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白桜年代記/救済の魔刀と記憶の番人たち  作者: すえもり
Fragment:1 帝国・南部国境支部局
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WCC1. フライアー/雪山登山 (3)

 二人は予定時刻より一時間ほど早く飛行場に着いた。


 伝令神ヘルメスの羽根靴の空軍の紋章が輝く飛空艇は既に着陸しており、物資を搬入していた。


 ランスとアーノルドの姿を認めた少女が、蜂蜜色の長い三つ編みを揺らしながら走り寄ってくる。


「隊長! ランス! よかった、間に合ってくれて」


「ホントだよ。なんでこんな過密スケジュールなんだ」


 ランスは少女、レベッカから借りていた護身用の拳銃を返した。


「そうねえ……文句は艦長に言って」


「僕に言われてもなあ。うちの秘書に言ってくれないか」


 背後から呑気な声が聞こえ、ランスはゲッと言って振り返った。


「やあ、お帰り。無事で何よりだ」


 ダークグレーの軍服がいまいち似合わないうえ、肩書の割にずいぶんと若い赤毛の艦長は、人懐こい笑顔で微笑んだ。


 彼の正式な肩書は、帝国南部国境支部局長だ。だが、艦長はあまり支部局にいない。月の半分以上は、このゼイラギエンという名の銀色の飛空艇に乗っている。ランスにはよくわからないが、国境の揉め事を未然に防ぐために巡回しているのだという。


「雪山での『巡礼』はどうだった? 最高峰の景色を堪能できたんじゃないか。街で何かお土産買ってきてくれたかい?」


「いやいや、そんな時間ねーっすよ」


 アーノルドはバックパックをゴソゴソと漁ると、小包みを出して艦長に手渡した。


「おや? 気が利くね」


「さすが隊長!」


「いつの間に買ってたんだよ」


 アーノルドは返事せず、「睡眠薬だ」と言った。艦長は「それって甘いほう? 不味いほう?」と尋ねた。


「開ければわかる」


 アーノルドは大股で飛空艇に向かって行った。


「ランス、君もすぐ乗ってくれ。積み込みが終わり次第出発する」


「次はどこへ行くんですか?」


 艦長は「お楽しみ」と言うと、小包みの中から出した丸いチョコレートを一粒ずつランスとレベッカに渡した。


「寒いし、お腹も減ったろう。二人とも、食堂で夕飯を食べておいで。今夜はメイとアウグスタの絶品カレーだよ」


「ありがとうございます」


 レベッカは嬉しそうにチョコレートを頬張った。


「あー、艦長、そういや鉄道のメシ、ステンさんの言う通りゲキまずでした」


「牢屋メシよりまずかった?」


「どっちもどっちです。作ったやつ、材料を組み合わせただけ」


「そうか。じゃあアルビオン料理と大して変わらないな。今度、鉄道で働いてる知人に伝えておこう」


 艦長は笑うと軍服のポケットに小包みを仕舞い、南部支部局長に挨拶してくると言って、物資搬入車のほうに歩いて行った。


「行こ、ランス」


「おう」


 チョコレートをポケットに入れると溶けるんじゃないかと思いつつ、ランスはもらった一粒を口に入れた。


 チョコレートは両親が生きていた幼い頃くらいしか食べたことがない。決して安いものではないし、歯にも悪いからとあまり食べさせてもらえなかったので、噛まずに大事に舐めた。アーノルドは一体どこで買っていたのだろうか。駅の売店かもしれない。なぜチョコレートが睡眠薬なのかはよく分からなかったが、この甘さはホッとするからかもしれないと思った。






 ***おまけのNGシーン(本編とは関係ありません)***


「牢屋メシよりまずかった?」


「どっちもどっちです。作ったやつ、材料を組み合わせただけ」


 ランスは食堂車について語った。赤字だけど適正価格にすると法外な値段になって誰も買わないから仕方なく現状維持してるとかなんとか、日が()ずる東の国でも昔はトワイライトとか色々あったけど、なくなっちゃったからここで乗れてラッキーだった、でもやっぱメシはまずかった、つーか今回は間に合ったけど、ここの鉄道は二時間も遅れることが普通ってのはおかしい、ルーズすぎる! でもそこがまた魅力で……


 艦長は額を押さえた。


「ランス……君もか……」


「え?」


「最近拾った若いメンバーが、どうもみんな重度のオタクなんだ」


「そうなんですか?」


「みんなジ◯リやアニメが好きだし、君は鉄ちゃん、ベッキーは銃、モニカはメカ、ルガーはミリタリー、アウグスタはR15指定の残虐描写ホラーゲーム」


「最後やばくないですか? 確かお医者さんですよね? そんな風には見えなかったけど」


 艦長は虚ろな目で笑った。


「くく……君もいつか分かる日がくるよ」

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