ影を落とし、頭を抱えて震え始めた。


「…………」


 そんな馬鹿みたいな光景を傍目にしながら、詩音は一つ唾を呑んだ。

 当然だ。詩音(じぶん)は体中に取り付けられた石枷で身動き一つできず床へ這いつくばっている状態。ひとえに拉致られたとしか表現できない状況(シチュエーション)に置かれ、なおも平静を保てるというのならそいつは間違い無く狂人。

 あいにく詩音(じぶん)は狂人ではなく、彼女(ホロ)の平常運転に胸をなで下ろすことはできない。

 こうまでして詩音(じぶん)を捕らえた理由が、まさか度の過ぎた悪ふざけにあるということはあるまい。動機は何だ。動きを封じなければ行えないことに。

 う゛ああと唸る先輩を余所に、己の中で徐々に緊張感が高まっているのを自覚し、這い上がってくる薄らな悪寒。


 ――どいつだ……?


 目だけを動かし周囲を見回す。

 詩音達が居る()()は薄暗い小さな地下室の中。それも、四方全てが真っ白な石で埋められている、()()()()()()()()()部屋である。

 空気穴くらいはどこかに隠されているのかもしれないが、目の前の彼女が入ってきたはずの入り口は存在せず、詩音(じぶん)が落ちてきたはずの天井の穴もいつの間にか消え去っていた。

 加えてついさっき目撃した『前兆無く地面に開いた落とし穴』や、『身体に纏わり付いてきた石枷』を考慮に入れれば、現象に共通する法則は明白。


 ――どこかの誰かが遠隔で石を弄くってる……!落下の最中で拘束されたことから目視は要らない、精度は最低でも手枷(これ)を創れる程度の『叡智』……よーいドンでの変換速度はギリギリ身体が追いつけなさそうなレベル……!


 推論に対する感想としては『……結構ヤバくね?』な冷や汗ものだが、それは一端置いておく。当初に浮かべた疑問へと戻ろう。


 さて、詩音を襲うこの一連の攻撃は、何が目的で、一体どこのどいつが行っているものなのだろうか。


「ううう゛ぅ……!違う違う違う儂はサボってなどいないぃ……!自己管理の観点から必要最低限だけとってる休息を偶然頻繁に目撃されているだけでぇぇ……っ!」

「…………なるほど。それはとても災難でしたね、先輩」

「…………!そうなんだよ分かってくれるか後輩ぃぃ……!!儂はすっごく大変なんだよもおおおぉぉ……!」


 刺激しないように適当に相槌を打ちつつも思考は続く。

 真っ先に思い当たる先、最も疑わしいのは、眼前うわごとを繰り返している先輩(ホロ)だ。

 全身縛られた詩音に何の疑問も抱いていない時点で黒確定なこのお方であるが、彼女の『叡智』が『岩石操作』辺りで、何か適当な悪ふざけを思いつき、隠れながらも詩音を補足し、足場を消失させ、部屋まで詩音(じぶん)を陥れた。

 この仮説は果たしてどれほどあり得る話なのだろうか。


「ああもう、何でっ、何でばれてるのっっ……!?ぐぅぅ……っっ、こうなったら誤魔化せる程度には働いて……っっっぁあ゛あああ゛あ嫌だあああッッ!!働きたくなあああいッッ!!サボりにサボってお給料だけ貰いたああああいッッ!!!うわあああああああああんッッ!!!!」

「……うわ。」

「バケモノとオカルトで戦うなんてッッ!!頭のイカレた自殺未遂をッッッッ!!もう一度だってやってたま――――って、え、いまお前『うわ』って言ったか……?」

「……いえ、そんなまさか。『うわああ……っっ☆』ですよ。もうすこしキラキラしたニュアンスです。大胆かつ斬新な見解を提唱した先輩の大きな背中に圧倒され、凡夫たる後輩には広範な視野への憧れしか残らぬ次第です」


 もしそうだったら話は早い。今すぐこの枷をぶち壊し、目の前の愉快犯を軽くボコってお偉いさん方に突き出せばいいだけの話。

 『叡智』がどれだけ化物だったとしても流石に転生系チートほどはないだろうし、ここまで接近してれば0.1秒で無力化できるし、悪ふざけもここまで来れば武力制圧も許されよう。

 それに、現在「――――ほう……!?お前見識には相当光る物があるようだな……!」とバレバレなゴマすりに目を輝かせているあたり、その後の先輩との関係修復も非常にスムーズに進みそうなものである。


 つまり、問題は、それ以外の場合だ。


「ようしそれじゃあ昨日の続きやろっか後輩!!ボードゲーム!!」

『ホロ。貴方しばらく黙っててください』


 壁が啼いた。


「「――――ッ!!」」


 天井、壁、床、周囲を囲う全ての石が『叡智』で震えて声のような音を創っている――――直後にそんな発想に至れたのは、似たような現象に触れた経験があるからだろうか。

 兎に角、地下室の中をぐわんと響いた何者かの『声』に、詩音(じぶん)とホロは息を呑む。


 ()()()ということはつまり、声の主は彼女ではないということで、すくみあがるような反応と聞こえた口調から察するあたり、おそらく()()()の正体は……


「っっ、どちらさまですかぁ…………?」

『おはようございます、コトノ。私です。リアセドですよ』

「――――じゃないかと思いましたぁ……っっ!こっちの声も聞こえてるんですね便利なスキル持ってて羨ましい限りですぅ……!」


 明かされた最悪の人選に自棄になりそうである。

 リアセド。ギルド実務担当リーダー。


 自信満々に語れる程彼女の人となりを知っているわけではないが、ホロと違って悪戯でここまでする人間でないくらいは察しがついている。

 こいつが関わっているということは、詩音(じぶん)を拘束しないと為し得ない、詩音(じぶん)に抵抗させてはならないことを本気でやろうとしているということ。


 何を。何故。

 出会ったばっかの昨日の今日で。


 そんな内心に応えるように、周囲の石が震えて唸る。


『…………理解できているなら話は早いですね。その拘束は訳あって私がつけました』

「…………いや拉致らないといけない訳って何ですか……!まずはその説明から初めてもらわないと理解が追いつかないんですけ」

『急なことで困惑する気持ちも分かりますし、とても心苦しい申し出になってしまうのですが』

「……ちょっとほんとに聞こえてるんですよね声!?質問遮って一方的に要求だけ出されても困りますって!!コミュニケーションってもんを」

『拷問します』


 ビキ、と音が真横で鳴った。


「…………ぁ?」


 音の元へと目を向けると、真横の壁にさっきまでなかった穴が開いている。穴と言っても奥行きは無い。壁から立方体をくりぬいたような、ロッカーほどの小さな空間ができているだけだ。

 穴の中にはたっぷりと満たされた水桶が一つ、清潔感のある布きれが三つ、綺麗に畳んで並べてある。


「……………………ごうもん」

『……はい。拷問です』


 淡々とした声だった。

 二つのアイテムは一見すると突拍子もない組み合わせだが、『ごうもん』というワードを付け加えれば、それらの用途は大方掴める。

 『ホロ』と呼びかけられ、先輩の肩が小さく跳ねて、額に汗を浮かべる彼女がいそいそ準備を始めだす。

 身動きの取れない横でがちゃがちゃと桶を動かす音が、なんだか妙に生々しく感じられる。


「…………一応、理由とか聞いてみてもいいですか?」

『貴方、一昨日キルに目を付けられたそうですね。一度『組織』の一員と早合点してしまったと彼は言っていました』

「…………まあそうですけど、最終的にあいつの勘違いってことで収まったことですよ。なんでいまさ」

『そんなわけがないんですよ』


 手足の枷がひとりでに動き出した――リアセドの意思によるものだろう。


『あの子の身体は少し特殊で、他者の有するマナを眼で見て感じ取ることができる。私達が空に浮かぶ雲を眺めるようにはっきりと、です。本人はあの性格なので己の間違いと片付けてしまったようですが、私には、あの子が勘違いを起こす可能性は一切ないと断言できます』


 滑る石枷は十字架のような形となって床へと並び、詩音(じぶん)の身体が仰向けに寝かされる。


『ホロからギルドの方針は聞いたそうですね。例の『組織』は現在大した脅威ではなく、率先して対応する程の敵ではないと。その言葉に嘘はありませんが、本当に怪物を飼っている場合は話が別です。話を聞く限り、そいつが一度暴れ出せば止めるまで5桁は死人が出るでしょう』

『何故か『組織』へと強い関心を示し、人として異常なほどのマナを有している。ここまで確定している貴方は、キルを騙してギルドに取り入り、何らかを企んでいる怪物である可能性が高い。私が至った結論はそれです』

『だから拷問します。貴方を野放しにしても大丈夫だと確証が持てるまで。『叡智』を使う素振りを見せる、抵抗の意志が窺える、いずれかを満たせばその瞬間に骨を折ります』


 話の合間も粛々と準備は進んでいった。

 押し黙った先輩(ホロ)の青ざめた表情が最後に見えて、顔へと布きれを被せられた途端、視界がふっと黒色に染まる。


「…………つまり、証拠もないのにやるってことです?」

『…………はい。私の独断で、貴方を、拷問します。念のため』


 持ち上げられたらしいバケツが水音を立てる。

 『ああ、あと少し腕が傾ければ拷問始まるんだなー』という実感が湧いてきて、詩音は諦観と共に溜息を吐いた。


 呪われてんのか俺。


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