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白桜年代記/救済の魔刀と記憶の番人たち  作者: すえもり
Fragment:2 帝国・北部旧国際空港跡
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WCC8. 黄昏の妖精(3)

 ランスが武器庫から出ようとドアノブを握った瞬間、背後で嫌な金属音がした。

 振り返ると、眼前に拳銃の銃口が突きつけられていた。突然のことに理解が追いつかず、ランスは拳銃と同じ色をした彼女の黒い瞳を見つめ返した。


「部屋を出る前に、私の話を聞いてくれる?」

 レベッカは平板な声で静かに告げた。ランスは思わず一歩後ずさろうとしたが、背中がドアに当たった。

「話? ちゃんと聞くから、それを下げてくれよ」


 しかし、レベッカが掲げた銃口はぴたりとも動かない。

「鮫は、あなたと白桜刀さえ手に入れば、わざわざゼイラギエンと交戦しないわ。私の家族が向こうの船に乗っているの。このまま戦ったら、みんなも家族も無事じゃ済まない。私も行くから、一緒に来て」


 彼女は淀みなく一息で言い切った。

 もしかすると、この言葉を口にするために何度も何度も練習したのかもしれない。

 ランスは、こんな状況でも自分を俯瞰して見ることができる自分の冷静さを気味悪いと思った。この数ヶ月間で様々な脅威に晒されてきたせいで、傷つくことや死に対する感覚が麻痺しているのだろうか。


「レベッカは鮫の手下なのか? それとも脅迫されてるのか? だったら、艦長に言って何とかしてもらおう」

 レベッカは首を横に振った。

「艦長に言っても、どうにもならないわ。だって、さっき戦闘開始するって聞こえたでしょ? 人質がいるって分かっているはずよ。分かっていて攻撃するって言ってるの。だから相談しても無駄なの」

「本当に、そう言い切れるのかよ」

「私に何も教えてくれないじゃない。鮫の拠点が近いから、脅されても退くつもりはないってことね。私たちが聞かされていない計画もあるみたいだし。ま、そのくらいの用意と覚悟がないと鮫の相手なんてできないわ。私は裏切者だから、家族も含めて消してしまえばいいのかもね」

「そんなことするわけないだろ!」

「どうかしら? 人としてはできなくても、仕事なら実行する人よ。父さんが死んだのも、そのせい。鮫から聞いたわ。軍って、そういう組織なのよ」

「だから鮫の側についたのか……? でもレベッカの親父さんを実際に殺したのは鮫だろ? 騙されてるんじゃないか。俺の家族もみんな殺した奴だぞ!」


 レベッカは拳銃のグリップを強く握りしめた。 

「私は別に、鮫の味方じゃないわ。ただ、家族を養うためのお金をくれるから。遺族年金と私の給料だけじゃ、普通に生きていくことすらできないの。身を売る仕事に就くか、犯罪に手を染めるか、こうやって人を裏切る以外にないのよ」

 レベッカは口を歪めて笑っていた。ランスは何も言い返すことができなかった。

「私を軽蔑する? 父さんなら、他人の命を踏み台にして生きるくらいなら死ぬほうを選ぶし、私を許さないでしょうね。けど……!」


 自分が無力なことは、今までの経験上、ランスにも痛いほど分かっていた。それでも、レベッカが最初に自分に話してくれたことには意味があると思いたかった。船員の誰かに助けを求めたとして、この状況が好転するとは言えない。とにかくレベッカの話を聞かないといけないと思った。何か、自分にできることはないのか。突破口はないのか。


「鮫は話が通じる相手だっていうのか? 自分の目的のために白桜刀の力を使うつもりなんだろ」

「そういうことは知らない」

「じゃあ聞くけど、俺がついて行くって言ったら、どうするんだ? どうやって鮫のところまで行くんだよ」


 レベッカは空いているほうの手でロッカーを開けた。いつの間に持ち出したのか、中は白桜刀が仕舞われていた。

「それ、いつの間に! でもシロタエにも行き先は決められないんだぞ」

「そうね、シロタエさんの力だけじゃできないわ。出口を作る人が必要だもの」

「鮫なら作れるってことか?」

「鮫の部下に()()がいるから」

「番人のこと、知ってるのか!?」


 その時、ランスの背後の扉が開き、レベッカの眉間に赤いポインタの光が浮かんだ。それとほぼ同時に、聞き慣れた無機質な声が、すぐ後ろから響いた。

「ハミルトン、武器を捨てろ。抵抗しなければ身の安全は保証する。事情を艦長に説明しろ」

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