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白桜年代記/救済の魔刀と記憶の番人たち  作者: すえもり
Fragment:2 帝国・北部旧国際空港跡
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WCC8. 黄昏の妖精(4)

 操舵室からランスが出て行ったあと。

「ランスを一人で戻らせたのは、まずかったんじゃ……」

 心配性のニノの呟きを聞いて、ルガーは肩をすくめた。

「裏切者がいるって話ですか? 俺は信じませんよ。それに艦長室まで、そんなに遠くありませんし、大丈夫でしょ」

「だといいけどね」


 艦長の指示は、鮫はこちらにランスがいる限り攻撃はできないはずだから、今は防衛に徹して時間を稼げということだった。鮫の拠点に対してはヘッケルが何やら遠隔操作でハッキングを試みており、あと少しで鮫の居場所まで特定できそうだという。

 ルガーは指でパネルの端を叩いた。

「でも最新型の攻撃機相手にそんな悠長なことをやってられるわけがない……しかも人質までいる。こういう時の対処は交渉役の仕事だってのに!」

「威嚇と回避で諦めてもらうしかないよね。ジェレミーさん、回避も頑張りますが、もしミサイルを撃たれたら迎撃をお願いします。おしりに付かれたらアーノルドが何とかしてくれるらしいから、とりあえず僕らは自分の仕事をしよう」

 ニノはレーダーを睨みながら、自分自身に向けて言い聞かせるかのように言った。この、敵を待ち構える時間が一番苦痛だ。

 兄なら、こんな時どうしただろうか……などと考えている間もなく、敵機の射程距離範囲が近づいてくる。


「しかし中央司令部から一機かっぱらうとは、ハイジャックですかね。せめて中央には一報入れたほうがいいんじゃないでしょうか? 春には配置転換なんですから、勝手な行動はまずいですよ」

「ああ、君からそう言ってさしあげてくれ。わかった上でやってるんだろ、あの人は」

「しかもリアナ・フラクスが乗ってるなら艦長は大丈夫なんすかね? 鮫のことも、殺すんじゃなくて捕まえたいんでしょ。いろいろと無茶しすぎだ」


 不意に目標がレーダーから消失し、背後に突然現れた。

「何だよ今のは!」

「おそらく別の機体ですわ」

 操舵室の全員が顔を引き攣らせている間にも、後部カメラがミサイル発射の白煙を捉えた。

「到達予想、二十秒後!」

「おいおい、ランスが乗ってるってのに普通に攻撃する気満々じゃないっすか! 誰だよウソついたのは!」


 ニノは機首を上向かせつつ、艦内放送を流した。

「総員、機体の回転に備えて何かに掴まってください。苦情は地上に足がついたらいくらでも聞きます。まったく、フレアの無駄遣いなんかしてくださるから!」

 機体は上昇し、続いて左方向に横転する。

 ミサイルを通過させると、ニノは天地が逆さになった状態を維持してから降下し、敵機の背後を取ってみせた。バレルロールと呼ばれる機動だ。

「うああああセンパイイイイイ! 輸送機でこんな無茶ないですよ! なに笑ってるんですか、あとで艦長に殺されますよ!」

「ああ、生きてたらな!」

 背後に座るマーガレットが笑い声を上げた。

 ジェレミーが機体の下方を通過したミサイルを難なく撃ち落とすが、今度は機銃が背後から当たる鈍い音が連続して響いた。


「くそ、やっぱり二機の相手はキツい。お尻が凹まされてる! アーノルド! ……アーノルド?」

 いつもなら即時返ってくる答えがない。ニノは慌てて再度、高度を上げた。上を取られるとまずい。ルガーは慌てて艦長に連絡を入れた。

「艦長! アーノルドから返事がありません!」

『ああ、別件で手間取ってるらしい。後ろはブレンに任せたから連携してくれ。あと、僕は艦長室(ここ)を一旦離れるから、この後は無線で頼む』

「……大丈夫じゃなさそうですよ、センパイ」

 ニノは引き攣った顔で白い歯を見せつつ笑った。

「全乗組員の命を預かるか、はは」

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